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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第一章

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第49話 彼女の嫌われる決意

 思ったよりスムーズに終わった、放課後の事実確認。

 俺に対する先生たちの態度で懸念すべきことは幾つかあったが、俺自身の評判なんて今更だ。大した問題じゃない。一番の問題は瀬那に関わる懸念だ。しつこい男は嫌われると思うけどな。


 帰宅後、俺たちはいつも通りスーパーに行き、晩ご飯を作る。買い物の途中も料理中も、瀬那がずっと何か考え事をしているようだが……。聞いてみても「今は気にしないでください」としか言わない。

 ちなみに今の俺は片手が使えないため戦力外なので、鍋が焦げ付かないように混ぜたり、要らないものを仕舞うぐらいしかできなかった。むしろ、それすらも何とか懇願してやらせてもらった状態だ。


「なんで、その痛々しい怪我の状態で無理に手伝おうとするんですか……意味がわかりません」


 エプロン姿の瀬那に、心底呆れたようなジト目を向けられてしまった。

 だって、ただでさえ世話になりっぱなしなのに、ソファーでふんぞり返って待っているなんて男として居心地が悪すぎるのだ。来週になればある程度左手も動かせるようになるだろう。あくまで希望的観測ではあるがな。


 利き手の右手は無事なので、食事自体はそこまで不便ではない。ただ、どうしても茶碗が持てないため、テーブルに置いたままの犬食いのように行儀が悪くなってしまう。俺が気にしていると、瀬那は小さくため息をついた。


「怪我人に『その手で器をきちんと持ちなさい』なんて、言えるわけないでしょ……気にしないで食べてください」


 ここでも呆れられ、甘やかされてしまった……。


 今は食後のゆるいタイムだが、洗い物もさせてもらえず、俺は仕方なくテーブルで課題をしている。怪我をしていても、課題の提出期限は待ってくれないからだ。


「どうですか、課題の方は?」


 洗い物が終わったのか、手を拭きながら瀬那がこちらに話しかけてきた。


「あと少しってところだな。片手だからいつもよりは時間かかっているけど、これなら何とかなりそうだ。手よりも、眠いことの方が辛いかもしれない。洗い物もありがとう」

「どういたしまして。私も今日は授業中に寝そうでした。耐えられたのが嘘みたいです」

「そうだな……っし! 終わった。瀬那の課題は大丈夫なのか?」

「お疲れ様です。私は休み時間に終わらせました。量が少なかったので」


 少ないと言っても、他にもやることがある中で休み時間に終えるとは凄い。俺だとそもそも休み時間にやる気が出ないからな。

 俺の横にちょこんと座った瀬那は、こちらをじっと見つめながら、居住まいを正した。

 膝の上で両手をギュッと握りしめ、口を開きかけては閉じてを繰り返し、何かを言おうか言わないか、ひどく葛藤しているようだ。


(前にも、こんなふうに思い詰めた顔をしてたな)


 やがて意を決したのか。瀬那は一度ギュッと目を閉じてから、張り詰めたような真剣な目つきでこちらを真っ直ぐに見た。


「……朔也くん。お時間をいただいてよろしいですか? 多分……ひどく長くて、退屈な話になります」

「課題も終わって、もうやることは無くなったから大丈夫だよ。どうした?」

「ありがとうございます。……私の……私の『家族』について、少し、話そうと思います」


 ひどく辛そうな顔で、こちらを見ながら絞り出すように言う。

 その琥珀色の瞳には、今日の夕方、理事長室の前で見せたのと同じ『心配』と『不安』の色が濃く入り混じっていた。……俺が朱門さんから余計なことを吹き込まれていないか、恐れているのかもしれない。

 俺の脳裏に、理事長の言葉が蘇る。


『瀬那が自分から話すのを待っていてあげて。あの子は東條くんを信頼しているみたいだし、いつか必ず話してくれるわ』


 ――まさか、こんなに早くその『いつか』が来るとは、流石に思わなかったよ。


「瀬那、辛いなら無理して言わなくてもいいよ? 過去に何があろうと、俺が聞いても聞かなくても、俺とお前の関係は今まで通りなんだしさ」

「……駄目です。言わないといけません。叔母が朔也くんと直接関わりを持った以上、うちの事情がいつ、どんな形で朔也くんに伝わるかわかりません。……それなら、誰かから聞く前に、私の口からきちんと言いたいのです。それに……」


 瀬那はギュッと唇を噛み締め、言葉を震わせた。


「この家の異常な話を聞いたら……朔也くんは、私の血を気味悪く思って、嫌いに……もう、触れたくすらなくなるかもしれません。……でも、もしそうなって、私を追い出したくなったとしても……どうか、朔也くんの左手が完治するまで……ここに……居させてください」


 まだ、俺が何も言っていないのに。彼女の大きな瞳には、今にも零れ落ちそうなほどの涙が一杯に溜まっていた。

 自分が絶対に軽蔑されて嫌われると、はじめから思い込んでいるような悲壮な覚悟。そこまで自分を追い詰めてでも、言わないといけないことなのだろうか。


「もう泣きそうじゃねーか。そこまで怯えて話さなくてもいいと思うが……そういう問題じゃないんだよな」

「はい……っ」


 涙を限界まで溜めている瞳は、それでも決して逸らされることなく、真っ直ぐに俺を見ていた。


「わかった。ちゃんと全部聞くよ。……だから、安心して話してくれ」

「……ありがとうございます」


 瀬那は目尻に浮かんだ涙を指先で拭うと、一度、深く深呼吸をしてから――その重い口を、静かに開いた。



最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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