必要なもの
広大な敷地に広がる大邸宅。
「…ここは変わらんな」
変わったのは、この邸が鳥籠になったことぐらいか…。
そう皮肉を込めて呟きながら石畳を進む。
セレスが言った通りに、俺は久しぶりにこの邸を訪れた。
…何度通っても自分を拒否したこの邸に。
拒否されなかった所で、自分はこの邸の中では何も出来なかったんだがな……。
少しの緊張感を持って玄関前に佇めば、扉が開く。音もなく。
…まるで主人の元へ誘うように。
「やぁゲオルグ。ここに来るのは何年ぶり?」
明らかに顔色の悪い友が言う。
「大方10年だな。知っての通り」
「そりゃそうだ。悪いね、こんな格好で」
ベッドのフレームに体を持たれかけながら、いつもの口調でアレンが言う。
「いや、構わん。それより……」
「あぁセレス?あの子ってほんと突拍子もないことするよね。自分に向けて睡眠魔法かけたみたい。ここに来たと思ったら枕取り出して寝ちゃったもんだから、隣の部屋に移したよ」
「そうか…迷惑かけたな」
アレンは静かに首を振る。
「あの子には感謝してるよ。出会わせてくれた君にも感謝してる」
いつもの軽口がすっかり影を潜めたアレンの側に椅子を寄せ、じっとその灰色の目を見る。
「アレン、あの子に全部話せ」
「話すよ…いつかは。そういう約束だ」
「そうじゃない。できる限り早く、だ」
友の瞳が揺れる。
「お前の事だから、この3週間検証実験でもやってたんだろ。自分の体調がいいのは10年間の肉体停止の効果なのか、そうじゃないのか……」
「…お見通しってわけだ」
「あれだけしつこくセレスを寄越せって騒いでたヤツがピタっと止まるんだ。バカでもわかる」
「…はは。結果はご覧の通りってわけさ」
そう言ってアレンは顔を壁側にそむける。
「もう一度言う。あの子に全部話せ」
「…僕は消えますって?わざわざ?何のために……」
「そうじゃない。あの子と一緒に次の手段を考えるんだ」
アレンが振り向く。
「一緒に…?」
「あぁそうだ。もう俺たちの10年間の実験結果は出た。しょげてる場合じゃない。研究者なら次の道を探せ」
アレンの瞳が握りしめた拳に落ちる。
「…受け入れてくれるかなぁ。…あんまり自信無いよ」
「あの子は理由と目的が分かれば最大限の成果が出せる。何てったって学院にも通った事なく、13歳で職員試験に通るんだぞ?」
アレンが苦笑いする。
「…自惚れでも何でもなくて、あの子泣くと思う」
「それでもいい。泣かせたらその日の内に笑顔にして帰せ」
「それで最後に失敗しちゃったら?あの子に一生後悔させるだろ?」
「…それでも、それでもな、お前が消えた後に、誰かから聞かされるより100倍マシだ」
アレンが拳を開いてじっと手の平を見つめている。
「それにお前が言ったんだぞ。魔物は本能的に自分に必要なものがわかるって。俺にとっちゃお前は10歳の時から魔物みたいなヤツだったよ。相当タチの悪いな」
そう言えば、アレンが口端を上げてニヤッと笑う。
「言ってくれるねぇ、過保護モンスターが」
「おう何とでも言え。ポリシーは曲げん!」
「ハハハ。…本能的に自分に必要なものがわかる…か。何かこう、しっくり来るな。ありがとう、ゲオルグ。よし!それじゃあ次の研究テーマ決めますか!」
「おう、取りあえず大も小も結果は報告しろ」
そしてまた、理不尽に暴れ回れ。




