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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第5章『執事は諦めません!』
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memorys,81

 次の日、気まずいながらもみんなと揃って朝食を囲む。神木さんと白藤さんは居たものの、会話を交わすことはなかった。それに少し安堵しつつ、あまり空腹感のない胃の中に暖かなオニオンスープを流し込む。昨夜は結局、あの状態のまま眠れずに朝を迎えてしまった。


「昨日は体調が悪かったんだろ? もう平気か?」


 隣に座っていた陽太さんが不安そうにわたしの顔を除き込む。


「大丈夫だよ。昨日はいっぱいはしゃいじゃったから疲れただけだと思う」


 何も事情を知らない家族に、これ以上心配かけまいと笑顔を作る。


「そうか、なら良かった」


 朝食前に涼華さんがわたしにメイクしてくれたおかげもあって、目の下のくまもうまく誤魔化せていた。涼華さんはわたしが眠れていないのに気がついていながら、それでも事情を追求することはしない。きっと、わたしから話してくれるのを待ってくれているのだろう。


(ちゃんと涼華さんに話そう)


 神木さんとのことはもう知られているから、これまでのことを相談してみてもいいかもしれない。本来は自分自身で答えを出さなきゃならないのだけど、誰かに話すことによって気持ちも整理できるかもしれないと考えた。


「今日はみんなで街を見て回らない? せっかくの家族が揃ったんだし、またハワイの時みたいにみんなでショッピングしましょうよ」


 朝食が終わりかけていたタイミングで涼華さんがみんなに昨日わたしに話した提案を口にする。


「いいじゃないか!」


 即座に賛成の声をあげる父。


「また寒いのに出歩くの? まあ、別にいいけど」


 少し面倒くさそうな顔をするものの、内心嬉しそうに納得を示す暉くん。

 そんな光景を見ていると、なんだか心が和む。


「亜矢ちゃん、フランスにはおしゃれな洋服がたくさんあるからたくさんお買い物しましょうね!」


 まるで子供のような笑顔で言う涼華さんに、わたしは力強く頷いた。


「うん!」


 せっかく家族が集合しているのに、ウジウジ悩んでいても仕方がない。みんなと居れるこの時間を精一杯楽しんで、それから問題に向き合えばいいじゃないか。

 そう考え直し、出掛ける準備をするために席を立った。


 その瞬間、白藤さんと不意に目が合う。

 白藤さんの目を見つめ続けることができず、少しだけ目線を下に落とした。その途端、落ち着きを取り戻していた胸に鈍い痛みが再度押し寄せる。彼のネクタイに付けられたモノを目の当たりにしてしまったせいだった。それは昨夜、わたしがあげた白藤さんへの誕生日プレゼントのネクタイピンだったからだ。青い宝石が輝くシンプルだけど存在感のあるそれは、彼によく似合っていた。


 動揺から指先が震える。それを誰かに悟られる前に、わたしは下を向いたまま廊下へと小走りで向かった。


 きっと、今一番困惑しているのは白藤さんに違いない。昨夜神木さんと何があったのか説明もできていないまま、急にこんな態度をとってしまっているのだから、傷ついている可能性だってあった。一番笑顔でいてほしかったはずの存在を今度は自分が悲しませてしまっている。笑顔を奪いたくない。なのに、答えを出すことに躊躇ってしまう。


(こんなんじゃダメなのに!!)


 自分の中の葛藤を断ち切るように首を大きく振る。そんなことをしても気持ちが落ち着くわけもなく、幾度も押し寄せてくる波のように頭の中をいっぱいにする不安と戦いながら、わたしは出掛ける準備をするために自分の部屋へと戻った。


 支度をはじめて数分もたたないうちに、部屋へ涼華さんが迎えにやって来る。


「準備はできた?」


「うんっ」


 みんなで出掛けることは嬉しいと感じるのだが、少しだけ心配していたことを口にした。



「そういえば、神木さんと白藤さんも一緒に行くの?」


 その問いに涼華さんはゆっくりと首を横に振る。それを見て、来ないと分かったからか肩の力が僅かに抜けていくのを感じた。


「わたし達はまだ仕事が残ってるから、明日にはここを発たなきゃならないのよ。だから、その準備をふたりにお願いしてあるから、今日は家族だけのお出掛けよ」


「明日帰っちゃうんだ……」


 せっかく久しぶりに再会できたのに、もう別れの時間が迫っていることにショックの声が漏れる。


「そんな寂しそうな顔しないで、亜矢ちゃん。だんだん仕事も終盤に差し掛かってるから……そうねぇ、お正月前までには日本に戻ってこれると思うわ」


「本当っ!?」


「ええ」


 その知らせに自然と笑顔になった。


「あと少しの辛抱だから、もう少し待っててね。ごめんなさい……なかなか亜矢ちゃんの側にいてあげられなくて」


 涼華さんが優しく頭を撫でる。


「ううん」


 なんだか子供に戻った気分になって少し気恥ずかしかったが、涼華さんの手の温もりがあまりにも暖かくて思わず泣いてしまいそうになった。


「さぁ、みんなが待ってるわ! 今日はとことん遊びましょう!」


 手を引かれ、わたしは慌ててサイドテーブルに置かれた鞄を手を伸ばす。


「亜矢ちゃん、早く!」


 急かされるまま鞄を手に持ち、無邪気な笑顔を浮かべる涼華さんの後を追った。

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