お願い、パパ
「副所長、お話があります」
私はあの後アレンさまを客間に寝かせると、すぐに研究室に戻って来た。
この事を知らせるべき人がいると思ったからだ。
「…何があった」
「アレンさまが倒れました」
要点だけを簡潔に言う。
副所長はいつもは不機嫌そうに半分閉じている目を見開く。
「何だと?…アイツはどうしてる!」
「…魔力を…私が、取り込んで、今は休んでもらってます。」
副所長は力の入っていた眉をふと緩め、「髪…そうか」と呟いた。
私は半ば確信を持って言葉を紡ぐ。
「…アレンさまは……病気なんですね」
「……………。」
「ご飯食べないし、基本家から出ないし、何より魔力が……」
「それは……」
「いいの、言わなくて。アレンさまが私には教えるべきじゃ無いと考えてるなら、それに従う」
私は副所長の揺れる瞳を見ながら言う。
「でも…副所長はそうじゃない。ただ一人、アレンさまに全てを打ち明けられてる。…副所長だからじゃない。…友だちだから」
私は深く頭を下げて言う。
「だからお願い!私も部下としてじゃなく、あなたの娘としてお願いします。…アレンさまを助けてあげて下さい!」
しばしの沈黙の後、溜息とともにポツリポツリと父が言う。
「……助けてやりたいと…ずっと思っている。アレンだけがどうしてなんだって、ずっとな。でもなぁセレス、俺にはしてやれる事が無いんだ。こうして研究所を回して、アレンが必ず戻って来られるように、祈りながら待つことしか出来ないんだよ」
私はブンブンと首を振る。
「違うの、そうじゃない。アレンさまは、近くにいても、いつも遠い目をしてる。過去を見てるのか、未来を見てるのかは分からない。でも確かなことは、彼はすごく…孤独なの。誰にも本当のこと言わない。いっつも冗談にする。…私にだって……」
私は父の温かい手を取る。
「…あんな風になっちゃったのも、きっと理由がある。私は私にしか出来ないことをやる。だからパパ、パパにはパパにしか出来ない事をやって…。お願い。」
「セレス………」
いつもどこか寂しそうにしてる彼を、同じように寂しそうに見る父。
きっと私では、過去のアレンさまを助けてあげることは出来ない。
彼が自分の弱いところを見せられる相手は、きっとパパだけだから。
「というわけで、2時間後に邸に来て!」
「はっ!?ちょっと待て!俺は邸には………」
「絶対大丈夫!私うまくやるから!」
私は走る。あの邸まで。




