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紫霧を纏う毒使い  作者: 雨請 晴雨
3章 魔人帝国シラカバ
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-71- シビトハザード④

お読みいただきありがとうございます。

「龍ヶ崎さん……?」


 いつの間にかそこにいたクラスメイト。

 そのことに少なからず衝撃を受けた。

 聞いた通りならば、彼女は既に死んでいるはずで……。


「綺麗な顔してるでしょう? あれ、死んでるのよ?」

「なんか……余裕ありますよね……」


 アキヅキが1人だったのならば、状況を受け入れるのに時間を要したかもしれない。

 だが、ノリトの軽口のおかげで変に動揺せずに済んだ。


「龍ヶ崎さんのこと、何か知ってます?」

「ドラゴンの能力だったはずよ。詳しく何ができるかまでは見てないけどね」

「ドラゴン……」


「ねぇ、なにひそひそ話してるのー? あまちも混ぜて!」


 足をドラゴンのものへと変化させれば、その膂力がだせる。

 腕をドラゴンのものへと変化させれば、その破壊力がだせる。

 ドラゴンのものへと変化させずとも、ブレスを吐き出し、翼を生やせば空だって飛べる。

 それが龍ヶ崎 天葉の持つ魔物スキル。


 床が破壊されるほどの踏み込みで飛びかかってきたアマハは、その凶悪な腕を振るう。


「──ッ!?」


 かろうじて避けた2人の背後の壁には風穴が空いていた。


 膝をつく2人の目には、きっとアマハは怪物のように映ったことだろう。


 その破壊力を見て、人間に耐えられるものでは無いと理解したノリトが必死にアキヅキに呼びかける。


「逃げるわよ! こんなのな勝てるわけ──」

「龍ヶ崎さん」


 しかしアキヅキは、目の前にいるアマハに声をかけた。

 アマハが腕を振るえば殺されるその距離で。


「なに?」


 いつでも殺せるその距離だからか、それともマイペースな性格からか、アマハはその呼び掛けに応える。


「龍ヶ崎さんは……ゾンビは、死なないんですよね? 例えば、心臓が刺されても」

「うん、そうだよ! 真っ二つにされても、潰されても、バラバラにされたって死なないの! ヅッキーもそうなるんだよ! うれしい?」

「ええ、そうですね──」


 アキヅキはほくそ笑む。


「安心しました。──ノリトさん! 龍ヶ崎さんの動きを止めてください!」

「え? え? ……ええ、わかったわ!」


 アキヅキが身をもって知っている、ノリトの拘束能力。

 一定範囲内の生物の身体を硬直させ、動けなくさせるというものだ。おそらく、拘束時間はそう長くはないだろうが、今はそれだけで充分だった。


「なにするの──なにそれ、あんた」


 アマハが壊して、散らばった瓦礫。

 それをアキヅキの能力で結合させ、擬似的な腕としてくっ付けた。


 ノリトと、動けないアマハの視線はその先端にある。

 石の腕に握られているのは、無骨なだけの、巨大な剣。


「ドラゴンバスター」


 ヒイラギにも、シセルにも、もちろん子供たちにも持つことができない、鉱物で武装したアキヅキにしか扱えない超重量の武器。

 その出処は、シンリがいなくなる際に置き土産のように残したものであるが今は関係のないことだろう。


 ドラゴンバスター。龍破壊ドラゴンバスター

 その名の通り、龍特攻効果を持つ大剣である。


 それは、龍に対する絶対優位。


 例えるなら、狼男に対する銀の弾丸のように。悪霊レイスに対する聖水のように。吸血鬼に対するにんにくのように。


「死なないって言ったんですから、死んだら恨みますよ」


 龍を、殺す。



「やった……のよね?」

「ええ、おそらく。使ったのは初めてでしたけど、これで龍ヶ崎さんは動けないはずです」


 アキヅキの目の前には、腹に剣を刺され、そのまま壁に縫い止められているアマハがいた。

 電源の切れたロボットのように、手足がだらりと下がり、事情を知らなければ死んでいるようにしか見えない。


「……え、死んでません、よね?」

「……息をしてなくて、瞳孔開いてて、心臓も……止まってるわね」

「そ、それはっ、ゾンビだからなのでは!?」

「──いつからゾンビが死なないと、錯覚していた?」

「ふ、ふざけてる場合ですかッ!」


 怒るアキヅキを、ノリトはまあまあと両手で宥める。


「ジョーダン、冗談よ。龍ヶ崎を刺したこと、気に病んでるかと思ったけど、その様子じゃ大丈夫そうね」

「……ああ、気遣ってくれたんですか。大丈夫ですよ。取り返しのつくことなら。だから龍ヶ崎さんが生きてるのかを──」


「み、ミカヅキおねえちゃん!!」


 廊下の角から姿を現したのは、部屋で寝ているはずの子供だった。

 全員で10人いるのだが、今ここにいるのは3人しかいない。


 嫌な予感がして、アキヅキの背に冷たい汗が流れた。


「どうして、ここに……?」


 抱きついてきた子らの背中を擦りながら、なぜここにいるのかを尋ねる。

 子供たちが口を開く前に、その理由は第三者によって明かされる。


「よォ。アキヅキ ミカヅキ。……と、お姫様」

「白樺、司人……ッ! この子たちに、なにをしたんですかッ!」


 手を赤く染めたシビトに、アキヅキは怒鳴るように言った。


「そう怒るなよ。何も、全員殺したわけじゃねぇんだからよ」

「こ、の……ッ!」


 アキヅキは先程と同じように瓦礫で腕を構築し、シビトに向かって振り下ろす。


「はん。効くかよ、こんな……あ?」


 シビトは受け止めようとするが、ノリトによって身体の自由を奪われ、その一撃を無防備に受けることとなる。


「おいおい、容赦ねぇなァ。死んでなかったら死んでたぞ」

「化物……」

「お互い様だろ? 仲良くしようぜ」


 潰れたはずの肉塊が勝手に浮き上がり、人の形となり、飛び散った血や臓器すらも元通りに再構築され、白樺 司人を造りだす。


「それよりも、だ。さっきのはなんだ? ありゃてめぇがやりやがったのか? あ? お姫様。皇族の血だからってにゃんこ博士が言うから生かしておいたが、邪魔するなら殺すぞ?」

「ひっ」


 睨まれて、短く悲鳴を漏らすノリトにアキヅキは「お姫様、逃げてください」と言った。

 ノリトは少し迷ったが、アキヅキにもう一度言われてこの場から離れていった。


 それでいい。

 他人の命など背負いたくはない。


 アキヅキは目の前の『敵』を見た。

 白樺司人。クラスの男子。

 武器は何も持っていないが、ゾンビであると言うのなら、脳のリミッターは外れ、人間を超えた力を出せるのだろう。


 そして何よりも、ゾンビであるゆえの不死。

 壊しても再生する肉体は、どうすれば勝てるかなんて見当もつかない。


 だが、それだけだ。


 人を超えた力なら、鉱物で武装したアキヅキにも出せる。

 身体を鉱物に変質させれば、魔力が尽きぬ限りいくらでも再生できる。


 そう、言ってみればシビトの能力はアキヅキと同じだ。

 そしてさらに言えば、場所は城の中。それも、高い位置にいる。

 シビトを壁ごと殴って落としてしまえば、逃げる時間を稼ぐことができるだろう。


「おねえちゃん……」


 不安そうに、子供たちが抱きついてくる。


 ──大丈夫。

 その言葉が出てくることはなかった。


 腹部に熱を感じた。

 遅れて、凄まじい痛みが生じる。

 視線をやれば、腹から刃物の切っ先が見えていた。


「しら、かばぁ……」

「おいおい、そんな怖い顔で睨むなよ」


 立っていられずに床に倒れた。

 おびただしい量の血が床を染めている。


 アキヅキを刺した子供たちは、彼女から離れてシビトの元まで近寄った。


「しびとさま」「しびとさま」「しびとさま」

「ああ、よくやった、ガキども」


 シビトは自分に群がる子供たちの頭を乱暴に撫で回す。


 その光景を、狭まる視界の中で見届けながら。


 アキヅキの意識はそこで途切れた。

前回出てきた『幽合体』とやらは、きっとアキヅキたちがいる高さ程の大きさはなかったんでしょうね(適当)

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