恋敵
呆然とすること数秒、僕はハッと我に返る。
「…とりあえず、役立たせていただきます。本当にありがとうございます」
そう言って箱を抱えて立ち上がり、辞去の挨拶をしようとしたところで、とんでもない声がかかる。
「はい仕事終わりー!はぁ疲れた。あ、ねえねえお茶飲んで行きなよ」
は…?
「適当でいいならすぐ出せるし」
そう言って所長はすごいスピードで魔法でお茶を出してくる。
…これは逃げられない。
はぁ…と小さく溜息をついて、再び席に着く。
「で、何か聞きたいことあるんでしょ?」
この人はとにかく無遠慮だ。
「聞きたいことなんか無いですよ」
「そう?何か顔に書いてあるんだよね。お前は誰だ、何者だ、セレスとどんな関係だって」
「----!!!」
「あ、図星?わっかりやすいなぁ。まだ若いもんね。研究所で上に行こうと思ったら、狸たちの前でそんな簡単に本音見せちゃダメだよ」
「…あなた以外の前ではうまくやれてると思うんですが」
「あ、そう?」
「はぁ……。本人を前にして言うのも気が咎めますが、あなたって変な人ですね」
「それよく言われるねぇ。でも歴代の所長はみんな変人で変態だから」
どんな牽制にも引っかからない、タチが悪いタイプの人間だ。こういう人には遠回しに何を言っても通じない。
「では、単刀直入にお伺いします。あなたとセレスはどんな関係なんですか?無関係とは言わせません。先日のデトパルト家の件だって、あなたにしてみれば些事に過ぎないはずだ。それをわざわざ転移してきて、あまつさえ禁断魔法に近い事までしてみせた」
「ね、スレスレだったよね。あの子ギリギリ生きててくれて良かったよ。犯罪者になるとこだった」
「随分簡単に仰いますが、……全部、彼女のためなんでしょう?…彼女を悲しませたくなかったから」
そう言えば、所長はキョトンとしている。
「もしかして君って物凄く賢い?なるほどね〜、僕そういう風に考えてたんだ。自分の行動の意味はこれから分析しようと思ってたんだよね」
「…はっ?」
「じゃあじゃあ君は?君はどうなの?僕さ、そんなに素直な敵意ってここ最近受けたことなくてさ。すごく興味あるんだよね!」
「………僕はセレスが好きです。初めて会った時から」
もう、後は野となれ山となれの気分だった。
「え…初めてって、何年前?」
「…6年前ですけど?」
今度は所長の口が大きく開く。
「君それヤバいんじゃない?6年前って彼女…えぇと、じゅうに…うわっ、それヤバいって!!」
「200年近く生きてる人が10代の子に執着する方がどうかしてると思いますけどね!」
「う〜ん…何か君、思ってたのと違うなぁ。ゲオルグ寄りで真面目堅物人間かと思ってたけど、将来大物になりそうだ」
「…あなたにそう言われると、大物になった瞬間に人間として終わる気がします」
「ハハハッ!いいねぇ君。何か友人になれそうだ。ま、セレスの事は頑張りなよ。何を選ぶか、どう生きるか、全て彼女の自由なんだから」
「え…?」
何だその返し。どういうことだ?
あと、僕はあなたとは友人になりたく無い。
結局、何が何だかよくわからないまま自分の心根だけを晒す羽目になった。
悔しいけど、今の僕では太刀打ちできない人なのはよく分かった。




