悪いがな
「・・先ほどの、息のあった親父殿ならば、あそこまで血を吐いていても、助けられたのかい?」
「・・・・・」子どもはうなずく。
絵師はため息をつき、坊主をみやった。
首をかいた坊主は、しかたねえ、とあっさり言いきった。
「親父殿は、あの男に、あの場で、《その力》をみせたくなかったのよ」
だから、手を払い、すべて己のいんちきだと。
場面を思い出したのか、また泣き出した子の頭を絵師は抱える。
「おまえのせいでは、ないよ」
「おれが・・やんなかったら・・」
「おまえが病や怪我を治してやった者もたくさんいるのだろう?」
ありきたりな慰めしか、できなかった。
「―― わるいがな、その通りだ」
「スザク!」
抱えた子どもの頭が揺れて絵師は腹が立った。
この男は、こういうところが、鈍い。
「だって、そうじゃねえか。それにな、やはりおまえはおれたちと天宮に来てもらう」
これほど強い力をもっているのでは、宮で名を記さねばならない。
「親父殿の名も調べなきゃならねえだろうし、まあ、帝にじかに会ったほうが早そうだ」
ミカド?と子どもが固くなったのがわかる。まあ、下界の人間にとっては、それこそ雲の上の存在だ。
セイテツが、心配しなくともいいから、と性格の悪い《白猫》をおもいながらなぐさめる。




