memorys,81
次の日、気まずいながらもみんなと揃って朝食を囲む。神木と白藤は居たものの、会話を交わすことはなかった。それに少し安堵しつつ、あまり空腹感のない胃の中に暖かなオニオンスープを流し込む。昨夜は結局、あの状態のまま眠れずに朝を迎えてしまった。
「昨日は体調が悪かったんだろ? もう平気か?」
隣に座っていた陽太が不安そうにわたしの顔を覗き込む。
「大丈夫だよ。昨日はいっぱいはしゃいじゃったから、ちょっと疲れただけだと思う」
何も事情を知らない家族に、これ以上心配かけまいと笑顔をつくった。
「そうか、なら良かった」
朝食前に涼華がわたしにメイクしてくれたおかげもあって、目の下の隈はうまく誤魔化せていた。涼華はわたしが眠れていないのに気がついていながら、それでも事情を追求することはしなかった。きっと、わたしから話してくれるのを待ってくれているのだろう。
(ちゃんと涼華さんに話そう)
神木とのことはもう知られているから、これまでのことを相談してみてもいいかもしれない。本来は自分自身で答えを出さなきゃならないのだけど、誰かに話すことによって気持ちも整理できるかもしれないと考えた。
「今日はみんなで街を見て回らない? せっかくの家族が揃ったんだし、またハワイの時みたいに、みんなでショッピングしましょうよ」
朝食が終わり、目の前の食器が下げ始められたタイミングで、涼華がみんなに昨夜わたしにした提案を口にする。
「いいじゃないか!」
即座に俊彦が賛成の声を上げる。
「また寒いのに出歩くの? まあ、別にいいけど」
暉は少し面倒くさそうな反応をするが、嬉しさを滲ませた顔をしていた。陽太も「いいですね」と、笑顔で頷く。
そんな光景を見ていると、なんだか心が和む。
「亜矢ちゃん、フランスにはおしゃれな洋服がたくさんあるからたくさんお買い物しましょうね!」
まるで子供のような笑顔で言う涼華に、わたしは力強く頷いた。
「うん!」
せっかく家族が集合しているのに、ウジウジ悩んでいても仕方がない。みんなと過ごせるこの時間を精一杯楽しんで、それから問題に向き合えばいいじゃないか。
そう考え直し、出かける準備をするために席を立った。
その瞬間、白藤と不意に目が合う。
白藤の目を見つめ続けることができず、少しだけ視線を下に落とした。その途端、落ち着きを取り戻していた胸に鈍い痛みが再度押し寄せる。彼のネクタイに付けられたモノを目の当たりにしてしまったせいだった。それは昨夜、わたしがあげた白藤への誕生日プレゼントとして贈った、ネクタイピンだったからだ。青い宝石が輝くシンプルだけど存在感のあるネクタイピンは、予想していたとおり白藤によく似合っていた。
動揺から指先が震える。それを誰かに悟られる前に、わたしは下を向いたまま廊下へと小走りで向かった。
きっと、今一番困惑しているのは白藤に違いない。昨夜神木と何があったのか説明もできていないまま、急にこんな態度をとってしまっているのだから、傷ついている可能性だってあった。一番笑顔でいてほしかったはずの存在を、今度は自分が悲しませてしまっている。笑顔を奪いたくない。なのに、答えを出すことに躊躇ってしまう。
(こんなんじゃダメなのに!!)
自分の中の葛藤を断ち切るように首を大きく振る。そんなことをしても気持ちが落ち着くわけもなく、幾度も波のように押し寄せてくる不安が、頭の中をいっぱいにしていく。止められない自分の気持ちと戦いながら、わたしは出かける準備をするために、部屋へと戻った。
支度を始めて数分も経たないうちに、部屋に涼華が迎えにやって来る。
「準備はできた?」
「うんっ」
みんなで出かけることは嬉しいと感じるのだが、少しだけ心配していたことを口にした。
「そういえば、神木さんと白藤さんも一緒に行くの?」
その問いに、涼華はゆっくりと首を横に振る。それを見て、来ないとわかったからか肩の力が一気に抜けていくのを感じた。
「わたしたちはまだ仕事が残ってるから、明日にはここを発たなきゃならないのよ。出発の準備を二人にお願いしてあるから、今日は家族だけのお出かけよ」
「明日帰っちゃうんだ……」
せっかく久しぶりに再会できたのに、もう別れの時間が迫っていることに、わたしの口からショックの声が漏れる。
「そんな寂しそうな顔しないで、亜矢ちゃん。だんだん仕事も終盤に差し掛かってるから……そうねぇ、お正月前までには日本に戻ってこれると思うわ」
「本当っ!?」
「ええ」
その知らせに自然と笑顔になった。
「あと少しの辛抱だから、もう少し待っててね。ごめんなさい……なかなか亜矢ちゃんの側にいてあげられなくて」
涼華が優しく頭を撫でる。
「ううん」
なんだか子供に戻った気分になって少し気恥ずかしかったが、涼華の手の温もりがあまりにも優しくて、思わず泣いてしまいそうになった。
「さぁ、みんなが待ってるわ! 今日はとことん遊びましょう!」
手を引かれ、わたしは慌ててサイドテーブルに置かれた鞄に手を伸ばす。
「亜矢ちゃん、早く!」
急かされるまま鞄を手に持ち、無邪気な笑顔を浮かべる涼華の後を追った。




