表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/124

-20-

遅れてすみません。そしてブックマーク100件ありがとうございます。

間が空いて、もう話を覚えてないかも知れませんが、少しでも楽しんでもらえれば嬉しいです。

「シンリ、戻ってきたのか。でも、なんでだ?」

「「「シリウス様ァ!シリウス様ァ!」」」


 ヒイラギの声は、村人たちの歓喜の叫びによってかき消された。


「聞こえねえよ!」

「なんで戻って来たんだ!」

「そ、そんな強く言わなくても……いや確かにいきなり毒を喰らわせたし、お前らにどう思われててもおかしくないけどさ……」

「受取り方が違う!」


 声を届かせるために叫ぶように言ったヒイラギが怒っているように見えて、明確な敵意を知り合いに向けられたと思いシンリは少しショックを受けた。

 ヒイラギは誤解を解いて、もう一度シンリに問う。


「その前にこの人たちを退かせてくれない?もう怖いんだけど」


 シリウス様、シリウス様と叫ぶ村人に囲まれているシンリは、そこに一片たりとも悪意がないとわかっていても恐怖を感じずにはいられなかった。


 狂気にも似た行き過ぎた崇拝。

 人間の精神をここまで偏らせてしまう《スキル》や《称号》の力にも、シンリは少なからず恐怖していた。

 もちろん、その力を持っているのが自分であると理解している。


 言葉にできない罪悪感を感じながらシンリはヒイラギたちと共に村人たちから離れていった。



「で、どうして戻ってきたんだ?」

「そう、だよな……俺が戻ってきていい場所じゃなかったよな……」

「受取り方!というか、わかっててやってるだろ」

「まあな。さっき聞いたことだし」


 シンリ、ヒイラギ、エルゼの三人は、村の中心とは少し離れている、エルゼの療養に使っていた小屋を訪れていた。

 

「けど戻り辛かったとか、そんなことを思ってるのも嘘ではないけどさ。スゼ爺とか大丈夫だった?よく考えたら老人に毒喰らわせるとかやっていいことじゃなかったかなって」

「誰に対してもですけど!?」


 今まではシンリにどう接すればいいのか分からず沈黙し続けていたエルゼだったが、思わず突っ込んでしまった。

 ヒイラギも口を縦に振って同意する。


「あのまま村人に囲まれた状態だったら、シンリは同じように毒を撒いてたな」

「いや流石にそれはしない……しないと思うけど……しても、治すし……」

「ですね。そしてまた村から出ていくんですよね。何も言わずに」

「俺を置いてな」

「や、やっぱりちょっと怒ってる?」


 じとーっとした目で2人に見られて、シンリは居心地の悪さを感じた。


 シンリは咳払いをして話題を変える。


「あ、あー、俺が戻ってきた理由だったっけか?」

「そうだった。あまりにもタイミングが良すぎるだろ。いや若干遅かったけどさ。俺たち死んでもおかしくなかったけどさ」

「まじかよ。俺が戻ってきたのは……戻ってきたってか、ちょっと森に用があってな。ほら、あの金色に輝いてた剣があっただろ?」

「ああ」

「あれ、ガチャで当てたヤツでさ、重さが1t以上あるっぽくて収納できないから放置してたんだよ。でもなんかもったいなって思って回収……はできないから、【結界術】ってスキルで守っとこうかなーみたいな」

「色々言いたいことはあるけど……まあ、わかった。でも肝心なことがわからない。森に用事があって村の近くまで戻ってたのはわかった。で、それからどうして村に?さっき戻り辛いって言ってたくらいだから、進んで戻ってきたわけじゃないんだろ?」


 ヒイラギの問いにシンリは答えようか迷って「うーん」と唸ったが、まあいいかと思って答えた。


「エルゼ」

「わ、わたしですか?」

「三回まわってワン」

「え?あ、あれ?ワン!」


 エルゼは戸惑いつつも、眷族として主であるシンリの言葉に抗えず、その場で三回まわって犬のようにワンと鳴いた。


「みたいな感じで」

「いやどんな感じだよ」

「ちょっと待ってください!今のはなんなんですか!」


 恥ずかしさに少し顔を赤らめながら、エルゼは抗議した。

 シンリはエルゼの方へ顔を向けて口を開いた。


「かわいくニャーって」

「ニャ〜……だ、だからなんなんですかぁ!」


 本当に猫のようにふしゃーと怒りながらエルゼはシンリに迫ったが、「かわいかったかわいかった」と軽く流された。

 それでも少し嬉しさを感じて、口をつぐんだ。


「まあとりあえず、色々あってエルゼに命令できる立場にいるんだけど」


 『眷族』という言葉を使えば、シンリが【森聖霊】であることを言わなければならないため、どうにか使わないようにと、大雑把な説明を口にした。

 そんなシンリの気持ちを知る由もなく、エルゼのステータスを視ているヒイラギはあっさりとこういった。


「あ、【森の眷族】?」

「……いやそうなんだけどさ。知ってたのかよ。てか見たのかよ。この変態め」

「こんな小さな子にどんな命令もできるロリコンには及ばないけどな」

「ぐ……いやいやロリコンじゃねえし。つか、なら俺のステータスも見たのか。プライバシーの侵害で訴えるぞ。てなわけで俺も見るから」


 シンリはヒイラギに【鑑定】を使用した。


ーーー


シンリ・フカザト


《称号》

【異界人】【最終者】【生還者】

【疫病神】【毒魔】【害虫駆除】

【苦行者】【災魔】【害獣駆除】

【魔人】【賢者】【聖人】

【聖霊殺し】【森聖霊】【森の主】

【悪人】【善人】【教祖】

【眷族の主】【怨霊殺し】


《スキル》

【毒霧 Lv.7】【観察眼 Lv.6】【ヒール Lv.10】

【活性化 Lv.9】【痛み分け Lv.8】【毒無効 Lv.5】

【猛毒耐性 Lv.7】【衰弱無効 Lv.3】【麻痺無効 Lv.1】

【状態異常耐性 Lv.7】【魔力Ⅲ Lv.8】【災厄の予兆 Lv.8】

【キラー:虫 Lv.10】【穴掘り Lv.10】【疫病耐性 Lv.6】

【呪毒耐性 Lv.5】【睡眠耐性 Lv.5】【苦痛耐性 Lv.7】

【痛覚耐性 Lv.8】【飢餓耐性 Lv.4】【探査 Lv.6】

【鑑定 Lv.7】【収納術 Lv.10】【破魔 Lv.4】

【直感 Lv.9】【腐蝕耐性 Lv.4】【キラー:獣 Lv.6】

【人化 Lv.-】【従命 Lv8】【魔力効率化 Lv.7】

【偽装 Lv.2】【影踏み Lv.1】【空中歩行 Lv.3】

【剣術 Lv.3】【敏捷 Lv.6】【召喚 Lv.10】

【聖霊信仰 Lv.-】【森力 Lv.10】【身体強化 Lv.4】

【除霊 Lv.1】【浄化 Lv.1】


スキルポイント:23


ーーー


「あれ?」


 なぜか、シンリの目に映し出されたステータスはシンリ自身のものだった。


「へぇ、見られたっていうのは分かるのか。というよりスキルのおかげか?」

「いや見れてないんだけど。俺のステータスが見えるんだけど」

「ああ、【鏡写】が発動してるからかな。誰かが俺を見ると、鏡を見ているようにその人に見えるってスキルなんだけど、それがステータスにも効果が出てるんだと思う」

「なんだそのスキル。それが与えられたスキルだったり?」

「んー、ていうか、統合されてる内の一つって感じかな」


 ヒイラギは「それとさ」と付け加える。


「俺もシンリのステータスは見てないよ。見てないというか、見れなかったって感じだけどさ」

「ああ……。見ようとはしたんだな」

「相手のステータスを見る、RPGの基本だろ?」

「そんな基本は捨ててしまえ」


 人間であるヒイラギに、聖霊となっているシンリのステータスは見えなかったのだろう。

 シンリが聖霊に【鑑定】を使った時のように『【鑑定】が無効化されました』と表示されたに違いないとシンリは思った。


 ヒイラギは笑いながら「まあそれはいいんだけど」と前置きをして言った。


「シンリがエルゼちゃんのご主人様ってことはわかった。で、それがさっきの話と繋がるとなると、村に戻ってきた理由はエルゼちゃんを助けに来たってところか?眷族の危機がわかるとかでさ」

「なんとなく、ってそんなレベルの胸騒ぎだったけどな。ついででもなんでも、見に来てよかったよ」

「そっか。そう言えば、まだ礼を言ってなかったな。助かった」

「あ、ありがとうございましたっ」

「う、うん。どういたしまして。……俺も無関係じゃなかったしな……」


 彼らには聞こえない声でシンリはつぶやいた。


 とりあえず話が一段落ついたところで、エルゼが躊躇いがちに言う。


「シンリさん。また、すぐに出ていくんですか?」

「……あー。いや、ちょっと残るよ。それと、スゼ爺に頼みたいことがあるから呼んできてくれないか?」

「本当ですか!わかりました!すぐに呼んできます!」

「そんなに急ぐ必要はないぞー……って聞いてないな。てか速っ!病弱少女はもう見る影もないな」


 笑顔で小屋を出て【風魔法】を使って加速しながら駆けていくエルゼを見てシンリは苦笑いをした。

 そして「悪いな」と呟く。


「ヒイラギ、いきなりこんなことを聞くのもアレなんだけどさ、記憶を操作するスキルとか持ってないか?」

「本当にいきなりだな。そんなスキル何に使うんだよ」


 当然の疑問に、シンリは即答する。


「俺の存在をこの村人全員に忘れさせる」

「は?どうして」

「狂ってるからだよ。俺のせいでな。さっきの見ただろ?異常なくらいに俺を崇拝する人たちを。アレ、いくら聖霊といっても、女の子を刺した俺に対する反応なんだよ。そんなん、普通じゃないだろ」


 苦虫を噛み潰したような顔をしながらシンリは言った。

 そんな苦しそうなシンリを見て、ヒイラギは答える。


「……わかった。そんなスキルを持ってないわけじゃない」

「本当かっ!」

「ああ。でも、記憶の消去なんて便利なことができるスキルでもない。せいぜい、記憶の置き換えくらいだよ」

「置き換え?」

「そのままの意味さ。お前に対する感情を他の対象に移す」

「それあんま意味なくないか?他の誰かを同じように崇拝するのなら、狂ってるのは変わらないだろ」

「人、ならな。物とか概念とかだったら、いくらか健全だろ?それこそ、普通に本物のシリウス様を信仰の対象にさせればいい。ちょうどそのシリウス様を殺した武器があるわけだし、関連があるなら記憶の置き換えもスムーズにできるだろ」


 シンリはヒイラギの言っていることがイマイチわからずに、疑問の表情を浮かべていた。



「これでよかったのか?」

「これでよかったんだよ」


 2人は壊れた家の残骸の影に隠れて、村人たちの様子を見ていた。

 火を焚いて、一本の剣の前に大勢が集まっていた。


 村人の記憶は既に置き換えられている。

 シンリが村人全員を集め、ヒイラギが【蛇眼】の中にあるスキルを使用し、記憶の置き換えを行った。

 村の中心に刺さっている黄金に輝く剣には、シンリが施した【結界術】の効果で触れることはできないが、リンゴなどの果物が供えられていた。膝を着いて両手を合わせ、祈っている人も見られる。

 神様のような扱いだが、少なくとも、シンリにしていたような異常な崇拝はされていない。やはり、人と物と信仰対象が変わるのならば信仰方法も変わるのだろう。

 それはアイドルを目の前にして叫ぶほどに高揚するファンが、写真の前では叫んだりはしないことと似ているのかもしれない。


「お前まで隠れる必要はないんじゃないか?」

「何がトリガーになって記憶が呼び起こされるかはわからないからな。俺に関する記憶も、この前に来た旅人と置き換えておいたんだよ」


 村人たちの様子におかしいところがないことを見届けて、シンリたちは歩き始めた。


 ドンッ


「おっと」

「す、すみませんっ」


 シンリのお腹あたりに衝撃が走った。

 走っていた子供とぶつかってしまったらしい。


「あ」

「えっと、村の人……じゃないですよね。全員覚えているわけじゃないんですけど、この国の人たちでもないですよね?」


 その子供、エルゼは困ったように笑いながらシンリたちにそう尋ねた。

 村人全員の記憶を置き換えた。もちろん、彼女もシンリたちのことを忘れている。


 シンリはしゃがんでエルゼに目線を合わせた。

 何も言わずに記憶を置き換えたことに、思うところがあったため、見下ろしながら話すのは失礼な気がしたのだ。


「ただの旅人Aと旅人Bだよ。ちょっと、この村に面白い物があるって聞いてね。見に来たんだ」

「シリウス様ですね。シリウス様はわたしの病気を治してくれたり、本当にすごいんですよ!わたし、シリウス様が大好きなんです!」


 興奮に頬を染めながら誇らしげに話すエルゼに、シンリとヒイラギは後ろでヒソヒソと会話する。


(え、なに、そんな素振り見せてたか!?キュンキュンするんだけど!)

(それよりも、剣に恋する女の子って色々やばいぞ!シンリ……いやシリウス様!これは責任取らないとな!)

(お前楽しそうだな!)


 エルゼが『シリウス様』の話をしている間、シンリとヒイラギは静かに争っていたが、エルゼが再びシンリに話しかけると、シンリは裏返った声で反応した。

 ヒイラギはそれを見て笑っていた。シンリは、後でヒイラギを殴ろうと誓う。


「ところで、旅人さんたちは、村に泊まっていかれますか?今は地震の影響で何もない場所ですが、寝る場所として小屋くらいはありますよ?」

「いや、もう行くよ。ありがとう」

「そうですか……では」


 エルゼはとても自然な動作でシンリの顔に手を伸ばして、自分の胸に抱き寄せた。

 そしてシンリの額にそっとキスをする。


「では、また来てくださいね。シンリさん、ヒイラギさん」


 顔を真っ赤にして、エルゼは消えるようにその場から離れた。


 シンリとヒイラギは驚きに口を開けたまま、互いの顔を見る。


「さ、最近の子って大胆だな〜」

「ヒイラギくーん?普通に覚えてるんですけどぉ?」


 シンリはゆらりと立ち上がる。


「グループチャットでシンリがロリコンだとバラされたくなかったらその腕から溢れてる毒を消してもらおう。いや消してください。ごめんなさい!ていうか、エルゼちゃんの記憶があるのは、シンリの眷族だからだろ。俺は悪くないと思うな、うん」


 シンリも、それは分かっているので毒を纏うだけにとどめて、深いため息をつきながら額を触る。


「……行くか」


 今度こそ、シンリは村から出ていく。

 見上げた夜空には、微妙に満月になりきれていない月が、明るく世界を照らしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ