美しい物語
『美しい物語に変わったんだ』
私はこの言葉に胸騒ぎを覚えた。美しい物語に変わる…?まるで本当は…。
「本当は逆だったとしたら?」
「…え?」
「…本当は、この地には最初から国があって、ただそこに、たまたま〝聖樹〟にならざるを得なかった人がいたとしたら…?」
「…それは、いったい……」
言いようの無い不安が胸を覆う。
アレンさまは大木に手を添えると呟いた。
「彼が、その、聖樹だよ」
ーーー!!
「まさか、この大木が…人だったっていうことですか?」
アレンさまはこちらを振り向き、そして少し寂しそうに言った。
「そして、おそらく、未来の僕だ」
真実、頭が真っ白になるとは今の私のような状態を言うのだろう。
考えなきゃ、何か言葉を、と思えば思うほど、真っ白な世界に全てが吸い込まれていく。
「君が知りたかった話をする。楽しい話じゃない。でも聞いて欲しい」
いつの間にか私の目の前にしゃがみ込んだアレンさまと目が合う。
私は真っ白な心を奮い立たせ、精一杯頷いた。
「最初の異変に気づいたのは、多分今のキース・アーヴィングぐらいの頃だ」
私の隣に座ったアレンさまは、静かに、でもはっきりとした口調で語り出した。
「君が論文で取り上げた魔力過多症…、あれによく似た症状が体に出始めた。知ってると思うけど、僕ら魔法使いの魔力は体の成長とともに徐々に大きくなって、成長の終わりとともに一定化する」
「……はい、それが定型発達だと学びました。たまに大人になっても魔力が増えて、成人の魔力過多症が起こる、と」
「そうだね。僕は子どもの頃は間違いなく定型発達を辿った。まぁちょっと人より魔力が多かったのは間違いない。でも、それも成人する頃には一定になったんだ」
私は頷く。
「僕は自分が魔力過多症だと思い込んで、抑制剤を使った治療を受けた。…でも、薬の量は増えていく一方で、一向に魔力が落ち着かない。…あの頃はちょっと荒れててね、何とか普通の生活を送るために単身でドラゴン退治に行ったり、噴火した火山を氷漬けにしたり、とにかく大量に魔力を消費することで誤魔化していたんだ」
私はアレンさまにまつわる破天荒な伝説をふと思い出す。それが病を抑えるためだったと知ると、途端に物悲しくなってしまう。
「でも段々と抑制剤では通常状態…魔力を体外に漏らさないように閉じることなんだけど、その通常状態を維持することができなくなって、ようやく僕は自分が魔力過多症ではないことを認めざるを得なかった」
アレンさまは立ち上がり聖樹を見上げる。
「それからはさ、ありとあらゆる文献を読み漁り、使える薬は何でも飲んで、やれる実験は片っ端からやった。魔力が回復しないように食べる事をやめ、睡眠もほとんど取らず……。でも、止まらないんだ」
聖樹を見つめるアレンさまの目は、まるで怒りを表すかのように、ギラギラと光っていた。




