6 四重奏(カルテット)の勉強会
「響司、これどういう意味? わかんねー」
「ああ、これは……」
放課後の教室。
机を向かい合わせにくっつけて、勉強会の真っ最中だ。
隣に座る沢が本日三度目の質問をしてくる。
僕の向かいでは、華音が国語の教科書を手にうなっている。
「なんで、ひょうたんからコマがでる?」
日本語苦手って言ってたもんな。
「ううう……」
華音の隣に座る葉月も英語の教科書と戦っていた。
四人でテスト勉強をはじめてはや三十分。
煮詰まりすぎた沢が立ち上がった。
「あー、喉乾いた。響司、飲み物買ってこようぜ」
「そうしようか。気分転換にもなるし」
僕もカバンから財布を出して席を立つ。
「葉月ちゃん何飲む?」
「私はお任せで」
葉月は迷わず答える。
「華音はどうする?」
「えと、あたしは、……どれでも、いい」
僕が聞くと、華音は慌てて財布を出して、百円渡してくる。
この学校の玄関前に設置されている自動販売機は学生のために、全品百円になっている。
「私は細かいお金ないから、明日返すね」
「りょーかい。行こうぜ響司」
教室に華音と葉月を残して玄関に向かう。
他の教室にも何人かテスト勉強で残っているのが見える。
自販機のまわりに誰もいないのを確認して、やんわりきいてみる。
「沢。せっかくだし、葉月に聞けばいいのに。仲良くなりたいって言ってたじゃない」
「あー、そ、それは、ええと……」
沢は目を泳がせて、照れ笑いを浮かべる。
「クラスが違うから、机並べる機会自体がないじゃん。だから、同じ空気を吸って見ていられるだけで尊いというか」
「ピュアか」
恋に悩む高校生というよりは、アイドルの推し活をする人の言葉に聞こえる。
ライブ会場で生歌聞けるだけでごはん三杯いける、みたいな。
「まったく。なんのために四人での勉強会を提案したんだか」
「いんや、勉強会を提案したのは葉月ちゃんだよ。俺は最初、四人で飯行こうぜって言ったんだ。けど、阿部が「あたしはキョウジと勉強するから二人で行くといい」って断ったんだ。そしたら……」
「テスト期間だし、ご飯に行くんじゃなくて、四人で勉強しようって言い出したわけだ」
なにしてんだろ、葉月。沢と二人でごはんにいけばよかったのに。
まあ、葉月のことだから、「いきなりふたりきりは緊張するから無理だよー!」なんて考えていそうだ。
僕がまえに協力するって言ったから、堂々と巻き込んだわけだ。
「悪いな。本当は阿部と二人がよかっただろ」
「そうだな」
「否定しないんかーい!」
とんできたチョップをかわして自販機にお金を入れる。
ブラックコーヒー二本。
熱々の缶をブレザーのポケットに入れる。
「……ま、響司を紹介してよかったよ。大切にしてるの、見てたらわかるし」
沢は牛乳とコーラを買って、牛乳でお手玉する。
「ほら、阿部はあの見た目だから目立つだろ? 中学んときは女子に目の敵にされてたんだ。そのなかのリーダーがさ、好きなやつにコクったら『阿部の事好きだから無理』って振られたらしくてさ」
「えぇ……、それって華音は何も悪くないんじゃ」
沢はそのときのことを思い出したのか、かおをしかめる。
「俺もそう思う。……だから響司といる阿部が楽しそうで、よかった」
最初会ったとき華音が自信なさげだったのは、そういう経験があったからなんだ。
きっと華音も、話したくはないだろう。
「うん。僕も、華音には笑っていてほしい」
これは本心。仮の恋人だからとかそういうのを抜きにして、そう思う。
1-4教室に戻ると、葉月と華音が教科書から顔を上げた。
「はい、葉月ちゃんこれ」
「……ありがと、沢くん」
葉月はぎこちなく笑ってコーラの蓋を開ける。
「華音、これでいい?」
華音にブラックコーヒーを渡すと、華音はくったくなく笑う。
「Danke! すごいね、キョウジ。あたしブラックコーヒー好きって言ったことないのに。DerTelepathなの?」
超能力のドイツ語かな。
こどもみたいにはしゃぐのがなんだか可愛くて、話に乗っかる。
「勉強中だから、華音のしかわかんないけど」
「さっすが彼氏ー。愛の力ってやつですかねー」
沢が僕らを茶化す。
他意がないとはいえ、沢には言われたくなかっただろう。華音はちょっとだけ寂しそうに返す。
「そう、キョウジすごいのよ。しょうかいしてくれて、ありがとねサワ」
「おう」
沢は牛乳パックをあけて気づいた。
「あ! ストローねえじゃん!」
「自販機にパック飲料専用のストロー取り口あっただろ。とり忘れたのか」
「うぁぁあ、このまんまじゃ飲めねぇ!」
半泣きで沢が駆け出して行くのを、笑って見送った。




