いざ異世界の町へ!
俺はスパイでも変態でもない!!……はずだ、うん。とりあえず、誤解を解かなければならない。
「ち、違うんだ、俺は多分、別の世界から来たんだ!」
わかる、自分でもふざけた事を言っているのがよくわかる。
しかし、何故かそれで納得したのか、彼女は杖を下ろしてくれた。
「私の杖は、魔物に反応するの。だから、あなたが魔物じゃないのは、叩いたからわかるわ。でも、この世界の人間じゃない?……って事は、あなたもしかして、遭難者?」
遭難者……と言われても、分からない。分かりはしないのだが、どうやらこの世界の住人出ないということは分かってもらえたようだ。
「俺は、それかどうかは分からないけど、どういう人たちなんだ?」
分からないなら、聞けばいい。俺はそう思って、彼女に聞いた。
「そう……そうよね、知らないわよね。いいわ、教えてあげる。たまにね、あなたの様に別世界……つまり、私たちの住む世界とは別の場所から流れてくる人たちがいるの。滅多に来ないけどね」
彼女から、この世界が俺のいた世界とは別の世界だと言うことを聞いて、改めて驚かされる。
「彼らは、来た時から何かしら特殊能力を持ってるから……多分あなたも持ってるはずよ。……何百年も来てないらしいから、私もよく知らないんだけどね……」
俺にもその特殊能力とやらがあるとして、いったいどんなにスキルなのだろうか?異世界に来たんだから、どんな奴もワンパンのチート能力とか、ハーレム能力だったら良いのだけれども……。
そんな事を考えていると、彼女が歩くのを辞め、振り返った。
「ごめんね、あなたと事を疑って。あなたは、魔導騎士団、ラフィーネ・カルリア・アンスタンテが町まで責任を持って、案内するわ。私の事は、ラフィーネ、でいいわ。」
魔導騎士団、いかにも異世界って感じがする。そして、俺は彼女の名前も知ることが出来たし、どうやら安全な場所まで護衛してくれるらしい。
(ラフィーネかぁ……かわいい名前だ)
「ところで、あなたの名前は……?」
(俺の名前……名前?)
俺は、自分が自分の名前を思い出せない事に気がついた。
「あっ!ごめんね!遭難者は共通して、自分の記憶をほとんど覚えて無かったんだ……でも……名前がないと不便よね……」
たしかに不便だ。しかし、言われてみると、殺された記憶と、建物に入る二人組?しか覚えてなくて、それもどんどん遠くなっている気がする。
「うーんと……とりあえず、町に行こうか。町の教会なら、多分あなたのスキルと、名前を映してくれると思うし」
町にある教会で、それぞれの初期能力と、適正職業、それと遭難者なら名前などの情報を知ることができるらしい。
「じゃあ、行くよ?」
そう言うと、ラフィーネは俺の右手を掴んで
「空間転移!!」
と叫んだ。
俺の周りを、小さな光の粒が包んだと思うと、俺とラフィーネの身体は、光の粒に溶けて空へと飛んで行く。
気がつくと、俺は40mはあるかという巨大な門の前に倒れていた。
「目が覚めた?あなたったら、空間転移しただけで気絶しちゃうから……」
そう言ってラフィーネは笑う。笑うと、ドキリとしてしまうほどにかわいい。
よろけながら立ち上がると、目の前には門と並んで巨大で、先の見えない城壁があった。そして、門の前には中に入る人なのか、人間の列がある。
「中に入る前に、あなたにはこれを渡しておかないと」
ラフィーネはポケットから何やら取り出した。
「これは魔導証。これがあれば、ここでは不自由しないし、王国の中ならほとんどの町に行くことが出来るわ」
そして、俺の着ているローブの右胸の部分に付けてくれた。なんだか、勲章の様である。
人の列の左側、つまり守衛がいる方にラフィーネは俺を連れていき
「私の知り合いだから、問題ないわ。悪いけど、急ぎの用があるから、通してもらえる?」
「ラフィーネ様とお連れ様ならもちろんで御座います!どうぞお通りくださいませ」
そう言うと、守衛は慌てて俺たちを門の中へと入れてくれた。
門の前はとても美しかった。煉瓦を基調として、町が広がっている。道の先には、城のような建物があり、ところどころ、畑も見受けられた。
「ここがアスタント公国の首都。ミューラント王国の中でも、上位貴族が治める公国ね」
と、町の名前と簡単な説明をしてくれた。
ラフィーネはかなり有名なのか、すれ違う人々がみんな彼女を見ている。中には跪く人なんかもいる。しかし、話しかけてくる人はいない。彼らの俺を見る目も凄い。ある人は睨みつけてきたり、ある人は目を伏せたりと、色々だ。
(なんなんだ、いったい……)
俺としたら少し不気味ではあったが、悪い気はしなかった。なぜだろうか、町の人々が、悪い人間の様に感じなかったからだ。
ラフィーネと教会に向かっていると、古いドアが開いた様な音が近くでした。
「!?」
俺は慌てて周りを見渡した。そこにはラフィーネと、壁と池しかなかった。
ラフィーネを見ると、顔が真っ赤になっている。
「……あなたお腹空いたでしょ?付いてきなさい!」
音の原因はラフィーネの腹だったようだ。俺はラフィーネに腕を捕まれ引っ張られていく。そして、引っ張られなくなったと思うと、美味しそうな匂いのする店があった。
「ここでお昼にするから、教会はそのあとにしましょう」
そう言うと、彼女は店員に2人、と言って奥の席に俺を連れていった。とても丁寧な店員である。
「何が食べたい?」
彼女は俺にメニューらしきものを渡してきた。
(……!?全く読めん……?)
そこには見たことない字?で書かれたものがあったが、全く理解できない。俺はラフィーネの方を見たが、彼女は何やら店員にたくさん自分で注文している。
固まっている俺に気が付いたのか、
「あなたは頼まないの?もしかして、読めない!?言葉は通じるのに……まぁ、いいわ、同じのお願い」
と、店員に注文した。どうやら、ラフィーネと同じものが来るようだ。
しばらくして、店員が料理を運んできた。その間、ラフィーネは待ちきれないのかずっとドアの方をみて、まだかまだかとドアが開くのをみていた。
そして
「来たァ!!……コホン……ありがとう」
畳くらいの大きさのカートに3段、溢れんばかりに料理を敷き詰めて店員が運んできた。俺とラフィーネの前に置くと
「それでは、おくつろぎ下さいませ。」
お辞儀をして部屋から出ていった。
そこには、見たことないような美味そうな料理が、並べられていた。ラフィーネはさっさと食べ始めている。俺も食べることにしよう。
「いただきます!」
ひと口骨のついた肉にかぶりついた。肉汁が溢れだし、肉が口で溶ける。
「う、うまい!」
思わず口に出てしまった。
それくらい美味かった。これならいくらでも食える、そう思うほどに。
「……いただきます?なにそれ、おまじない?」
ラフィーネは食べる手は休めずに聞いてきた。
何だろう、なぜだか思い出せないが、食べる前はいただきます、って言うのがいい気がする。理由は思い出せないが。
「分からないけど、言う気がするんだ」
「えっ!意味無いの!?変なの!」
「変ってほどでも……」
「変だよ!やっぱり変態さんなのかしら?」
そう言ってくすりと笑う。
「でもまぁ、君の世界の魔法で、食前に唱えるのかもね。その名残が残ってたんじゃないの?」
そういわれると、そんな気がする。いや、絶対そうだ。
少々引っかかる様なことも起きたが、俺たちは美味い飯をひたすらに食べ続けた。もちろん完食だ。俺がこんなにも物を食えるとは思わなかった。
ラフィーネは店員に何やら書くと、店員はお辞儀をして去っていった。俺たちはそのまま店を出る。どうやら、ご馳走になってしまった。
「あー、美味い飯をありがとう」
とりあえずラフィーネにお礼を言っておく。
「いいのいいの。私もお腹すいてたし。ほら、それよりここのすぐ近く教会だから、早くいこっ!」
そうして、俺は大きな建物の前へと連れていかれたのであった。




