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お読みいただきありがとうございます。
そしてすごく遅れてすみませんでした。
時間が開いて、自分でもこんな感じでいいかわからないんですが、少しでも読んでもらえれば嬉しいです。
キメラはヒイラギには目もくれずに、彼を飛び越えてエルゼを狙った。
キメラは空中で、口からシンリの【毒霧】のような瘴気を吐き出したが、エルゼはそれを風を操って霧散させる。
「無駄です!」
「ちょっ!来てる来てる!俺のとこに……ごほっしかもこれ、結構な毒……」
エルゼは風で自分を守ったが、風によってまき散らされた瘴気は近くにいたヒイラギを襲った。しかもそれはヒイラギのそれなりに育った耐性スキルでも耐えられるものではなかったらしく、ヒイラギは地面に膝を付けた。
「ひ、ヒイラギさん!?わ、わ、えっと……きゃあ!」
そんな自分のせいでダメージを負ったヒイラギを見て慌てたエルゼは戦闘中にもかかわらず目の前のキメラから目を離してしまい、キメラの接近を許してしまった。
身体を動かすことすらほとんどできない身体だったエルゼだ。シンリの眷属となったことで、多少身体的に強化されて普通に動くことは問題はないものの、今まで動くことがなかった分、動くことには慣れていない。
その上キメラの動きは俊敏で、エルゼは為す術もなく頭を掴まれ持ち上げられてしまった。
「あ……ぐぅ……」
一切の容赦ない凶悪なまでの握力がエルゼの頭を握りつぶそうと襲い掛かる。
「ああああああぁぁあ!!」
「エルゼちゃんっっ!!」
「グラアアアアアァァァァ!!」
ヒイラギは届かないと分かっていても、悲痛な叫びをあげるエルゼに向かって手を伸ばさずにはいられなかった。
しかし、その行為もむなしく、奇跡などは起こらず、くしゃりとリンゴがつぶれるような音がして、エルゼの手足はだらりと下に落ちた。
「嘘……だろ……?」
「グギャギャギャギャギャッ!!ギャッギャッギャ!!」
キメラは高らかに笑った。
本当に嬉しそうに、本当に楽しそうに、ずっと殺したかった相手をようやく殺せたような、それほどまでにゲラゲラと、ゲラゲラとーー
〇
「ーー随分と愉快な感じに笑っているけど、いったいどんないい夢を見ていたんだ?」
「グラァ!?」
キメラの背中に灼けるような痛みが走る。
切られたのとも、刺されたのとも違う奇妙な痛み。
喰らった魔物の記憶を引き出して、その痛みがなんなのかはすぐに分かった。
【光魔法】と呼ばれる、癒しと浄化を担う魔法だ。
痛みの正体は分かったが、なぜそれが今、自分の背中を傷つけたのかがキメラにはわからなかった。
ニンゲンの1人が光魔法を使っていたが、そいつは毒で動けなかったはずだ。なのに、どうしてこのニンゲンは今自分の背後に立っているのか。
なぜ、今しがた頭を潰して殺したはずの、忌むべきニンゲンの眷族を無傷で脇に抱えているのか。
自分の手の中にある、この潰れた赤い果物は、いつ掴んだものなのか。
分からない、分からないが、相手が生きているのであればやることは決まっている。
喰らって喰らって喰らい尽くす。
そしてあの忌まわしきニンゲンも、骨の一欠片も残さずに喰らい尽くすのだ。
「グラアアアアアァァァァ!!」
キメラは関節という言葉を知らないかのように首を180度回して、ヒイラギに噛み付こうと大口を開けて迫った。
だがヒイラギは慌てることなく冷静に、瞳を大きく開いた。
「お前に『幻術』をかけている間に、ステータスは覗いているんだよ!」
ヒイラギの瞳が妖しく光る。
「グガァ!」
キメラはその場から動かないヒイラギの胴体に噛み付き、喰らった。しかしキメラの顎が砕いたものは、ニンゲンの柔らかい肉ではなく、太い木の幹だった。
「『幻術』に『幻惑』に『夢幻』……似たようなものがいくつあるんだよって思ったけど、お前には抜群だったらしいな。自分が今、どんな状態異常に掛かってるかわからないだろ?」
その声はキメラの頭の上から降り掛かってきた。
自分の体長の半分程度しかないニンゲンの声が、どうして上から聞こえてくるのか分からない。
混乱していると、視界が切り替わった。
自分の中に存在する、最初に取り込んだナニカが力を与えてくれたのだ。
キメラは地面に倒れていた。
両手両足を【光魔法】の槍で縫い付けられ、目の前のニンゲンが止めと言わんばかりに光で出来た剣を頭目掛けて振りかぶっていた。
「今さら耐性を取得したとしても、遅いっ!」
「グラアアアアアァァァァ!!」
ーー代ワレ
突然、自分の中から声が聞こえてきて、キメラの意識は消滅した。
〇
「や、やりましたか?」
「それは言ったらダメなやつ!でも、流石に終わったんじゃないかな。いくら膨大なスキルを保持していたって言っても、生き返ることができるようなものはなかったと思うし……」
ヒイラギが視たキメラのステータスは、異常の一言に過ぎる。
視界がキメラの《称号》や《スキル》によって埋め尽くされるほどに多く、キメラが持っていない耐性を探すのにも時間がかかった。
スキル編成もちぐはぐで、水棲の魔物が持っていそうな【高速遊泳】というものがあったと思えば【飛行】などという空を飛ぶためのものがあったり、スライムの【分裂】やオークの【悪臭】など様々なものが見られた。
それはまるで、スキルを吸収しているみたいに。
(【暴食】って、大罪といういかにもなスキルがあったから、そう考えても不思議ではないけど……)
目の前の、頭が真っ二つにされた……というより真っ二つにしたキメラを見下ろした。
先程、【蛇眼】で視て『死体』と表示されたことから死んでいるのは確実だが、なんとなくもう一度見た方がいい気がして、【蛇眼】を開いた。
『【蛇眼】が無効化されました』
「っ!エルゼちゃんごめん!」
「きゃっ!」
ヒイラギは側にいたエルゼを力の限り突き飛ばす。
次の瞬間、キメラの死体が破裂し肉片が飛び散った。
ヒイラギは【蛇眼】による未来視と【思考加速】でそのすべてを避けることができたが、飛び散った肉片に触れた地面が煙を上げて溶けているのを見て冷たい汗が背中に流れた。
「なん、だ?コレは」
肉片はブヨブヨとスライムみたいに動き、一箇所に集まる。
そしてそれはやがて人の形を形成した。
人の形で人の姿。見た目は少女のようだった。
美しく、気高く、凛々しく、麗しく。
見るもの全てを魅了してしまうような、芸術品とも言える完成されたナニカだった。
その人間離れした……実際に人ではないが、その姿を見たヒイラギとエルゼは涙を流していた。
感動して。
それと同時に恐怖して。
すぐにでも近付きたいのに、今すぐに逃げ出してしまいたい。
そのどちらも選ぶことができずに、ヒイラギたちは震える足でただ立っているしか出来なかった。
「……ニンゲン」
少女が口を開いた。
その声を聞いただけでさらに涙が溢れてくる。
その声を向けられたエルゼは、返すことに躊躇いつつも無視することはできずに、「は、はい」と言った。
「オ前ノ主ハ何処ニイル」
「ある、じ……。シンリさんは……、分かりません」
「ソウカ。デハ貴様ハ?」
「わ、分からない……」
「ソウカ。折角肉体ヲ得タトイウノニ、アノニンゲンヲ殺スノハ先ニナリソウダ」
少女はため息をついて、動けない2人に背を向けた。
数歩離れたところで思い出したように振り返って、表情を変えることなくつまらなそうに言った。
「取リ敢エズ、死ネ」
少女が腕をムチのように変化させて、それを振るう。
避けることなど不可能だった。
身体が動かない以前に、人間に反応できる速度ではなかった。
ヒイラギは【蛇眼】のおかげで……いや【蛇眼】のせいで、その動きが目で追うことができ、自分が死ぬということを理解できた。
(……何も分からないまま、死ねたらよかったのに。というか、ここでもシンリか。恨むぞ。そういえば、こいつの名前って……)
死の間際に、ヒイラギは目の前の少女の名前のことを考えていた。
少女自体は何も視ることができなかったが、キメラが持っていた《称号》の中に、この少女の名前と繋がっているのではないか、というものがあった。
確か、それはーー
「イヤ」
ヒイラギの首を数ミリ裂いたところで、腕のムチは止まった。
「ニンゲンハ、仲間ガ死ヌト絶望スルモノダッタナ。ナラバ、貴様達ハ奴ノ目ノ前デ殺ストシヨウ」
そう言って、少女は今度こそどこかへ行ってしまった。
少女が見えなくなったところで、ヒイラギとエルゼはあまりの安堵にその場にへたりこんだ。
「な、なんだったんですか……あの、今の……」
「し、知るわけないだろ……でも名前は、シリウスだったよ」
「シリウス……豊饒の女神でしたっけ。え、女神?」
「【怨霊・シリウス】ってね。多分だけど。女神に恨まれるなんて、シリウス様は何をやってるんだか」
「シリウス様?え?どういうことですか?」
「ああ、それはね……」
村でシンリがシリウスと呼ばれていたことを知らないエルゼに説明した。
「なるほど……。あれ?あぁ!!」
「ど、どうした?」
「シリウス様が行った方向って!」
「え?シンリ?」
「違います!女神様が行った方向って思いっ切り村の方向じゃないですか!」
「あ……」
ヒイラギとエルゼは急いで村に向かった。
いや、彼らが今いる場所も村の中ではあるのだが、建物が建っている場所とは少し離れていた。
進むにつれ、圧倒的な力によって壊されたような家や地面があちこちに見られ、ヒイラギたちの心中は穏やかではなかった。
「はぁはぁ……は?」
「え?」
2人が見たのは、有り得ない光景。
木々は倒され、建物は倒壊し地面はえぐれていた。
そこに村があるのだとは全く信じられない、まるで大災害にでもあったのかというほどの破壊し尽くされた光景だった。
だが、死人は一人もいないだろう。
村人の全員が、たった一人の人物をまるで英雄のように崇めていた。
「なん、だよ……」
「まさか……そんな……」
「あ。よ、よう。とりあえず、助けてくんない?」
「「「シリウス様!シリウス様!シリウス様ァ!!」」」
気まずそうな笑みを浮かべながら、シンリはヒイラギたちに助けを求めた。
その傍らには、黄金に輝く剣が堂々と地面に突き刺さっていた。
遅れた言い訳が許されるのであれば、レポートやバイトで忙しかったんです、と言いますが、最大の理由は、書いてる途中に『こいつ倒せなくね?』とか思ったりして八方塞がりになったりとそんな感じです。
村に行かなければこんなことには……っ。




