145.ファーマーさん、勇者だったなら
「魔具:魔物寄せ……強!!」
リリース・リバティのメンバーは高らかに使用する魔具を宣言する。後ろにいる女性メンバーがニヤニヤしながらメニューを操作している。
「なっ……!」
「頭を柔らかくしないとねぇ」
「っ!?」
リリース・リバティのメンバーは自身の頭を人差し指でトントンとするジェスチャーをしながら言う。
「発想の転換だ……レースで勝つための手段は何も自分達が期間中に最高級のオークを入手するだけじゃねえ……! ライバルを蹴落とせばいいんだよ……!」
「っ……! この外道……!」
イルカがリリース・リバティのメンバーを罵倒するように言う。
「外道…………? そうだねぇ、外道かもね……ねぇ……サイカさん?」
「っ……!」
モンスターによるプレイヤーキル。未遂には終わっていたものの、それはかつて彼女も行っていた行為であった。
「サイカさん……? どうしたんだい?」
「…………」
気遣うトンダにサイカは返事をすることができなかった。
その時であった。
[ITEM CRITICAL]
「えっ……?」
魔具:魔物寄せ(強)を使用したであろう女性メンバーが小さな驚きの声を上げる。
「ん……? どうした……?」
「い、いや……アイテム・クリティカルって……」
「は……?」
それは低確率で発生するその回に限り、アイテムの効果が増大する”幸運”である。普通にプレイしていれば何度かは遭遇するため、決して珍しい出来事ではない。しかし、彼らにとっても魔物寄せによりそれが発生するのは想定外であった。
「「「っ!?」」」
やがてアイテムの効果が効き始める。
牧場のそこかしこにモンスターがポップし始めたのか驚きの声や悲鳴が響き始める。
「えっ、ちょ……やばくない……?」
使用したリリース・リバティのメンバーも想定外の効き目に焦りの色を見せる。
「ウゥウ゛ウウウウウ゛ウウウウ……」
「「「っ!?」」」
そして、震源地たるここにもモンスターがポップする。
「は…………はっはははははは! これはご愁傷様ですねぇ……!」
「くっ……」
そこには巨大なオークが出現する。モンスター名は”ロード・オーク”。
プレイヤーはその場で知ることはできないがレベル80(ランクP)という魔王クラスに匹敵する強敵であった。
「それでは、せいぜい無駄な抵抗……頑張ってくれや……!」
そう言うと、リリース・リバティはその場から去ろうとする。
[魔法:デス・ファイア]
「えっ……ぎゃぁあああ゛あああ゛ああああ!!」
「っ!?」
逃げようとしたリリース・リバティのメンバーの一人に強力な炎のエフェクトが発生する。
「も、モリヒコ……!」
強襲の一撃魔法、デス・ファイアの餌食となったリリース・リバティのメンバーのHPはゼロとなり、瀕死状態となった。
「っ…………うわぁああああああああ!!」
恐怖からかリリース・リバティの他のメンバーは腰を抜かしている。
「レイドバトルモードになってる……」
そんな最中、サイカはその事実に気付く。
レイドバトルとはパーティ枠を超えた戦闘モードである。つまり現時点で戦闘に巻き込まれているのは”マスターとサラ”、”トンダ牧場”、”リリース・リバティF”の三パーティということであった。
リリース・リバティのメンバーは瀕死状態である。イベントレイドバトルのレギュレーションではHPゼロ=即死亡であったが、今回はそうではないようであった。
通常の戦闘においてはパーティが全滅したときにゲームオーバー(死)となるが、レイドバトルにおいては即死適用の時とそうでない時が存在するようであり、法則性があるのかは不明であった。
「と、トンちゃん……どうする?」
「くっ……」
トンダもすぐに判断することができない。
判断すべきは大きく分けて二つ。
戦うか、逃げるか。
逃げることにより起こり得ることは、小屋とオークの損失、そしてリリース・リバティメンバーの死であった。
しかし、仮に全てを捨てて、逃げるにしても隙が必要だ。
「まずは……連絡しなきゃ……」
サイカは急いで、メニューを操作する。
ジサンへのこの事態を伝えなければならない。しかし、森深くに行ったはずのジサンがすぐに助けに来てくれることを期待してのことではなかった。
[サイカ:緊急事態。牧場でリリリバが魔物寄せ。いざとなったら私のことは気にせず逃げて]
「ウガァアアアアアア!!」
「っ……!」
そうこうしているうちにロード・オークがサイカらに襲い掛かる。
「ここは私が……!」
そう言って、イルカがサイカとトンダの前に出る。
「イルカさん……!」
「っ……!」
狩人であるイルカは一人、立ちはだかり、ロード・オークとの肉弾戦を演じる。
しかし、それが時間稼ぎにしかならないことは明白であった。
イルカのHPは徐々に減少し、ロード・オークのHPに大きな変化はない。
くっ……勇者だったなら……
サイカは唇を噛み締める。




