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9. 露国占領軍の釧路上陸部隊

(露国占領軍の釧路上陸部隊)


 去年の春のことだった……

「ウェルカム、ウェルカム、釧路上陸部隊の皆さん、釧路市は皆さんを歓迎します……」

 露国兵士、それぞれの無線機に釧路市からの歓迎の挨拶があった。

 その一か月前には、テレビ会議で釧路市は露国軍に対して街の明け渡しを宣言している。

 その上、釧路港からの上陸を認め、野営地まで準備して指示をしていた。

 それはまるで、勝海舟が行った江戸城無血開城に似ている……

「釧路市市長の犬神です。街は露国として、釧路市の占領を認めますが、街の財産、施設は、民間の者ですので、それは認めて欲しい。その代わり、無駄な争いは回避できます露国の目標は本土でしょう。本土で十分戦ってください。釧路市は応援します」

「釧路方面占領師団長のチャイコフ大佐です。それは、助かります。条件を飲みましょう」

「結構……、それと、民間人への略奪、暴行は、日本国法と言うよりも国際法で禁止されています。それを犯した兵士は刑法として逮捕監禁します。もちろん、民法で賠償の対象にもなります。いいですね……、その趣旨を兵士諸君に言い聞かせてくださいよ。その代わり、街での買い物、娯楽は、提供します。もちろん、お金を払っていただきますが、これも民間ですので、クレジットカードは世界共通ですので使えます。インターネットも使えます。民間住宅を接収する場合は、家主に家賃をお払いください。民間の物ですので、今、言ったことを守ってもらえれば、なに不自由なく暮らせるでしょう……、住民も協力することでしょう……、今後の健闘を祈ります」

「承知した……、市長の配慮に感謝する」

「上陸後、是非、本庁舎にいらしてください。詳しい計画をお聞かせください。私は、庁舎にずっといますから、職員も皆、残っていますので困りごとがありましたら善処します」

「感謝します……」

 そんな話し合いが事前に行われていた。

 その一か月後、露国は上陸艦、巡洋艦、戦艦、航空母艦と五万の将兵を連れてやって来た。同時に根室市と網走市でも同じように、根室港、網走港に五万の将兵が上陸を果たした……、国防軍は、何の攻撃もしなかった……

 ただ釧路と根室、網走の郊外に国防軍は、幾つかの前線基地を築いて、来たる有事に備えていた。


 港では、航空母艦から戦車を下ろそうとしていた。

「ちょっと、ちょっと、戦車なんかで港は走れませんよ……、重機の車載車を持ってきますので、それに乗せて運んでください……」

「承知した……」

「でも、車載車はそんなに数が無いから、日にちが掛かりますよ。野営地まででいいんですね……」

「とりあえずは、お願いしたい」

「運送代は払ってもらいますよ……、まとめて……」


 一週間後……

 街は、露国の兵隊で賑わっていた。その姿は、まるで旅行客の姿だった。

 もちろん、スタバもマックもコンビニも露国の兵隊で溢れていた。

 露国の士官たちは、高級ホテルを接収しようとしたが、その家賃の金額に驚いて、宿泊に変えて滞在を決めた。

 今は、皆、異国の地を楽しんでいるようだった……


 二週間後……

 兵員と物資を下ろした上陸艦隊は、ひとまず母国に帰り、次の物資の補給の任に当たる予定だった。

「大佐……、やられました。船底に穴をあけられました……」

「何だと、魚雷か……?」

「いえ、ただ穴をあけられ、機関室が浸水しています。今、隔壁で封鎖していますが、出港できません……」

「そんな穴など塞げばいいじゃないか……?」

「人力でどうにかなるような穴ならやりますよ。ドックに入れないとどうにもなりません」

「どの船をやられたんだ……?」

「全部です……」

「何だと……、……」

「日本の国防軍のゲリラにやられました。根室、網走も同じ状況です……」

「すぐさま本国に打診、救援要請だ。こんな時に攻められたら、袋の鼠だ。第一級戦闘態勢だ。浮かれている奴らを呼び戻せ。俺は市長に逢ってくる……」

 港では、三十度傾いた上陸艦隊が桟橋から見える。

 チャイコフ大佐はホテルを出て、庁舎に向かった。


 市長室の中では、デスクの前に犬神市長が悠然として座っていた。

「市長……、これはどういうことですか……? 我々の乗ってきた船は、出港できません」

「大佐……、まー、まー、落ち着いてください。今、コーヒーでも持ってこさせますから、港の騒ぎは、こちらにも連絡がありました。うかつでしたな、国防軍もやりますな。でも、怪我人一人出ていないじゃーないですか。これは、ベガの仕業ですよ……」

「ベガ……、ベガか……?」

「大佐も、ご存じのはず。航空機もミサイルも使えない。コンピューターの入っている道具は何一つ使えない。その中で戦争をしているのですから……、船を止めることなど、朝飯前でしょう。ただ、ベガを作ったのは誰でしょう……? 人命尊重……、人の命を第一に考えている。見事な作戦じゃないですか……」

「市長は、どちらの味方ですか……?」

「私は、もちろん、大佐の味方ですよ……、貴方がたが来てくれたお陰で、最果ての街が、こんなにも、うるおっています……、素晴らしい経済効果です。何も心配は要りません。安全は保障します。食料も供給します。ただし、お金は払ってもらいますけど……、今までと同じように、楽しんでいってください……」

「国境地帯の国防軍は攻めてこないと言うのですね……」

「攻めて、こられないでしょう。この街は、ベガに守られていますから……」

「どういうことですか……?」

「貴方たちに、占領されて欲しいと言ったのは、ベガなんですから……」

「どういうことですか……?」

「なにね……、貴方がたとのオンライン会議の前に、ベガから電話があったんですよ。女の人の声でした。心配は要らないから協力するようにと……、凄いでしょう。電話が掛けられるんですよ。何処からの発信か調べました、この庁舎からでした。ここはすでに、ベガに乗っ取られているんですよ。貴方がたが来る前から……」

「乗っ取られて、喜んでいる市長など、初めて見た……」

「そうですか……、ですから、帰れない以上、この街の住人になったつもりで、暮らしてください。今日の出来事で分かったのですが、多分、戦争にはならないでしょう。ベガがいる以上……、大佐も楽しんでくださいよ。ホテルの居心地はどうですか……? 一泊十万円の部屋だそうですね。日本食はお口に合いますか……?」

「長期滞在なら、もっと安い部屋にするよ」

「あ、それから、……、無理をしないでくださいよ。多分、戦車は動かないと思いますが、兵隊たちに銃剣で、国防軍に突入とか……」

「……、……」

 市長は、旧日本軍の玉砕の話を暗示させた……

 大佐は、それには返事を返さず……、コーヒーも飲まずに帰って行った。


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