二人の夜
もう何時間こうしているだろう。
私は自分にあてがわれた客間のベッドの中で、何度も寝返りを打っては、時折天井に向けて手を広げる。
くるりと手の平を返しては、月の薄明かりに手をかざして、じっと見つめることを繰り返す。
私の中に確かにある魔力。
その存在に気づいてあげられなかった事が、何か申し訳ないような、切ないような、奇妙な感覚が胸の中に広がる。
寝なくちゃ…。
わかっているのに瞼は閉じてくれない。
そうやって時をやり過ごすこと数刻、カサっと衣擦れの音が聞こえた。
「眠れないの?」
耳に馴染んだ声がする。
「アレン…さま?」
「うん、正解」
声のする方へ目を向けると、月の明かりに照らされて、キラキラと輝く銀色の魔法使いがそこには立っていた。
「女の子の部屋に突然ごめんね。あーこういうのアレだね。音もなく現れる……」
「…不審者?」
「そう、それ。悪いとは思ったんだけど、君が眠れないみたいだから、ちょっと様子見に来たんだ」
私は首を横に振る。
「かまいません。本当に眠れなかったから。…パパは?」
「あー、何か研究所から緊急の呼び出しがあって、顔出しに行った」
「くすっ。普通そこは所長が呼ばれるところじゃないんですか?」
「んー、僕は名実共にお飾りだからね。役立たずだから呼ばれた事ないなぁ」
私はアレンさまの口ぶりが可笑しくてクスクス笑う。
「セレス、眠れないなら少し外に出ない?」
「外に…ですか?」
「うん。夜にしか見られない変なものがたくさんあるよ」
「あはは!そんな誘い文句初めて聞きました。変なもの見たいです。ちょっと待って下さいね。ローブ出しますので」
私はアレンさまの気遣いが嬉しくて、クローゼットからローブを取り出し羽織ると、彼の元へ駆け寄った。
「空飛ぶの平気?」
「え?まぁ…」
そう言うより早く、アレンさまは私を横抱きにして、そのまま魔法で窓を開け…飛び降りた。
「ちょっと無理無理無理!いきなりは無理!」
私は目をギュッと瞑って彼にしがみ付く。
「だから、いつも言ってるじゃないですか!先にちゃんと説明して下さいって!!」
「アハハ!ごめんごめん。大丈夫だから目を開けてごらん」
私は恐る恐る薄目を開けてあたりを見渡す。
「うわぁ…!何これすごい…!」
辺りは一面光の大洪水。キラキラ、シャラシャラと空中を無数の光の粒が舞い踊っている。
「これは嘆きの木の花粉だよ」
「嘆きの木?」
「うん。昼間は鬱蒼としてて見るものを絶望的な気持ちにさせるから嘆きの木。こうして月夜の晩だけ美しい花粉を舞い散らして、遠くの仲間の所へ自分の存在を届けるんだ」
遠くの仲間のところへ…。
そう語るアレンさまの横顔は、とても美しかった。




