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30. 戦いは理不尽なことから始まる

(戦いは理不尽なことから始まる)


 あれから北海道の首長会議がオンラインで開かれ、北海道独立国家構想が話し合われた。

 北海道の東側は賛成だが、本土に近い西側は反対だった。

 北海道が二つに割れた。

 この日の会議は、それぞれの首長の意見を聞くことに留まった。

 いきなり独立と言われても、一市長や議会だけの判断でできるものでもなかった。

 住民投票すると言う意見が大半を占めた。

 僕は自分のしたことに戸惑い、考えあぐねていた。

 北海道が独立しても何も変わらないことは、目に見えていた。

 国防軍や露国軍を北海道から追い出しても、世界は平和になるのだろうか?

 ことの始まりは、地球の温暖化だとすると、北海道が独立しても意味はない。

 世界が協力して温暖化を止めなければならない。

 しかし、横島局長は、手遅れだと言った。

 宇宙にエリートだけが移住するしかないのか……?

 もし、エリートだけを宇宙に放り出せば、無欲の一般市民だけなら、温暖化は止められるのではないか……?

 しかし、無欲に見えた市民が欲張りに変貌するのは、今までの歴史の常なのだ。

 だとしても、無欲の市民に問い掛けなければならない。地球を取り戻そうと……


 首長のオンライン会議が終わった二日後……

「ヒロ、大変よ……、露国軍が帯広に攻めて来るわ!」

「……、本当……、早いね」

「それで、チャイコフ大佐が、庁舎まで来て欲しいと言っているけど……」

「了解……、すぐ行くよ!」

「俺も行くぞ……、国防軍を止めないと……」、リュウが着替えながら言った。

「リュウ、横島局長に連絡してくれ。ベガが対処するから国防軍は手を出さないようにと」

「わかった!」

「私、車を出すわ……」

 ヒカルさんは、急いで駐車場に向かった。

 店舗のあるビルと駐車場は離れていた。

 朝早くから、朝食も食べずに、みんな慌ただしく動いた。


 釧路市長室には、チャイコフ大佐とフラノフ少佐もすでに来ていた。

「どうしますかな……?」、市長は重い顔つきをヒロたちに向けた。

「今回の戦隊は、電子機器を一切積んでいないそうだ。大戦中の目視の攻撃と一緒だ。ベガはどう立ち回る……?」

「露国の戦隊を止められないと分かれば、破壊するでしょうね。多分……」

「人的被害が出るぞ」

「最小限に止めるはずです」

「我々、釧路部隊にも出撃命令が出た。駐留経費も即刻振り込まれた。釧路の国防軍を攻めろと言うことだ」

「そんな事をしなくても、帯広には国防軍はいませんよ」リュウが歯痒そうに言った。

 チャイコフ大佐は、窓の外を見ながら、悲しそうに言った。

「釧路の国防軍が、帯広を守りに来るのを防ぐためのようだ」

「どうするんですか……? 攻めるんですか……?」

「いや、……、もういい。ここで兵士は、みんな幸せに暮らしている。それなのに、わざわざ戦って死ぬことはない。ただ、幸せに暮らせるのなら、日本でもない、露国でもない、独立国家に協力する」

ヒロは、叫んだ……

「その思いは、きっと裏切られないと思います。べガ……、テレビに帯広に向かっている露国軍の艦隊を写してくれ」

「了解です……」

 自動的に市長室の大型テレビが作動して、衛星からと見られる露国艦隊が映し出された。

「え、えー、……、総合受付に電話しなくてもベガに通じるんですか?」

 市長は驚いて、ヒロを見た。

「あれは、ほんの演出で、初めから、この部屋が盗聴されていたと知ると気持ち悪いでしょう……」

「そうですが……、……」、市長の納得がいかない苦笑い……

 リュウが真剣な表情で市長を睨む。

「そんなことは、今更どうでもいいことだ。テレビを見ろ、これは数が多い。あれは空母か? まだ空母を持っていたのか……?」

 テレビには、前方に駆逐艦二隻、その後ろに航空母艦一隻と左右に戦艦と巡洋艦、後方に揚陸艦が三隻、その後ろに補給艦が二隻と連なる艦隊だった。

「近年、華国が空母を量産した事に合わせて、露国も数を増やした。でも、あれはヘリコプター運用艦だ。でも、垂直離着陸戦闘機も配備して来ているだろう」

「帯広は内陸の都市だから、航空機がなければ攻め落とせないと考えたのでしょう」

 市長が真面目な顔で言った。

「戦闘ヘリはやっかいですね。墜落すれば兵隊は死にますよ」

「それが、戦争だ。人と人との殺し合いだ。どれだけ人を殺したかが、勝敗を決める……」

「残酷ですね。戦う兵士が、哀れで悲しいです」

 リュウは、それには関心がなさそうで……

「でも、これは何処だ。もう日本の排他的経済水域の中に入っているんじゃないのか?」

 それには、ベガが答えた……

「入っています。海岸線から二百キロです。百キロで撃破します」

「ちょっとまった……、早くないか……? 艦隊は、無線通信なんかしてないか、こちらから戦いをやめさせるような通信はできないのか……?」

「出航以来、一度も交信していません。多分、無線機を搭載していないのでしょう」

「凄い念の入れようだな」、リュウが呆れ顔で言った。

「わかる気がするよ……」、盗聴のことが気になったのか市長が納得して言った。

「どうするんだ。百キロなんて、二時間もすれば到達するぞ」

 リュウが、心配そうに言う。

「あんた、どっちの味方なのよ」

 ヒカルさんが、リュウとは反対に、落ち着いた口調でリュウを睨む。

「両方だよ……」、リュウがヒカルを見て言った。

 大佐は、テレビの画面を見ながら落ち着いていた。

「本当に、哀れなもんだな。上からの命令だけで訳も分からず、敵陣に突っ込んでくる。それを命じた者は、安全な所にいて、高みの見物だ。何も知らない兵士だけが死んでいく」

 大佐は、自分を含めて、安全なところで自国の兵が死んでいく様子を見るのかと思っていた。

「彼らは、正義があると思っているんじゃないの……?」

 ヒカルさんの言葉は、大佐への慰めに聴こえた。

「死んでしまえば、正義も何もかも無意味なことだよ」

「そうね……、本当に、そうね……、死んでしまえば、関係ないものね。ついでに国もね」

 ヒカルさんは大佐を見ていた。その言葉を補う様に、市長が重い口を開いた。

「本当にそうだ……、国家とは何だ。ただ平和に幸せに暮らせるだけでいいじゃないのか。戦って死ぬために暮らしているんじゃない。国家とは住民の幸せの上にあるものだ。住民が幸せでなかったなら国家なんか要らない。やはり、独立だ!」

「市長、あんたやっぱり偉いわ……、顔に似合わず……」、ヒカルさんが市長に言った。

「顔は余計だよ……、結局、ここからでは、どうすることもできないんだな」

「残念ながら……、全てベガに任せましょう」、ヒロは映し出される艦隊を見ていた。

「でも、どうして、今になって帯広を攻めに来たのかしら……?」

「それは、やっぱり宇宙開発基地だろう」、リュウが当たり前のように言った。

「誰かが、シャトル製造が再開したことを露国に報告した者がいるんだ」

 みんな一斉にリュウを見た。

「俺、俺じゃーないよ……」

「スパイは工場の中にもいるようだ。多分……」、チャイコフ大佐の洞察だった。

「そうよ……、至る所に、いるわよね」

「まあー、まあー、それはこっちに置いて、コーヒーでも飲みましょう。今、持って来させますから……」

「帯広市長には知らせたんですか……?」

「連絡を受け、一番に……、でも、もう、すでに知っていました。ベガから連絡があったそうです。それと、艦隊を留める港と救護班を要請して欲しいと言うことでした」

「帯広には、そんな大きな港はないだろう」、リュウが心配そうに言う。

「だから、隣の十勝港を開けてもらうように頼んだそうです」

「十勝港でも無理じゃないのか……?」

「そうですね……、沿岸に置いてでも上陸だけはさせるそうです」

「済まないが、よろしく頼む……」、チャイコフ大佐が頭を下げた。

「変ね……、戦う前から、戦後処理みたいね」

「本当だ……」、リュウも笑って言った。

「露国軍、沿岸から百キロを通過……」

 しばらくして、航空巡洋艦の甲板が慌ただしく動いているように見えた。

 そして、戦闘ヘリが離陸したと思ったが、海に墜落した。

 二機目も離陸したが、まもなく海に墜落した。

続いて三機目も、海に落ちた。四機目は甲板の上で煙を上げた。

 同じ様に甲板に上がっていた戦闘ヘリと垂直離着陸戦闘機が次々に燃え出した。

 航空母艦の左右に並走していた巡洋艦と戦艦の主砲副砲から煙が上がった。

 後方の主砲副砲からも煙が上がった。艦隊は大きく扇を開くように散開した。

 しかし、炎上は、それだけでは収まらなかった。高角砲、機関砲、共に煙を上げた。

 全ての艦船の火器から煙が上がると、艦隊は動きを止めた。

 時間として、一〇分もたたない出来事だった。

 三十分後、誰に示すのか、白旗と救援要請の国際信号旗が上がった。

 間もなく、ベガの声が市長室に広がった。

「チャイコフ大佐……、自国の修理が完了している駆逐艦四隻を救助の任に当たらせてください。曳航しなければ進めない……」

「承知した……」

「このまま、駆逐艦の無線に繋ぎます……」

「感謝します」、大佐は、その場で駆逐艦に命令を出した。

「何だ。いったいあれは……、どこからの攻撃だ」、リュウは悲鳴のような声をあげた。

「戦争がバカバカしく、なってきましたよ」、大佐の言葉だった。

「本当です。ベガを敵に回さなくて良かった」、市長も同意だった。

「彼らは、捕虜何ですか……?」

「いえいえ、帯広の市民でしょう……、これから帯広も賑やかくなりますよ」

「帯広市長の苦悩の顔が浮かびますよ」

「私、帯広に支店を出すわ」

「それは、名案……」

 この日は、市長室で冷めたコーヒーをご馳走になって散会した。

 また釧路では、平和な一日が始まる。


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