謝罪はとても難しい
「…まったくさー…ほんと何なんだろうね…。僕けっこう長いこと生きてるんだけど、女の子に丸裸にされたのって初めてだよ」
目の前で、ポタッポタッと雫が床にシミを作っている。
「…しかも?顔合わせて数分の?ついでにその数分の間に不審者扱いまでされた相手に?」
シミとシミが繋がって、何か世界地図みたいだな……とか考えている場合ではない。
私は今、色を失くして遠くを見つめる灰色の瞳の持ち主の前で、両膝をついて平身低頭している。平たく言えば、まぁ土下座だ。
バスローブ1枚で椅子に座って黄昏れる銀色の美しい人は、不機嫌さをマイルドな言葉で包んで遠慮なくぶつけて来る。
「…風呂に入れなんて生まれてこのかた言われたことなかったからさー、まぁびっくりしたの何のって。…え、たった10年寝てた間に清浄魔法この世から消えた??って妙な心配したりして……」
この人をお風呂に放り込んだまでは良かった。いや、結果的には良くなかったわけだけども、とにかく普通の人間相手なら何とか言い訳が立つ行動だったと思える。
いや、普通の人間相手でも十分に無礼な振る舞いだったというのは彼をお風呂に放り込んで3分後には気づいてた。
…だって3分後には真顔で彼が出てきたから。
清浄魔法…魔法使いなら当たり前のことなのに、何で思いつきもしなかったんだろう。この5年間毎日魔法使いに囲まれて暮らしてたのに。
何で私ってこうなんだろう。自分の行動の意味を考えること、副所長に教わったばかりじゃないか。
…魔法使いらしく振る舞わなきゃならないのに…。
ごめんなさい、ガードナー副所長…
「……いてる?おーい、ねぇ聞こえてる?」
ハッと顔を上げれば、灰色の瞳がこちらを覗き込んでいる。
「…申し訳ありませんでした。浅はかな行動でご迷惑をおかけしました。本当に私はいつも…」
「いやそんな事どうでもいいんだけどさ、とりあえず風呂の使い方教えてくれる?」
「え」
「せっかくお湯溜まってるんだし、まさか自分に人生初の経験が起きるなんて思わなかったからさ」
「…………。」
「とりあえず不審者の君への尋問は後回しね。逃げようったってそうはいかないから。家中の扉閉めたからね」
なぜこんなことに。
「君ってさー、オーラ見た感じだいぶ若そうなんだけど、本当は酸いも甘いも噛み分けた結構な熟女なわけ?まぁ僕よりは年下だと思うけどさ、魔女は色々巧妙だからね。だとしたら美少女って自称するのも烏滸がましいというか、あ、お湯もう少しぬるくして。あとさー…ペラペラペラペラ……」
いやだから、なぜこんなことに。
この人寝起きのくせによく喋るな、なんてことをぼんやり思いながら、とりあえず失礼な行動の数々のお詫びも兼ねて、私は見知らぬ銀色男の頭を洗っている。




