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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第2章『執事は演じてます!』
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memorys,17

 パーティー当日。


 朝比奈の“本家”は自分の住んでいる豪邸より更に豪華で、改めて凄い人たちと家族になったのだと実感した。パーティーに出席した顔触れは有名企業の社長たちだけではなく、テレビに出てくるような有名人までいる。


 そんな慣れないパーティーに四苦八苦しつつも、何とか神木さんや陽太さんのフォローもあって、挨拶も無事に終えることができた。


 そして、朝比奈財閥・会長。陽太さんたちのお爺ちゃんである朝比奈 太志(たいし)の挨拶が始まった。白髪の髪に太い眉、長い髭を蓄え、袴姿がいかにも“会長”と思える容姿。一見、怖い厳格な人かと緊張が走ったが、わたしを見た瞬間の笑顔は陽太さんそっくりだ。


「亜矢ちゃん……これからは君も朝比奈家の一員でもある。陽太や暉、涼華のことをよろしく頼むよ」


「はい、よろしくお願いします」


 大勢が見守る中、わたしは笑顔で答え、握手を交わした。すると、盛大な拍手がおき、周りからの歓迎の声にわたしは安堵する。


 やっと自分の役目を終え、ジュースを片手に壁際に立っていると、聞き覚えのある曲が流れ始めた。


(これって……神木さんが最初に流してくれた曲だ)


 周りにいる人たちはペアを組み、音楽に合わせて華麗なステップを踏み出す。その光景を映画でも見ているかのように見つめていると、自分の近くに誰かが近付く気配を感じ、ゆっくりと目線を上げた。


「九条さん、是非わたしと一曲」


「えっ!?」


 気付けば知らない男性たちに囲まれ、わたしは差し伸べられた手にあたふたしてしまう。どの手を選べばいいのか、他の人はどう断ればいいのか分からず、周りに助けを求めるように見渡す。大勢の中で神木さんと目が合うが、お父さんや涼華さんのサポートをしているようで、顔はわたしを気にしているが動けない様子だった。


(どうしようっ)


 そんな時、思いもよらない人物がわたしを囲む男性たちに割り込み、手を差し伸べる。


「ほら、何してるの? 僕と踊る約束でしょ?」


「え?」


 そこにはいつもの笑顔はなく、紳士的な青年を振る舞う暉くんがいた。耳を隠していたサイドの髪の毛を横に流し、いつもとは違う男らしい暉くんの姿にわたしは一瞬返事を忘れてしまう。


「僕と一曲踊って頂けますか?」


 反応を返さないわたしの手を取り、穏やかな笑みを零す。その後ろで、わたしのことを悔しげに見つめる数人の女性たちと目が合った。


(もしかして、暉くんも困ってる?)


 わたしははっと暉に目を向け、軽く膝を曲げる。


「よ、喜んで……」


 そう答えた瞬間、ゆっくり手を引かれた。


「失礼」


 わたしを囲んでいた男性たちに、暉くんが一言だけ呟くように告げる。男性たちもまた、残念そうに肩を落としながら別の女性へと散らばっていく。なんとか逃れることに安堵していると、急激に暉くんの顔が自分の方へと近付いてきた。


「ほら、ステップ……僕に恥をかかせる気?」


「ご、ごめっ」


「謝るのは後、集中して」


 しかし、紺のタキシードを着た暉くんが余りにも別人に映って練習通りにステップが踏めない。なんとか間違えないように足を動かしていると、囁くような声が耳に届く。


「ほら、ちゃんと僕のこと見なきゃ」


「ごめんねっ……なんか緊張しちゃって」


「僕がカバーするから……亜矢は体を任せてくれればいいよ」


 いつも笑顔だけど、どこか壁を感じる暉くん。それが今は、頼りがいある大人な男性に見える。そして言葉通り、嘘みたいに踊りやすくリードしてくれた。


 ようやく緊張も薄らぎ、まともに暉くんの顔を見れるようになる。そんなわたしに、らしくない笑顔を浮かべた。


「まぁ、良くなったんじゃない? そのまま2曲目も頼んだからね」


「う、うん」


 頷いたまではいいが、今更ながら疑問が頭に浮かぶ。


「暉くん、なんでわたしと? 暉くんと踊りたそうにしてた人がたくさん居たのに……」


「なに、僕じゃ不服だった?」


「そうじゃないよっ」


「冗談だよ……肩書きだけで近寄ってくる下心駄々漏れの女って僕、はっきり言うと嫌いなんだよね」


 いつものような棘のある言い方に変化する暉をわたしはただ黙って見つめた。


「少しいい顔すれば直ぐ勘違いして、醜い独占欲を強要してくる。それが嫌だと言えば次は悲劇のヒロインみたいに泣くし……女なんて面倒なだけじゃない?」


 それを問われてしまい、逆にどう返答すればいいのか分からない。だって、わたしもその“面倒な女”の部類なのだ。


 もしかして、初めに会った時に言った台詞は“個人的”というより、“女である”わたしを寄せ付けないようにしたかっただけだったのだろうか。家族に“なる”、“ならない”の問題ではなく、暉くんの抱える何かが理由でわざと壁を作った。そう言っているように聞こえる。


「亜矢は、女のわりにはなかなか面白いし……ダンス相手は君が適役だったんだよね」


「だから助けてくれたの?」


「まぁね。君だって困ってたんだし、助かったんじゃない?」


「う、うん……ありがとう」


 そこは素直に認める。逃げたくても、逃げる方法も分からなかったから、暉くんの助けは感謝してもしきれない。


 それにしても、ここまで“女嫌い”になってしまったのには、一体どんな理由があるのかと気になった。


(きっと聞いても答えてくれないか……)


 成績優秀で、おまけにバイオリンは世界に通用するほどの腕前。普段は女の子みたいに可愛いし、こうやって盛装すれば目を引くぐらいにカッコいい。


 それなのに女性を拒み、自分から遠ざけ、別の世界を見つめているように感じた。


 まだ家族になりたてのわたしには、分からないことが山積みのようだ。



 全てを知るには、どれだけの時間が掛かるのだろうか?


 そんな事を考えながら、2曲目のダンスも暉に体を任せたのだった。

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