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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第5章『執事は諦めません!』
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memorys,93

「それは気になるよね……」


 ショッピングモールのカフェの席につくなり、簡単に状況を聞いた奏が考え込むように言う。記者から言われた些細な言葉。ずっとモヤモヤして心に引っ掛かっていたことを漸く聞けたはずだったのに、前より更に疑念が膨らんでしまった状況にわたしも頭を抱える以外できずにいた。


「お父さんには……やっぱり聞きづらいよね。まして会長となると尚更だろうから」


「そもそも会長になんか簡単に会えるわけないよ。お父さんに聞いてもいいけど、もしかしたら聞かれたくないことかもしれないし……知らないままの方が良かったような気がする。何で余計なこと聞いちゃったんだろう」


 後悔にも似た感情に思わず溜め息を漏らす。そんなわたしの様子を心配そうに見つめる奏と目が合い、慌てて沈んでいた気持ちを振り払う。


「あ、ごめん! せっかく奏と遊びに来たのに暗くなっちゃって」


「気にしない気にしない。亜矢が悪いわけじゃないんだから……よし、ここはわたしのおごりでいいよ。美味しいものたくさん食べて、気分を切り替えよう」


「奏……」


「もしも、亜矢がどうしても知りたいと思ったらわたしが付き添ってあげてもいいし! どんなことでも力になるから、元気だしな」


「ありがとう! うん、もう悩むのはやめだ! 今日を楽しまなきゃ損だよね」


 あまりにも嬉しくて、人目がなければ抱きついていたかもしれない。それぐらいに、奏の言葉は心強くもあり、感涙してしまいそうなほど暖かかった。


「じゃあ、お腹いっぱい食べて、思いっきり遊ぼう!」


「うん!」


 奏は迷わず店員を呼び止める。


「ここのおすすめ美味しいから期待して」


 その言葉通り、テーブルに運ばれたスイーツはどれも本当に美味しそうだった。身体に染み渡るような感動的な甘味の余韻に浸っていたわたしは、ふっとあることを思い出す。


「そういえば、前に言ってた会わせたい人って誰のこと?」


「あっ、そうだったね。それはうちに来てからのお楽しみってことにして……今はこの子たちを堪能しようよ」


「そうだねっ」


 一体誰に会わせるつもりなのだろうと疑問に思ったが、確かに今は奏との時間を大事にしようと、まだまだ手をつけていないスイーツに集中することを決めた。





 スイーツでお腹を満たしたわたし達は、様々なお店を見ながら歩き回り、奏の家へとやってきたのは午後3時を過ぎた頃だった。


「かなり買い物しちゃったね」


 お互い気が付いたら、両手を塞ぐほどの手荷物。一緒に買い物できた嬉しさからだろうか。かなり買いすぎてしまった気だする。


「けど、たまにはいいじゃない」


 奏はウインクして見せた。そんな姿にわたしは笑顔で返す。


「おかえり、随分買い込んできたんだね」


挿絵(By みてみん)


 奏の部屋へと入ろうとした矢先、誰かが後ろから声をかけた。そっと振り向くと、和服を着た見知らぬ男性が優しく微笑みながら立っていた。とは言っても、男性用の和服を着ていなければ危うく女性だと勘違いしていたかもしれない。それほど、彼は美人だった。


(男の人に美人は失礼か……でも綺麗な人)


 小顔で長身、天然なのかくるくるカールする金髪が特徴の美男子。まるで、童話に出てくる異国の王子様のような彼を目の前にして、わたしは完全に言葉を失っていた。


「ごめんごめん、待たせちゃったでしょ? 亜矢、この人が紹介したかった人」


 ぼんやりしていた視界の中に彼が手を伸ばしてくるのが映り、わたしははっとする。


「君が奏の友達だったんだね。俺は御山 譲流(ゆずる)


「え、御山って……え?」


「前に言ってたでしょ? 海外を放浪してる兄貴がいるって。これがわたしの兄貴」


「ええっ!?」


 突然のことに驚愕の声を上げると、譲流さんが優しく微笑みながらわたしの手をそっと取り、握手を交わす。


「元気そうだね。()()()()()嬉しいよ……」


「ま、また?」


「え? 兄貴、もう亜矢に会ってたの!?」


 覚えのないことを言われ、わたしは否定するように顔を左右に振った。


「会ってないよ。今日がはじめてだよ」


 すると、譲流さんは更に顔を寄せ、わたしをまじまじ見つめる。


「あのっ、近いです」


「君の顔はちゃんと記憶してるよ。また会えるって予感してたからね……やっぱり噴水での願い事は効果があったかな」


「え?」


「あの後は、好きな人とはうまくいったみたいだね。噴水で見つけた君とは表情が随分晴れやかになってる……よかったね」


 その言葉にわたしの思考回路は停止した。


 噴水での出来事と言って思い当たるのはフランス旅行の時しかない。しかし、その記憶を共有するのは名前も知らない女性であって、目の前にいる彼ではないからだ。それなのに、どうして彼はまるで当事者のように振る舞うのか。完全に考えるという機能が停止してしまったわたしに、彼はあっさりと謎を明かす。


「フランスで会ったのは僕なんだ」


 だが、更に頭はパニックに陥り、叫ぶこともできないままわたしは立ち尽くすしか他なかった。


「いやー、嬉しいな。こんなに早く会えるなんて」


「兄貴、また変なことしてたの?」


「してないよ。世界を歩いて、魅力のあるものに触れあっていただけさ」


 奏には悪いが、この人は変人ではないのだろうかと頭の隅で思う。こんな人にわたしは悩みを話してしまったのかと、少しだけあの出来事が黒歴史みたいに感じてしまったのだった。

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