memorys,44
「そろそろ休憩にしましょうか」
ようやく満足した顔で涼華さんが足を止めたのは、素敵なカフェの前。テラス席に付くと、白藤さんが素早く側による。
「奥様、オーダーを伝えてきますが」
「亜矢ちゃんは何がいい?」
テーブルのメニューを見ながら白藤さんに伝えると、そのまま店内へと入っていく。
(ああいうとこは執事なんだよな)
「白藤くん、いい子よね」
「そう……ですね」
いきなりの白藤さんの話題に複雑な心境で答える。
「けど、亜矢ちゃんは神木くんの方がお気に入りかな?」
「えっ!?」
わたしの反応に、くすくすと笑い出す。
「あら、わたしだって女よ? 亜矢ちゃんの変化に気づかないはずないじゃない。見てないようで、これでも亜矢ちゃんのことは気に掛けてるんだから」
「えっと……あの、神木さんとは」
「神木くんも案外分かりやすいのよね。最近、亜矢ちゃんには特に優しいから……もう付き合ってるの?」
涼華さんは明らかに嬉しそうに聞く。
「怒ったりしないんですか?」
「ぇえ? どうして?」
予想外の反応を返してきた相手に、戸惑いながらも告げる。
「普通、反対しそうな気がして」
涼華さんは少し考えると、また笑顔を向けた。
「わたしもね、俊彦さんとの結婚は周りから反対されたのよ。朝比奈の名前を捨てて嫁にいくようなものだから……わたしは長女として、跡継ぎを育てていく側だったからね。陽太も跡を継ぐのを望んでたし尚更」
「それでもお父さんと結婚したのはなんでですか?」
「好きな人に巡り会ったら、もう理由なんてないんじゃないかしら? 自分の持つ全てを投げ出すぐらいに“この人”だと思える人に出会ったら、それはもう運命なのよ」
「……運命」
「わたしにとって、その運命の人が俊彦さんだった。それだけの話……けど、それに気付くのが一番重要だと思うのよね」
説得力さえ感じる言葉に、わたしは静かに頷く。
「どんなに素晴らしい人と出逢えても、決して永遠には続かないわ」
それは涼華さんの亡くなった旦那さんの事と、わたしのお母さんを差しているのだと分かった。
「けど、出逢ったら望んじゃうのよね……永遠を」
「涼華さんはわたしと神木さんが永遠を望んだとしたら、反対しますか?」
「しないわね」
またも即答する涼華さんに、思わず目を瞬く。
「永遠を追い求めたいと思えるような相手と出逢うのはある意味“奇跡”よ。その人との恋に多くの障害があったとしても、それに立ち向かう覚悟があるなら……その恋、貫き通しなさい。わたしは亜矢ちゃんを応援する」
「覚悟……」
白藤さんの言った“覚悟”の意味は、涼華さんと似ていた。
“全てを捨てる覚悟”が出来るのか、まだ分からないし、自信だってない。けど、もしも神木さんがともに歩んでくれるのなら、どんな困難にも立ち向かうそうな気がした。
「涼華さんのおかげで、やっと迷いがなくなりました」
「そう? 良かった……亜矢ちゃんなら大丈夫よ」
そして、背中を押してくれる存在がこんなにも近くにいる。それに深く感謝し、改めて涼華さんに向き直した。
「ありがとう、お母さん」
ずっと言いたいようで、なかなか言えなかった。
涼華さんはビックリしたが、次第に涙を滲ませながら微笑む。
「何かあれば、いつでも相談してね」
「はいっ!」
不意に気が付いた。
「もしかして、分かれて買い物するのを提案したのって……」
「あたり。亜矢ちゃんとゆっくり話す時間をつくりたかったから……家や別荘じゃなかなかふたりきりで話せないじゃない? まあ、亜矢ちゃんとふたりで買い物に行きたかったっていうのもあるけどね」
涼華さんの優しさに、心が自然と暖かくなる。
「またこうしてふたりで出掛けたり、恋の話聞かせてくれるかしら? とりあえずお父さんには秘密でねっ」
その問い掛けに、わたしは深く頷いた。
「もちろん! わたしもお母さんといろんな話がしたいから」
いつの間にか、わたしの瞳にも涙が滲む。
「これからも、よろしくね……亜矢ちゃん」
「こちらこそ、よろしくお願いしますっ」
すると、タイミングよく白藤さんが注文したものを持って現れた。
「お待たせいたしました」
わたし達の雰囲気が少し違うのが分かったのか、瞬時に顔色を変える。
「……なにか、ありましたか?」
わたしと涼華さんは顔を見合わせ、同時に答えた。
「秘密っ」
白藤さんはきょとんとした顔をする。
「亜矢ちゃん、食べましょっ」
「はいっ」
こうして、楽しいショッピングは終わりを告げた。
みんなで別荘に戻り、みんなそれぞれ部屋へと向かう。わたしも一度部屋へと行こうとした時、誰かが引き止めるように手を取った。
「亜矢様」
「神木さん」
みんなが部屋に入っていくのを確認すると、すっと神木さんが柔らかな笑顔を向ける。
「今日は楽しかった?」
「うんっ! すっごく楽しかった」
「良かった」
きっと白藤さんが同行したから心配だったのか、ホッとした表情をした。
「そうだ……亜矢、手を出して」
「こう?」
言われるまま、手のひらを上に向けて差し出す。すると、神木さんが何やら手首に付け始めた。なんだろうと眺めていると、キラキラと光るものが目に映る。
「えっ……神木さん、これって」
手首に付けられたのは、貝殻をモチーフにした綺麗なブレスレットだった。
「可愛い」
「亜矢に似合うと思って……こっそりみんなの目を盗んで買ってきたんだ。ハワイの思い出になにかあげたくて」
「すごく、嬉しい! ありがとうっ」
「良かった。じゃあ、俺は行くね……また後で」
小さく手を振る神木さんを見送り、わたしは幸せを噛み締めるようにブレスレットを握り締める。
神木さんとの恋が永遠に続きますようにと、心の中で祈った。
それから一週間が経ち、とうとう帰国の日を迎える。
名残惜しくもありながら、わたし達はハワイに別れを告げ、日本へと飛び立ったのだった。
今回でハワイ編は終わり
また日常に戻ります(。-∀-)♪
さぁ、これからまたもハプニング発生の
予感が致します( ´;゜;∀;゜;)




