第十二話
宇宙人侵攻から四ヶ月後。世の中はすっかり太陽に焦げている。
そんな中、魔法少女たちは。
「いよいよ来たっすね!」
「いい体つきのチャンネーたちがうようよいるねえ」
海に来ていた。
モモは騒ぎ、ミカは手を傘にして辺りを右に左に眺めている。
「こういうところに来るのは久しぶりですわ」
レイは日傘を広げ、優雅に金糸の髪をかき上げた。
「みなさん、あまり一人では歩かないように……」
「仕事なしだーーーー!」
「き、キキさん!」
アイはそれぞれの動向にてんやわんや。
キキは誰も彼もお構いなしの高速で波打ち際へと駆けていった。
海に飛び込む綺麗な弧が周りの人の目に映る。
三者三様ならぬ五者五様。楽しみ方は人それぞれだ。
「いやぁ。管理者ながら、キキをあんな子にしてしまって親御さんに申し訳がたたないわ……」
頭を抱えながら魔法少女たちの後ろをついて歩いているのは、サングラスにパーカー、アームカバーに日傘で日光完全防備の上司さんだ。
今回どうにか一日休暇を捻出したのは、彼女が中心となって開発した敵勢力動向予報機の発明が大きい。
どうやって開発されたのかは外部の人はもちろん、上司さんと社長以外誰も知らないとまことしやかに囁かれている。
「上司さん、落ち込んでたら夏が逃げちまうぜ!」
落ち込んでいるように見えたのか、上司の背中をモモが叩いて急かす。
「あ、あはは。そうかもね……ほんと、いくつの夏を逃がしたか……」
行動はうれしく頂いた上司さんだったが、モモの天然にメンタルは瀕死状態に陥った。
「あぁ、トラウマスイッチ押したねこれは」
「へ? なんかありました? スイッチ?」
状況を静観していたミカは苦笑いしているが、急所をついた本人は自分の所業に気付く様子も由もない。
「あんたはあっちでキキさんと遊んできな。ほれ」
「わー! ビーチボールだー! すごーい!」
犬顔負けの執着心をもって、モモはミカが放ったボールを追いかけていった。
「モモ! 早く来な! 今日は満足するまで遊んでやる!」
「きゃー! キキ先輩イケメーン!」
キキも休暇ということがあってか、いやに上機嫌だ。
二人はそのまま二人だけの世界に突入していった。
「先輩方は元気ですわね~」
頬に手を当てて、レイは微笑を浮かべる。
「そうですね……。まだあのノリに完全にはついていけません」
アイはその横で、諦めにも似た苦い笑いを顔に出した。
あの世界に飛び込みたいけれど、どこか遠慮しているような。
「無理についていかなくてもよろしいのですよ、アイさん」
「……レイさん」
「アイさんはやはり、自分より人を気遣ってしまってます。それはよいことですが、自分が自分としていられる場がないと、人は人でいられなくなってしまうと思いますよ」
「……」
「私みたいなおかしな人になるより、アイさんはこの人たちのなかで自分でいられるようにする方がいいのです。あなたがあなたとしていられる場を、ここに作ればいいのです。私で良ければ、微力ながら手助けをさせていただきますよ」
「レイさん……。ありがとうございます。でも、自分を卑下するのはダメです」
「ふふ、そうですわね。ごめんなさい」
魔法少女として戦い慣れてきた二人は、お互いに、自然に笑いあった。
――ヴヴヴヴ、ヴヴヴヴ
「……はっ」
上司の肩掛け鞄が、携帯のバイヴ音を伝えてきた。
振動によってトラウマから脱した上司さんは、何の疑いも持たずに携帯を手に取った。
「はい、こちら……部長!」
どうやら上司さんの上司からのようだ。
「どうしたんですか? へ? 海? まだそんなに入ってませんけど……はぁ どういうことですか! ……まぁ、そりゃそうですけど。出ないって予測だったじゃないですか! この子達だって……。……了解、しました」
唇を噛んで、上司さんは携帯をしまった。
「どうしたの? なんか声荒げてたけど」
ミカが近づいてきた。
いや、ミカだけではない。上司の異変に気付いたのは、モモとキキを除く全員だった。
皆の純粋な疑問と心配の目に、上司は苦しくなった。
「あぁ、言いにくいんだけど……」
――*――*――
キキとモモはきゃっきゃうふふと言いながら、浜辺でビーチボールを使った苛烈なスマッシュ&レシーブに興じている。
「キキさーん! モモー!」
二人のもとに、ミカが全力疾走してくる。
「? いてっ!」
ミカの呼び掛けに顔を向けたがために、モモの頭にスマッシュボールが激突した。
キキもミカに目を向けていたが、何かを感づいたように海の方に向けなおした。
「こっちに! 来ます!」
足を止めないミカから報告が飛ぶと同時に、海から天に向かって何本もの水柱が立った。
キキの口端から、舌打ちの音が漏れた。




