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海の民 第一章  作者: 来栖 傳
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終章 エピローグ予告

第一章の締めくくりとなる終章です。

王宮で告げられた新たな命と、仲間たちの選ぶ未来。

そして、ヒメ様がこの世界に転生した意味が、少しずつ形を持ち始めます。

次章へ続く大きな流れを感じていただければ幸いです。

久しぶりにあまんとの王宮、荘厳なるサーガの玉座の間に帰還した面々を待っていたのは、勝利を称える歓迎の宴ではなかった。重苦しい沈黙の中、玉座の王と、その傍らに立つ宰相から下されたのは、極めて厳格にして絶対の「王命」であった。

「シオジは此度の遠征における勲功第一とし、イチヒメノミコトを娶ることを許す」

王の朗々とした声が、大理石の柱に反響する。続けて、宰相が厳かに書状を読み上げた。

「ジダンにはサクラを配する。末永く大切にせよ」

その瞬間、二人の青年の膝は今にも崩れ落ちそうになった。もしここが王と宰相の御前でなければ、間違いなく床に突っ伏して頭を抱えていただろう。あまりにも急転直下な、しかし決定的な運命の宣告だった。


「ですが、王よ……ジダンには……他に想い人がいたはずでは……」

サクラが躊躇いがちに、しかし隣で完全に硬直しているジダンを気遣うようにぽつりと呟いた。自身に下った婚姻の命は心の底から嬉しいはずなのに、どこまでも他者を思いやる、彼女らしい不器用な優しさだった。

「えへへ、師匠ですか〜。いやぁ、仕方ないですねぇ。王命じゃあ、ねぇ?」

一方で、こちらは全くデリカシーのないニヤケ顔を浮かべたヒメ様である。だらしなく口元を緩め、ジダンへの気遣いなどどこへやら、すでに完全なる勝者の余裕を漂わせてスカートの裾を揺らしている。

王は我が娘の締まりのない顔に微かに眉をひそめつつも、すぐに威厳を正し、低い声で場を圧した。


「此度の件は、女子たちの意見を全面的に取り入れた。これこそが末永く海の民を率い、世界の均衡を保つための『最適解』なのじゃ。もはや異論は許さぬ!」

これまでの心労と胃痛からようやく解放された宰相も、実に対照的な、晴れやかな顔で深く頷く。

「そしてイチヒメノミコト、ならびにシオジ。二人は分家として再び瑞穂の国へと居を構え、彼の国を我が国以上に豊かな実りの国にせよ。これを次なる命とする」


これこそが、転生時に神から与えられた、

一度だけ使えるチートスキル――『クリエイティブ・ワールド』の導き。


その一撃で世界は生成されたが、

ヒメの知識不足のせいで、史実の古代日本とはちょっと違う世界になってしまった。


それでも、その“ズレ”こそが神の采配。

ヒメが幸せになれるよう調整された、必然の世界だった。


(師匠なら……)

ヒメは静かに、隣で魂が口から抜けかけたような顔をしているシオジを見つめた。

(師匠なら、私のズルいところも、政治的に酷薄で汚いところも、全部わかってくれている。ジダンの真っ直ぐな気持ちも嬉しかったけれど、あんなガラス細工みたいに純粋な人の前で、一生、非の打ち所のない『聖女』を演じ続けるなんて私には地獄だわ。……師匠にはちょっと悪いけど、これからも美味しいものをたくさん作ってもらって、一生胃袋を掴まれながら甘やかしてもらうんだから)

ヒメのそんな腹黒く、しかしどこか愛らしい本音を知ってか知らずか、シオジは無意識に、ここ数年の苦労で一段と薄くなり始めた頭をガリガリと掻き、深いため息をついた。


「はあ……。王命とあらば、やまんとのあのクソ硬い粘土質の土壌をひっくり返して、世界一美味い米でも育てるしかありませんな。……おい、ヒメさん」

「何ですか、旦那様?」

すかさず嬉しそうに首を傾げるヒメに、シオジは顔を背けたままぶっきらぼうに言った。

「まだ早いわ。……瑞穂の国に落ち着いたら、まずはリサのシュガー・キャンディより美味い、特製の菓子でも作ってやるよ。だからそうやってニヤニヤするな」

「まあ! 楽しみにしております、私の賢者様」


背後では、その様子を見ていたカンジが「ツヌガアルシトの名に恥じぬよう、俺も瑞穂の警護に骨を折るか」と豪快に笑い、オトマツたちが「やっぱりあの二人、ああなると思ってたんだよなー!」「お似合いの凸凹コンビだぜ!」と盛大に野次を飛ばしている。張り詰めていた王宮の空気が、一気に温かい祝福の色に染まっていく。


血と硝煙が混沌を支配した神話の時代はやがて終わり、人々の胃袋を、そして心を穏やかに満たす「美味い飯」の時代がやってくる。

戦いの焦げ跡が微かに残る古い旗が、あまんとをやまんとを結ぶ新しい和解の風に、あたたかく揺れていた。


読了ありがとうございます。

サクラもジダンも、ヒメ様もシオジも、それぞれに“最適解”へ辿り着きました。

女性は強いですね、本当に。

次章では、彼らが瑞穂の国でどんな騒動と発展を巻き起こすのか、楽しみにしていただければ嬉しいです。

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