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白黒灰色:〔私は〕

注意。


主人公がヘタレ感MAX。

「ミコトさん、くじがありますよ」

「魔理沙、くじ引きだ。やってみないかい?」

「「…………」」


 これで魔理沙と鉢合わせるのは数えて五回目。気まずいなんてもんじゃない。事実、口を開いているのは霖之助と藍の二人だけ。僕と魔理沙は、互いに視線を合わせることもなく、ただ黙ったまま立っている。


「じゃあ、次はあちらに」

「魔理沙、あっちにはまだ行ってないね」


 図ったかのようなタイミングで腕を引っ張る藍と、同じく霖之助に手を引っ張られていく魔理沙の姿。

 抵抗せずに引っ張られていく。別段、藍の引っ張る力が強いわけではない。ただ、僕が成されるがままに引っ張られているだけだ。 ちらりと横目で見てみれば、魔理沙もまた僕と同じように反対方向へと引っ張られていっていた。



 ――魔理沙は、僕が藍と一緒にいることが気にならないのだろうか。


 ――僕は、君が霖之助といるだけで、こんなにも腹が立っているというのに。



 原因が僕にあることは忘れていない。謝るべきはこちらの方だと、それが正しいと思ってはいる。

 けれど、なんだろう。

 今の魔理沙を見ていると、何故だか謝ることが筋違いのことのように思えてしまう。

 魔理沙が僕に興味を無くしていたなら、謝ることに何の意味があるのだろう。興味の無い男に謝られたところで、彼女に何の得があるだろう。


「……っ」


 ――違う、違うだろう。


 何を考えているんだと、自分で自分を叱咤する。

 卑屈な考えばかりしてしまう。言い訳じみた自己中心論なんて、何の意味も有りはしない。

 意地を張ってるのは僕の方だ。だから、僕が素直に謝れば、きっと全てが解決するはずなんだ。


「おっ、見ろよ霖之助。これなんだ?」

「うん? ……あぁ、これは『あめりかんくらっかー』というものだね。どうやら、遊び道具のようだけど……」


 二人は端から見ていても、とても楽しそうにしている。感情なんて、読むまでもないくらいに。

 そして僕は、そんな二人を見ているだけで、言い様の無い感情に囚われる。

 許されるなら二人の間に割って入って、その仲睦まじい空気をぶち壊してやりたい。


 ねぇ、魔理沙。

 君は、僕と藍を見て何を思ってるのかな。何か、思ってくれているのかな。


 君にとって、僕は……。







「ぬぐぐ……あんの女狐、いつまで腕組んでんだよぉ……!」

「こらこら、あんまり露骨に見るんじゃない。ばれてしまうだろう」


 霖之助にそう言われ、渋々と視線を前の出店に向ける。

 露骨に見たらばれる? 何を言ってんだ、本当にアイツがこっちの視線を探ろうとしていたなら、どんなに私が気配を消そうと視線を向けた瞬間に気付かれるに決まってる。

 なのにアイツが何も言ってこないのは、単純にこちらを気にしてなんかいないのか、それとも気付いていてわざと無視を決め込んでいるのかだ。アイツのことだから、変なことを気にして私に近付けないでいるのかもしれない。

 何にしろ、馬鹿野郎には変わりない。私がどんな思いで遠巻きからお前を見ていると思ってんだ。お前の隣は私だけの場所だというのに、それを一時的とはいえ奪われて。尚且つ私ですらしたことがない腕組み歩きをまざまざと見せ付けられて。

 許されるなら、今すぐにでもあの狐をぶっ飛ばしてやりたい。幸せそうな顔しやがって。普通に楽しんでいるみたいだが、生憎私は欠片のチリ程も楽しくない。霖之助には悪いが。


「…………くそ」


 足下の石ころを蹴り飛ばす。

 こうして悪態をつけるうちはまだマシだ。怒って愚痴って、そうしていればまだ気分が紛れる。

 けど、それももう、長く持ちそうにない。

 あの日からこうしてずぅっと考えないようにしていたが、こうして彼の姿を見てしまったのが悪かった。


 紛らわせて。


 顔を背けて。


 心の奥に閉じ込めていたはずの感情が、きっちり閉めたはずの扉を蹴り破る勢いで飛び出そうとしているのがわかる。


 歯を食い縛った。


 あの灰色の背中を見ているだけで、胸が熱くて仕方がない。




 ――寂しいんだ。



 ――寂しいんだよ、ミコト。



 ――お前は、お前は……私を、何回泣かせりゃ気が済むんだよ。私ばっかり泣いてたら、なんだか馬鹿みたいじゃないか。私ばっかりが必死になってるみたいじゃないか。



 ――でもいいよ。それでもいいよ。馬鹿でもいい、必死なんだよ。



 ――泣けば振り向いてくれるのか?



 ――叫べば声を掛けてくれるのか?



 ――それなら泣くよ。叫ぶよ。泣いて叫んでやるからさ。



 ――頼むから、こっちを見ろよ……ミコト。










「ミコト」

「?」


 彼が声を掛けてきたのは、完全に夜が更けて、歩き疲れた僕が一人で座り込んでいた時だった。

 行動していたらどうにも魔理沙とかち合ってしまう。だったら行動しなければいい。そんな卑屈な考えから、神社の境内でぼおっとしていた。

 祭自体はまだまだ盛況というもので、最初は何故彼がこちらに来たのかがわからなかった。

 あれだけ楽しそうにしていたのだ、最後まで二人で楽しめばよかったものを。そう言った僕を見て、彼は小さく笑う。


「君はそれでいいのかい?」


 神妙な面持ち。

 僕は答えようとはしなかった。

 答えられなかったわけじゃない。ただ、口を開くのも億劫だったのだ。

 何も言わない僕に、溜め息をついたのは彼。呆れているのだろうか。だったら、いっそのこと殴り飛ばしてくれないだろうか。そうすれば、このモヤモヤも少しは飛んでいってくれるかもしれない。

 そんなことを考えながら、僕は目の前に立っている彼――霖之助を見上げている。


「……もう一度聞くよ。君は、それでいいのかい?」


 祭の灯りは、こちらまで届いてこない。故に、眼鏡の向こうの彼の瞳は拝めない。

 僕は答えなかった。

 答えたくなかった。

 だから、黙ったまま何も喋らない。

 あわよくば、彼が呆れてここから去ってくれたなら――そう思い、首を軽く回し――



「――残念だ」

「っ!?」


 霖之助がそう呟いた瞬間、ポツリと何かが鼻の頭に当たった。

 身体がぶるりと震え、慌てて神社の中に身を隠そうとするものの、いつからか放たれていた刃が喉に突きつけられていて、僕の行動は制限される。


「……何のつもり?」


 霊験灼かな刃と、身体を濡らす雨に身体を震わせながら、僕は乾いた唇を動かした。

 霖之助は無表情のまま、刀の刃を返してぐいと僕の喉に押し付ける。


 そして、信じられない言葉を口にした。










「……どういうことだよ」

「言った通りだ。ミコトさんは私が貰う」

「ふざけんなよ……何が貰うだ、アイツは私の!」


 私の。

 そこまで言って、私の口は閉じてしまった。思わず歯を噛み締めて、けれど強く目の前の狐を睨み付ける。

 当然だ。コイツはいきなりとんでもないことを言い出した。流石の私も今の台詞は無視できない。


「私の……? 今更おかしなことを言う。『私のモノだ』と続くなら尚更だ。本当にそう思っているなら、何故もっと早くに言いに行かない。チャンスは幾度となくくれてやったつもりだぞ?」

「ぐ……そ、それはアイツが……アイツが、何も言ってこないから……」


 言ってから、惨めな気持ちに襲われる。

 なんだかんだ言って、怯えていた自分を認めてしまったような気がした。

 もし、話し掛けても無視されてしまったら……そんな私らしくもないネガティブな考えが、心のどこかに巣くっている。


「そもそも、お前は協力してくれるって!」

「……それが、最初から嘘だったとしたらどうする? 仲を取り持つフリをして、逆にお前とミコトさんを引き剥がす……。私が最初からそれを狙っていたとしたら……」


 クスクスと悪魔のような笑いを見せる女狐に、本能的に八卦炉を向けていた。

 煮えたぎる感情を魔力と共に込め、


「遅いな」

「なっ」


 ――放たれたマスタースパークは、叩き落とされた八卦炉ごとスキマに落ちていく。


 狐は私の首を掴むと、ぐいと身体を近くに引き寄せてきた。

 金色の瞳が、真正面から私の顔を見据えている。


「苦しいか?」

「ぐ、うっ……」

「苦しいだろう?痛いだろう、辛いだろう?」


 じわりじわりと、少しずつ首が締め上げられていく。

 反抗しようにも、純粋に力が違いすぎて反抗のしようがない。

 目の前のコイツはそんな私の姿を楽しんでいるようで、歪んだ笑顔を浮かべている。

 私は反射的に、アイツの名前を叫ぼうとしていた。

 しかし、声が出ない。私が叫ぼうとした一瞬だけ、狐が力を強めていたのだ。

 痛みで涙目になるのが自分でもわかったが、それでも怒りは沸き上がって狐を睨み付ける。


 ――だが。


「今、誰の名前を叫ぼうとした」



 ――心臓が、鷲掴みにされたような気がした。


 先程までの意地の悪い笑みではない。

 憎らしげに歪んでいる口元からは鋭い犬歯が顔を出し、金色の瞳は瞳孔が縦に大きく開いている。

 野性的とさえ言えるその表情は、普段のコイツからは想像も出来なかった。


「答えろ。今、誰の名前を叫ぼうとした」

「ぐ……う……」

「答えろッ!」



 ギリギリと首を絞めらられていく。


 ――なんだか、段々と本当に腹が立ってきた。


 どうしてお前にそんなことを答えなきゃいけないんだ。

 お前は私の何だ。アイツの何だ。私とアイツの何を知っている。


 目の前がチカチカしてきた。加えて頭に昇った血が私の視界を極彩色に彩った。


 瞬間、


「熱っ……!?」


 ジュウ、と何かが焼ける音。私の首を絞めていたアイツの手の平が、煙を立てて『焼けていた』。

 当然、私の首も大火傷を起こしているわけだが、そんなことは今に限ってどうでもいい。

 今は、とにかくコイツに言いたいことがある。


 私は大きく息を吸い込んで、胸にある内の全てを叫ぶ。


 私は――――

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