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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第5章『執事は諦めません!』
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memorys,92

 新年の騒動も落ち着きを取り戻し、陽太さんは社長業務を引き継いだためか忙しそうにしていた。あの後、晶と弟夫婦は大人しくなり、他の社員に傲慢な態度をとることはなくなったらしい。これでわたし達に嫌がらせすることもないだろうとは思うのだが、あんな事があったこともあり不安は拭いきれないでいた。陽太さんも時期社長の座を下ろされてしまった逆恨みから何かしてくるかもしれないと心配しているようだった。しかし、会長がまた何かあれば次はないと釘をさしたこともあるから暫くは平和だろう。あの記者も晶が雇っていたのだから、もう手を引いたに違いない。


 やっと、平穏の毎日が過ごせることにわたしは安堵していた。


(少し早く着きすぎちゃったな)


 あの騒ぎのあった後、すぐ奏から連絡をもらい、遊ぶ約束をした。初めは奏の家へまっすぐ向かう予定だったのだが、たまには外で会うのもいいのではないかと話が弾み、とあるショッピングモールで待ち合わせをすることとなった。

 待ち合わせ時間よりも20分も早く着いてしまったために、奏の姿はまだない。行き交う人に目を向けつつ、わたしは久しぶりに友達と遊びに出掛ける喜びに心踊っていた。前の学校では友達もたくさんいて、たまに遊びにいくことはあったが、バイトの掛け持ちで忙しくて、周りの人たちと比べるとそこまで多くはなかったかもしれない。そんな経験からか、今の学校ではじめて出来た友達とショッピングなんて思ったら浮かれずにはいられなかった。


 出掛けることが決まったときは、ひとりで待ち合わせ場所へ行くことを周りからかなり反対された。それが陽太さんと神木さんと白藤さんだということは言うまでもない。まだ記者がいる可能性も捨てがたかったせいもあるようだが、この3人はかなりの過保護なのだと痛感させられる勢いだった。しかし、暉くんの助け船もあり、こうしてひとりで出掛けることを許可してもらったのだ。もしもの時のことを考えて、防犯ブザーをあらゆるところに隠し持つことが条件というのが3人らしい。


 鞄にぶら下げた防犯ブザーのひとつを見て思わずおかしくて笑いそうになっていると、わたしの横を誰かが横切る。


「……あ」


 不意に漏れた声に反応して顔を上げると、そこにはあの記者が立っていた。


(うそっ!!)


 一瞬パニックになりそうになりながらも、わたしは彼に見えるように防犯ブザーを掲げる。


「何かしたらこれをならすから!」


 それを見るなり、相手はかなり焦った顔をしながら後退った。


「まてまてまてっ!! 誤解だ!」


「信用できませんっ!! こんな都合よく現れるなんておかしいじゃないですか!!」


「分かった! 確かに信用でいないのは分かる。ゆっくり離れて、すぐ君の視界から消える……だから面倒はよしてくれ」


 防犯ブザーだけでこんなにまで弱気になるものなのかと思いつつ警戒し続けていると、後ろから幼い女の子が駆け寄ってくる。その子は迷いもなく記者の足元へとやってきて、躊躇いもなく彼にしがみつく。


「パパー、なにしてるの? ママが遅いって怒ってるよ?」


 小学生になったばかりぐらいの女の子は、確かに記者を見上げて言った。それを見た瞬間、わたしは自分が勘違いしてしまったことに気が付き、慌てて防犯ブザーを鞄裏に隠す。


「ごめんごめん、すぐに行くからってママに伝えてもらえるかな。今お父さんの知り合いにご挨拶していたところなんだ」


「……お友だち?」


 そう返しながら、女の子はわたしの顔を窺い見つめる。どう反応していいか困ってしまい、わたしは敢えてなにも言わずに笑顔で返した。


「そうだよ、お友だちだ。すぐに戻るからママのところで待っていてくれないか?」


「わかった。すぐ来てね」


 そう言って女の子は少し離れたところに立つ女性の方へと駆けていく。それを見届けると、記者は気まずそうな表情を浮かべてわたしへと目線を向ける。前に会ったときとは随分印象が違い、わたしは気が抜けたように警戒心を解いた。


「本当に違うんですね。疑ってごめんなさい」


「いいさ。そういう嫌われる職業の身だ。こういう対応には慣れてる」


「あの……わたしのこと」


「もうあんたからは手を引いたから安心しろ。朝比奈会長からかなりの圧力をかけられたから、当分あんたには手を出すことはないよ……別件でスクープがあれば話は別だけどな。それが俺の仕事だから悪く思うなよ」


 “じゃあなっ”と片手を振り去ろうとする記者をわたしはなぜか呼び止めてしまう。それはきっと、前に言われたことがどこかでずっと引っ掛かっていたからだろう。


「待って……聞きたいことがあるの」


「なんだ?」


「前に言ってたこと……あれはどういう意味?」


「何か言ったか?」


「わたしに言いましたよね。自分自身のことをどこまで分かっているのかって……あれはどういう意味だったんですか?」


 それを質問した瞬間だった。


「亜矢、お待たせ!」


 奏の声が響き、わたしはドキッとして視線を記者から奏へと移した。


「それなら父親に聞いた方が早い」


「え?」


「それか、俺の調べた調査書類を全て持っていったあの人に聞けよ」


「それって誰ですか?」


「朝比奈 大志だよ」


 そう言うと、記者は逃げるような足取りで近くまで来た奏でに顔を伏せながら行ってしまう。


「会長って……」


「亜矢、どうかした? もしかして何かあった!?」


 わたしの様子がおかしいことに気がついた奏が心配の声をあげる。しかし、わたしはなかなかそれに対して返事ができなかった。

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