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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第3章『執事にも覚悟が必要です!』
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 屋敷の前に車を止め、後部座席のドアを開く。


「旦那様、どうぞ」


「ありがとう、神木くん。今日は急に呼び出してしまって悪かったね」


「いえ……とんでもありません」


 軽く頭を下げると、力強く俊彦が肩を叩く。


「神木くんが俊敏に動いてくれたおかげで助かったよ」


「いえ」


「やっぱり、神木くんが側にいた方が頼りになるな。だから、今日話したこと前向きに考えてほしい」


「……畏まりました」


 笑顔のまま玄関へ向かう俊彦の背中を見つめる神木の表情が僅かに曇った。


「おかえりなさいませ、旦那様」


 玄関を開けると、既に待機していた白藤が俊彦に軽く頭を下げる。


「白藤くん、ただいま」


「旦那様……お疲れのところ大変申し訳ありませんが、少々お話が」


 深刻そうな表情をする白藤に、俊彦の顔から笑顔がなくなった。その後ろに立つ神木もまた同様、ただならぬ雰囲気を察する。


「何かあったんだね」


「はい。実はお嬢様のところへ記者が尋ねてきたようで……」


「亜矢のところにまで行ったのか!?」


 驚愕の表情をする俊彦と神木に、白藤は静かに頷く。


「今は落ち着いて自室にいらっしゃいます。どうか側に行っていただけますか?」


「分かった」


 俊彦は早足で2階へと駆け上っていった。それを見届けると、白藤は無言のまま動揺を滲ませる神木に目を遣る。


「……お嬢様は大丈夫だったんですか?」


「初めはひどく怯えていましたが……今は落ち着いています」


「俺のせいだ」


「神木さん?」


 神木の呟きに反応するも、白藤が次に発しようとした言葉は別の声によって遮断されてしまった。


「神木っ」


「陽太様、どうかなさったんですか?」


 階段上から陽太が緊迫した表情で、こっちへ来いと手で合図する。


「悪いけど書斎に来てくれないか? 少し話がある」


「畏まりました……白藤さん、すみませんが失礼致します」


「いえ」


 白藤はそう返し、去っていくふたりをじっと見つめた。





  ◇◇◇   ◇◇◇




 家に戻ってきて、気持ちもかなり落ち着いてきている。しかし、自分がこれから父と向き合う事に緊張してしまい、じっと黙って座っていることが出来なかった。


 部屋からベランダへと出ると、大きく深呼吸をする。


(まずはお父さんとちゃんと話さなくちゃ……)


 記者が言っていた事を信じたわけではないけど、もしも本当だったらと思うと話すのが怖くなってきた。


(そんな筈ないもん……お父さんとお母さん、仲良かったし)


 昔の記憶の中には、いつも笑顔の両親がいる。喧嘩をしたところだって見たことがないと思う。そんな母に隠れて、別の女性と会っていたなんて有り得ない事だ。しかも相手が涼華さんなんて信じたくない。


(あんなのデタラメに決まってる!)


 すると、部屋からノックの音が響き、ドアが開けられた。


「亜矢、入るよ」


「お父さんっ」


 部屋の中へと入ってきて、亜矢の居るベランダへと出てきた俊彦は気まずそうな顔で述べる。


「今日は怖い想いをさせて悪かった……もう平気か?」


「うん、大丈夫」


 何を話そうか迷っているのか、ベランダの手摺りに手を置き、夜空を見上げた。


「亜矢……実は隠してたことがある」


「え?」


 “隠し事”と言われて、一瞬嫌な想像が頭に浮かぶ。きっと、今の感情が顔に出ていたのか、父は慌てて否定を表すように両手を大袈裟に振った。


「違うぞ! 誤解するな……母さんと結婚してる時に涼華と何かがあった訳じゃないからな!」


「なら、隠し事ってなに?」


「……いや、実は……涼華は俺の学生時代の初恋の相手だったんだ!」


「えっ!?」


 予想外の告白に、目を丸くする。


「じゃあ、お母さんと出会う前に涼華さんのこと知ってたってこと?」


「まぁな。けど、その頃の涼華は俺のことは全く知らないし、喋った事はないんだ。ただ俺が勝手に一目惚れしただけで……」


「なら、あのコンテストの後に偶然再会したの?」


「ああ……そういう事だ。だから、母さんがいた頃に会ってたとかじゃないからな! 俺はちゃんと華澄を愛してた! それだけは、亜矢に信じてもらいたいんだ」


 少し放心状態のように、口を開けたまま父を見つめた。


「亜矢?」


 名を呼ばれ、我に返ると、今度は笑いが込み上げてきてしまった。


「もう、そんなの隠さなくてもいいじゃんっ」


 さっきまで不安がっていた自分が馬鹿みたいで余計に笑ってしまう。お腹まで抱えて笑うわたしを見て、父も小さく微笑んだ。


「そうだよな……話せばよかったな。なんだか初恋なんて、娘には話しづらいだろう?」


「そうなの? 別に変なんて思わないのに」


 一頻り笑い、亜矢はいつもの笑顔を父に向ける。


「わたしは父さんの言葉を信じる。だから……もう誰かに何を言われても、わたしは平気だから安心して」


「亜矢」


「もう、隠し事はない?」


「あ、ああっ! もちろんだ」


「ええー、なんか返事が怪しいよ? いつまでも動揺してたら疑われちゃうんだからねっ」


 悪戯っぽく言うと、父はわたしの頭を優しく撫でた。


「お前には普通の生活が合ってただろうに……父さんの勝手で嫌な経験をさせて本当に悪かった」


「いいんだよ。気にしてない……今はこの生活も気に入ってるから」


「そうか……」


 父は嬉しそうに笑った。


「お父さんのとこにも記者の人が来たの?」


「ああ、来たよ。でも全部デタラメだったから……神木くんに頼んで記者会見を開いて涼華との事は全て公表した。だから問題ないよ」


「そっか、ならもう安心していいんだね」


 だが、頭を撫でていた父の手がピタリと止まる。


「亜矢、この世界にいる以上は安心しない方がいい」


 目の前の父の顔は笑顔から真剣な面持ちへと変わっていた。

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