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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第2章『執事は演じてます!』
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memorys,23

 テストから三日後、廊下に貼り出された順位にわたしは目を走らせる。


 前は三教科だったが、今回は七教科に増えているため、覚えきれていない問題もいくつか出題されていた。それでも、前回とは比べ物にならないほど成長したと実感している。


(お願い!)


 一気に目線を上位の方へ向けた。


 『9位 九条 亜矢 687点』


 その文字を見た瞬間、感動に瞳が涙で揺らぐ。


「嘘、9位だ……」


 目標の10位以内に入れた嬉しさに、思わず叫びそうになる。手を強く握り、興奮する自分を抑え込んでいると、またもわたしの耳に心ない声が飛び交う。


「有り得ない……最下位だったのが、いきなり9位ってカンニングしたんじゃないの?」


「ほら、お金を使って裏工作したとか」


「それって最悪じゃない」


「けど元庶民さんなら、やりそうじゃない」


 もう駄目だ。怒らないで、なんとかクラスの人たちと上手く馴染める方法を見付けようとしたが、ここまで言われたら我慢なんて出来ない。


 怒鳴る準備に息を思い切り吸い込み、せせら笑いを浮かべた女子の方へ体を向けた時だった。


「あなた達、バカ?」


 後ろから、意外な声が響く。


 その声の主はわたしの隣に立つと、陰口を言った女子たちを鋭い眼差しで睨み付けた。


「彼女が毎日授業を真剣に聞いて、疲れた顔しながら頑張ってたの見てなかったの? それにカンニングなんてしてないわよ……わたし後ろの席だったから分かるもの」


挿絵(By みてみん)


御山(みやま)さん」


 彼女の存在に、さっきまで強気だった女子たちの表情が一変する。


(御山さん?)


 今までクラスメイトと話す事がなく、後ろの席だった事を初めて知ったようにわたしは彼女を見つめた。綺麗な茶色のロングヘアー、両耳には輝くルビーのピアスが光る。スタイル抜群で、容姿なんて女の私ですら見とれてしまう程の美人だった。


 少しお嬢様らしくない雰囲気を纏う御山さんに目を奪われる。


「あなた達がそんな無駄話してばかりだから、順位だって抜かされるのよ? くだらない事をする暇があるなら、彼女を見習って勉強したらどうなの?」


「なっ……」


 彼女の挑発的な言葉に顔を歪める女子たち。このままでは騒ぎが大きくなってしまう。


 何か良い方法はないかと焦り考えていると、新たな人物の手がわたしの肩に触れた。何故か、目の前にいる女子たちがわたしの方を見てざわつき出す。


(なに? 誰?)


 だが、振り返る前にその人物の声で誰なのかが分かった。


「亜矢すごいじゃん。頑張ったね」


「うそっ、朝比奈先輩!?」


 わたしよりも先に、周りの女子たちが名前を叫ぶ。どうして彼が話し掛けてきたのか理由が分からず、普段通りの笑顔を浮かべる相手を黙ったまま見つめる。


「僕から何かご褒美あげよっか?」


(何を言ってるの?)


 あれだけ、学校ではわたしとは関わり合いたくないと断言していた暉くんが有り得ない台詞を言う。


(このままじゃ、変な誤解されちゃうよ!?)


 隣にいる御山さんですら方針状態だ。しかし、解決策が全く浮かばない。


「朝比奈先輩? あの、彼女とお知り合いなんですか?」


「ああ……この娘は」


 一瞬、暉くんと目が合う。困惑の表情を浮かべるわたしに、ただ小さく微笑んだ。


(暉くん?)


「たぶん近々発表になるとは思うけど、先に紹介しておくよ。亜矢は僕の妹なんだ……みんな仲良くしてあげてね」


 驚愕の声が校内を駆け巡った。


「あっ、ひ……暉くん? なんで?」


 ようやく絞り出した声に、暉くんは“んー”と目線を上に向け、考えるような仕草をする。


「わたしが妹だって知られるの嫌だったんじゃ」


「まぁ、君なら良いかなって。それだけ」


「それだけ……」


 なんだか気の抜けた返しに、妙な脱力感を感じた。


「九条さん、大丈夫? 顔色悪いわよ?」


 隣にいた御山さんが心配そうに覗き込む。


「大丈夫……なんか急に疲れが」


 テストが終わってから三日間、結果ばかり気になって寝付けず、また寝不足気味ではあった。きっと、いい結果だった安堵感と張り詰めていた緊張と疲労がごちゃ混ぜになって押し寄せているせいだ。


「休んだ方がいいわ……今から保健室に」


「僕が連れていくよ。もしなら早退した方が良くない?」


 ふたりの声に軽く頷き、返事をしようと口を開き掛けた矢先、目の前の景色がぐるぐると円を描き始める。


(あ、れ?)


 おかしいと気づいた時には、目の前は真っ白に染まっていった。




  ◇◇◇  ◇◇◇



 消毒液の匂いが微かに香る。


「んっ」


「あ、気が付いた?」


 目を覚ますと、暉が上から覗き込みながらわたしの額に手を当てた。


「熱っぽかったけど、下がったみたいだね」


「ここ保健室? 暉くんが運んできてくれたの?」


「僕ぐらいしかいないでしょ? それにしても君は無茶が好きだね」


「ごめんね、迷惑掛けて」


「別に迷惑とは思ってないよ。ああ、とりあえず今日は君、早退ね……今神木さんが迎えに来るから」


 額に置かれた手を離すと、ベッドの上で頬杖をつく。じっと見つめられ、わたしは恐る恐る尋ねる。


「どうかした?」


「や、君って本当に不思議だなって……普通なら泣き言言って諦めるような事を必死にやり遂げようとするでしょ。クラスの子にだって、朝比奈の名前出せば直ぐにだって打ち解けたかもしれないのに」


 なんだか興味深いものでも見るような瞳をする暉くんに、思わず笑ってしまう。


「だって、暉くんは家族だもん。暉くんが嫌がることはしたくなかったし……わたしは朝比奈の名前を語れるほど立派な人間じゃないもん。それなら、自分が胸を張れるぐらいの実力をつけて認めてもらおうって思ったんだ」


 すると、再び暉くんの手が伸び、優しく頭を撫でた。


「亜矢はいい子だね」


「そんなことないよ!」


「あのさ、お願いがあるんだけど」


 暉くんが真面目な顔をする。


「一回、泣いてくれない?」


 意図の掴めない“お願い”に、わたしは返事も出来ず固まってしまった。

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