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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第5章『執事は諦めません!』
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memorys,91

 名前を呼ばれた陽太さんは驚きすぎて声をなくしたのか、今もまだ黙ったままの状態だ。いきなりの展開にこの状況を把握できていないのは陽太さんだけではない。お父さんも涼華さんも、暉くんすら目を丸くしている。わたしはそんな中、ある人物の反応を恐る恐る窺い見つめていた。


「こんなの納得できるわけないだろっ!!!!」


 わたしの心配は的中した。案の定、自分が社長候補から外されたことに激怒した晶が喚くように声を荒らげる。


「なんでだよ! こいつはもう朝比奈の名前を捨てた人間なんだ、こんな奴が社長だなんて誰も認めやしない!!」


「息子の言うとおりだ! 朝比奈の名前を継ぐものが後継者でなければ意味がないじゃないか」


「そうですよ、お父様。だからどうか考え直してください」


「黙りなさいっ!!」


 会長の一声で3人は身を強張らさせた。また静まり返った部屋に、会長が深く息をはく音だけが響く。


「なんの考えもなく陽太を後継者にしたわけではない。寛二が亡くなり、涼華が再婚を決めた時は確かに朝比奈の名前を継ぐものを時期社長にした方がいいとわたしも思い、陽太を外し、晶に任せた。だが、本当に晶が後継者として相応しい人間かどうか見極めたかった。お前は父親譲りなのか、仕事に関して少し横暴なところがあったからな……」


 会長は先程、秘書から手渡された茶封筒の中から数枚書類を取り出す。


「秘書に頼んで、ふたりの仕事ぶりは逐一報告は受けていた。陽太は社員に戻っても地道に仕事をこなし、周りの社員からの信頼はあつい。だが、晶……お前は社員の時もいい噂はなかったが社長候補になってからは更に社員をぞんざいに扱う態度が目立った。あのパーティでの出来事もそうだ……陽太を見下し、煽るような発言はわたしも見ていて恥ずかしくなった」


「そ、それはっ!」


「そんな中、陽太を家族として庇った亜矢……本当に頼もしかった」


「い、いえ」


 急に話がわたしに移り、驚きながらも小さく返事を返した。


「君を見て、家族は名前や血縁など関係ないのだと深く考えさせられた。あの時からどうするべきかずっと迷っていたんだ」


「お祖父様! お、俺はこれから社長として真面目に頑張ります! だから、陽太ではなく俺をっ」


「お前は既に朝比奈の名前を汚しかねない事をした自覚はないのか!」


 ベッドの上から勢いよく手にしていた用紙をばらまく。会長の手を離れた紙はハラハラとわたし達の足元へと散らばり落ちた。用紙の中には写真も挟まれていたようで、ちょうど近くに落ちていた一枚をわたしは拾い上げる。その写真には、何度かわたしのとことへやって来た記者と晶の姿がはっきりと写し出されていた。


「お前は社長候補でありながらも、記者を使い他者を陥れようとした。その行為は朝比奈をも巻き込む危機的事態になりかねない行為だと気付かなかったのか!!」


「こ、これは……」


「裏でこんな小細工をするような馬鹿な人間を後継者にできる訳がないだろう!!」


 みるみるうちに青ざめていく晶に、もはや両親は何も言えないでいる。


「亜矢、怖い思いをさせてしまって済まなかった。孫の仕出かしたことだが、わたしからもお詫びさせてほしい」


「そんなっ!」


「俊彦くんも迷惑をかけて申し訳なかった」


「いえ、そんなとんでもありません」


 会長は厳しい目で晶を見据え言い放った。


「朝比奈 晶……お前は明日からまた一般社員としてわが社で働いてもらう。だがしかし、また横暴な態度や陰険な裏工作をするようであれば、血縁だろうが関係なく会社を辞めてもらう。分かったな?」


 さっきまでの威勢の良さはどこへいってしまったのか、悔しさに顔を歪め、今にも地団駄でも踏みそうな雰囲気だった。


「本来なら、会長の座を誰かに譲りたいところではあったが……まだ動けるうちは、このままわたしが会長としてゆっくり時期会長を見極めていきたいと考えている。決して血縁者だからと油断する気持ちは切り捨てておけ……この会社を守るためであれば他人に任せる選択肢もあることを肝に命じなさい」


「わかりました、会長……それでは、わたし達は失礼致します」


 弟夫婦は身動きできなくなった晶の手を引き、そそくさと病室から出ていく。ドアが静かにしまっていく様子を見届けてから、漸く重い空気から解放されたようにみんなが息を漏らした。


「済まなかったね。本来なら君たちを巻き込むべき問題ではなかったのだが、こんな形で迷惑をかけてしまって改めてお詫びしたい。本当に孫の仕出かした不手際で申し訳なかった」


 そう言って深々と頭を下げる会長に涼華さんとお父さんが慌てたように駆け寄る。


「お父様は何も悪くないんですから頭を下げてください」


「そうです、今は体を休めることに専念してください」


「ああ、ありがとう」


 さっきまでの厳しい目は消え、今は優しいおじいちゃんの顔へと戻っていた。その姿に安堵していたわたしの隣で、陽太さんが一歩前へと踏み出し、会長に向かってお辞儀する。


「会長、ありがとうございました。これから時期社長の名に恥じないように精進していきます」


 少し涙ぐんだ陽太さんの姿に、会長の表情は更に柔らかく、穏やかなもとのなっていった。


「本当に陽太は寛二そっくりだ。君なら立派に会社を守っていける……これから共に会社を守っていこう」


「はいっ!!」


 こうして、わたし達は新年の朝日がまばゆく光るなかで新たなスタートをきったのだ。

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