国主面会、そして就職
扉の向こうには、赤をメインに調った部屋があった。奥には、机と一人用の椅子がある。書斎とかにありそうな仕事机だ。
椅子に、眼鏡をかけた白髪の中年と思わしき男の人が座っていた。なにやら、読書でもしていたらしい。俺たちが入ってきたことに気がつくと、読むのをやめてこちらを向いた。俺を見る目が気のせいか、怖い。
「お父様、ただいまもどりました」
ラフィーネはすぐに礼すると、俺の来ているローブを引っ張った。
( ほら、あなたも頭をさげなさい!)
小声でそう言ってきたので、俺も頭を下げた。
「は、初めまして……」
と軽く挨拶も添えて。
「……ラフィーネ、この御仁は?」
ラフィーネの父親は、真っ先に俺が気になったようだ。おかえり、の一言もない。
「この人はサトル。森でみつけた遭難者よ。神父様のところへ連れてったら、神父様も知らないようなスキルを持っていたから、うちで雇うことにしたの」
そう言うと、部屋の真ん中に置いてある、柔らかそうな、低めの一人用のソファーに勢いよく座った。
「サトル君、と言うのかね。うちの娘がすまない」
彼は俺の方に近付いてきた。
「私は一応、ミューラント王国のラゼーム地方預かるものだ。ヨーゼリア・アイゼル・アンスタンテという。ヨーゼリアとでも公爵とでもなんとでも呼びたまえ」
そう言うと、俺にも座れ、と手で合図をしてくれた。
「ラフィーネはいつもこうなのだよ。面白そうなものがあると、人だろうが魔物だろうが、なんでも持って帰ってくる。まったく、いつまで経っても子供なのだから……」
そうして、彼も低いソファーに腰掛けた。俺とラフィーネが向かい合い、その横にヨーゼリアが座る形だ。
「ちょっとお父様?わたくしももう大人ですわよ?」
ラフィーネは子供と言われたのが嫌だったのが、頬を膨らませている。
正直、この場面だけを見ると子供にしか見えない。
「ところでラフィーネ、彼を雇うと言っても、何をさせるのかね?」
俺もそれは気になっていた。この世界に来て、赤子同然の俺があまり働けるとは思わない。
「もちろん、魔導騎士団に入団させて、私の護衛にします!」
ヨーゼリアは唖然としている。それもそうだろう。お世辞にも俺が腕が立つようには見えないから。……俺から見ても
「護衛と言っても……失礼だが、ラフィーネよりかなり弱い様に思えるのだが……」
「サトルは不朽体と言うユニークスキルを持ってるんだけど、これが物理攻撃がほぼほぼ効かないのよ!それと攻撃だって模倣者って言う、相手のスキルをコピーする能力があるのよ」
「なんと!特殊能力をいきなり2つも!それも、かなり強力なものではないか……」
「2つじゃないわ、3つよ。高利貸も持ってるのよ。まぁ、あんまり役にたたないけどね」
ラフィーネが高利貸の名前を出した途端、ヨーゼリアの目の色が変わった。いきなり立ち上がり、俺の手を掴むと
「ぜひ!アスタント公国で働いて欲しい!」
と頼まれてしまった。これには、俺はもちろんラフィーネも目を丸くしてしまった。
「お父様が私の連れてきた人を素直に雇うなんて……」
どうやら、今まではかなりふたりで揉めたらしい。
「お前は知らんだろうが、我が家の祖先、つまりはミューラント王国の成立まで遡るのだが、初代国王の特殊能力がその高利貸だったのだよ」
「あの英雄王イスタンシア様が!?」
ラフィーネの驚きから、その人がどれだけ凄いのかがわかる。
「その通り。我が王家の繁栄、つまり経済の礎を支えたスキルなのだよ」
俺はどうやら凄い能力を手に入れたらしい。それに、いい就職先も。
ラフィーネは自分の連れてきたのが、父親に気に入られて嬉しいのか、上機嫌だ。新しい使用人が出来たことを他の使用人に知らせようと立ち上がった。
「お父様!サトルのことをみんなに知らせてくるわ!」
元気よく部屋を出ていった。
ラフィーネが出たあと、ヨーゼリアは俺の方に向き直ると
「アスタント公国で役職につくのならば、サトル、だけでは少々問題だ。私が名前を付けよう」
確かに、サトル、だけだとなんか格好がつかない気もする。
「サトル・バーダント、を名乗りなさい。陛下に正式に叙任して貰えるよう奏上しておこう。それまでは、バーダントは家名としては名乗れまいが……まぁ、1週間ほどで陛下より使節が派遣されるだろう」
ミューラント王国では、名字を名乗ることが出来るのは、王族、貴族、神職、あとは大商人などの特別な者にしか許されていないらしい。俺は、『バーダント』の名前が認められると同時に騎士の爵位が与えられて、貴族として認められるらしい。
「まぁ、アスタント公国内だけなら、すぐに爵位持ちになれるのだが、サトル君は功績を残しそうだからな、王国内で通じる爵位が必要だろうよ」
ヨーゼリアは俺が出世すると思っているようだ。一人で舞い上がっている。こうやって見ると、ラフィーネとよく似ている。やはり親子だ。
「それに、王国では実力次第で爵位もあげることが出来るだろう。平民でも、大公、公爵に次ぐ侯爵にまでなったものもおるくらいだしな」
そう言って俺の背中を叩いた。
「しかし、君を王都に行かせるのはしばらく先だ。君にはスキルを使ってアスタントの財政を立て直して欲しい」
いきなりすごい仕事を押し付けられたものだ。一国の財政を、初めてあった奴に任せるというのだ。
「俺が裏切るとかは考えてないんですか?」
俺の質問にヨーゼリアは俺の目を見た。
「こう見えても、私は人を見る目があってね」
そう言ってにやりと笑う。
「実は私のスキルでね、相手がこちらに敵意があるか、こちらの害になる人物かわかるんだよ」
なるほど、という事は俺は大丈夫という事だろうか。
「便利な能力ですね」
「君の能力ほどでもないさ。ところで、早速君を連れていきたい場所が有るんだが、ついてきてくれるかね?」
俺をどこかへ連れていきたいらしい。断る理由も特に思い浮かばないので
「えぇ、もちろん」
と返した。
ヨーゼリアは嬉しそうに俺を連れて部屋をでた。部屋を出ると、右に進み、階段を登って城の2階へ行った。
そこで
『公国経営財務総監室』
と書かれた部屋の前に止まった。
(サトル君、今の経営財務総監は恐らく、他国に金を流している。君には、総監を潰してほしい)
小声で俺に話してきた。公国ではヨーゼリアが一番権力があっるんじゃないのか?と思ったがどうやらそうでもないらしい。
(総監カンサリアは国王陛下直々の任命でな、私の一存で総監の任を解く事が出来んのだよ)
(管轄外ってことですね……)
(うむ、そんなところだ。君には別室で別の肩書きを与えるから、カンサリアの悪事の証拠を押さえてもらいたい)
(が、頑張ります……)
そうして、俺は総監室からさらに進んで、ちょうど真反対の位置の部屋をあてがわれた。
「ここが君の職務部屋だ。常に鍵を掛けておいてくれ。カンサリアは奴の手の者に常に周囲を窺わせておるからな」
その部屋は狭すぎず、広すぎず、俺的には最高のサイズの部屋だった。入るとすぐにテーブルがあり、四人がけのイスがテーブルを囲むようにしておいてあった。そして、左側には薄いガラスの板が壁に張ってあり、右側は台所となっている。奥の部屋に、風呂とトイレとベットがある。
「ここは実は私の一族……つまり公爵家しか使えないのだが、まぁ、私とラフィーネしか今は居ないから自由に使ってくれ。ベッドルームの奥にクローゼットがあると思うが、そこからは私とラフィーネのいる部屋まで行くことの出来る階段を隠しておる。」
俺は早速クローゼットを開けてみた。しかし、そこには何も無かったのである。
「何も無いんですけど」
「それは魔法で鍵をかけておるからな。まぁ、鍵は外してあるから、暇な時でも合言葉を考えて、ここで唱えてみたまえ」
「そんなんで開くんですか?」
「もちろんだ」
合言葉で開くって……昔話かよ……昔話?まぁ、いいか。
防犯の面で、そんなんで大丈夫なのか?と不安も覚えたが、大丈夫なんだろう……多分
「それでは、私は一旦戻るよ。夕飯になったら共に食べよう。時間になったらラフィーネに迎えに来させるよ」
そう言うと、部屋から出ていってしまった。
いきなり殆ど記憶もないのに異界にやってきたが、何だかんだで衣食住は不自由しない生活に慣れそうだ。
俺は安心したのと、疲れも相まったのか、ベットに横になるといつの間にか眠ってしまった。




