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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第3章『執事にも覚悟が必要です!』
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 輪郭を撫で上げる指先が触れた場所に熱が帯び、返す言葉を考えようとしても思考が働いてくれない。身動きすることすら忘れてしまう。


 こんな神木さん、わたしは知らない。


「俺が嫉妬もしないような男に見えた? 俺だって嫉妬もするし……正直言えば、兄弟たちが亜矢に触れるのだって嫌だ」


 直球な言葉に、どう反応したらいいのか分からなかった。


「執事じゃなかったら、一日中ずっと亜矢の側にいて……こうして触れられる距離に居たいって思ってる」


 耳に触れた指が下へと下がり、親指で唇をなぞり上げる。


「誰にも触れられてほしくない」


 そのまま近付いてきた相手の顔に、わたしは目を強く瞑った。そのまま唇に触れる感触に、思わず小さく声を漏らす。


 触れるだけの優しいキスが幾度となく繰り返される。


「か、神木さんっ……待って」


 恥ずかしさに相手の肩に手を置くも、直ぐに捉えられてしまい、ドアへと押し付けられた。徐々に深さを増す口付けに、ただ身を委ねるしか出来ない。


 やっと離された唇に、お互い呼吸を整えるように息を吐く。


「……嫌いになった?」


「え?」


「前にも言ったけど、本当に俺は執事みたいに完璧じゃない。ただ演じてるだけで……こんな情けない俺を知ったら亜矢が嫌がるんじゃないかって怖いんだ」


 今度は優しく抱き寄せ、震える声で告げた。


「こんなに想える人なんて今まで居なかったから、どうしても焦るんだ。なにも出来ないまま君を手離す日が来るんじゃないかって、亜矢がいつか居なくなるんじゃないかって……不安で仕方なくなるんだよ」


 こんなにも想われている。


「亜矢だけは離したくない」


 止めどなく溢れてくるのは、嬉しさと愛おしさしかなかった。


「わたしは、どんな神木さんも好きだよ」


 少し背伸びをし、両腕を彼の首に回す。そして、想いを全て受け止めるように抱き締めた。


「神木さんだって分かってない……わたしだって一緒にいて、いつだって触れたいって考えてばかりなんだよ? もしかしたら、神木さんより嫉妬深いかもしれないし、束縛しちゃうかもしれないんだから!」


 そう言うと、耳元で笑いが漏れだす。腕を緩め、神木さんの顔を確認しようとした途端に、またも軽くキスをされる。


「かっ、神木さん」


「ありがとう……亜矢のおかげで吹っ切れたよ」


 さっきまでの怖い顔はなくなり、いつもの穏やかな表現へと戻った神木さんに少し安堵した。


「良かった」


「ごめん、変なこと言ったりして」


「ううん、全然大丈夫だよっ」


 だが、さっきまでの行為を思い出し、急激に恥ずかしさが込み上げる。乱れた髪を耳に掛けながら時計へと目を移すと、 もう夜中の1時を差していた。


「もうこんな時間だね……わたし、そろそろ部屋に戻るね。神木さん、朝早いんでしょ? ゆっくり休んでっ」


 体をドアへと向けようとした時、掴まれたままだった手首を自分へ引き戻すように引っ張られる。


「なんで?」


「えっ!?」


「もう少しゆっくりしてていいよ」


「けどっ」


「だって“せっかくのハワイだし”?」


 悪戯な笑みを浮かべる彼に、わたしは少しふくれた顔を見せた。


「神木さん、今日はちょっと意地悪っ」


 そう言い返すと、なんだか満足そうに微笑む。


「そうだよ。まだまだ亜矢の知らない俺がいるんだけど……?」


 その言葉に答えるには、少しだけ勇気がいることを知る。僅かな好奇心と深く知る事への不安が入り交じり、どうしても躊躇ってしまうのだ。


 けど、好きな人を目の前にしたら誰もが好奇心を優先してしまう。

 その人の全てを知りたいと思うのが本能というものだから。


「神木さっ……ま、誠さんのこと知りたいです」


 思いきって名前で呼んでみた。神木さんは一瞬目を丸くし、少し照れたような顔をする。


「なら、愛するお嬢様のために時間を掛けてゆっくりと教えて差し上げます」


 また余裕のある笑みを浮かべ、わざとらしく執事口調で言う神木さんに“意地悪”と思いながらも、背中に手を回した。





   ◇◇◇ ◇◇◇





 朝日が窓から差し込み、まだ夢心地の中にいたわたしに降り注ぐ。


「んっ……」


 まだ寝ぼけ眼な状態で辺りを見渡す。見慣れない天井を不思議な感覚で見つめた後、横へと視線を移した。


(――――っ!?)


 隣で安らかな寝息を立てて眠る神木さんを見て、勢いよく天井へと目を戻す。


(そうだった……結局、わたし神木さんの部屋に泊まっちゃったんだ)


「あれ?」


 耳に届いた少し掠れた声とともに、わたしの手を優しく包み込む感触が伝わってきた。またゆっくりと声のした方へ顔を向けると、少し寝癖が付いた無防備な姿をした神木さんと目が合う。


「おはよう」


「神木さん、おはようっ」


 そう返すと、神木さんは不思議そうに首を傾げ、そっとわたしに顔を寄せた。


「おかしいな……昨日は“誠さん”って呼んでくれたのに」


「なっ」


「もう一回、聞きたいんだけど」


 わたしの反応を楽しむように悪戯を含ませた言葉を投げる神木さん。照れて慌ててしまう自分がなんだか悔しく感じてしまい、顔を寄せた相手に勢いよくキスをした。


 不意打ちのキスに、さすがの神木さんも驚き体を起こす。


「誠さんの意地悪! わたし、先に部屋に戻るからね!」


 ベッドから下りて、そのまま慌てて玄関を飛び出した。昨日の出来事を思い出すと叫ばずにはいられないぐらいの高揚感に顔が熱くなる。


(早く平常心に戻さないと、みんなに変に思われちゃうっ)


 なんとか気分を落ち着かせるべく、わたしは朝日に照らされた砂浜を全速力で駆けていった。

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