第59話 竜の谷 前編
2日目は、馬車で行けるところまで行き、道が険しくなってきたので、そこまでで一旦キャンプをした。
そして3日目、いよいよメルヴィンに乗せてもらっての移動だ。
「ねぇ、メルヴィン。落ちないよね?」
「大丈夫だ、問題ない。」
「え?そうは言っても…」
高いし、鞍があるわけじゃないし。
直前になって、なんとなく不安になる。
「竜や地竜も、望んで乗せた者が落ちないように、乗っている間は、何というか保護魔法がかかりますので、おそらくその事を言っていらっしゃるのかと。」
レオナルト様が、メルヴィンの足りない言葉の解説をしてくれる。
メルヴィンはうんうんと頷いている。
「それなら安心ね。」
早速メルヴィンに乗り込む。
ギルバート、私、レオナルト様の順番だ。
背の順にしないと、前が見えないから、この順番になった。
ギルくんがしばらく、自分の前に来てほしいと訴えていたが…
それだと危ないので却下した。
「うわーメルヴィンはふわふわですね。」
乗るなり、ギルバートが歓声をあげる。
「たしかに、すごく乗り心地がいいわね。」
ふわふわ滑らかな毛並みと、暖かい体毛が心地よい。
一応全員防寒マントを着ているけれど。
メルヴィンはどのくらいの速さで移動できるのかな。
などと思っていたが…
「ちょっと…速い速い速い!!」
たしかに落ちる気配はしないけれど、景色がものすごい勢いで通り過ぎていく。
「あははは!楽しいですねー」
「…なかなか心地よい風です。」
男子2人は実に楽しそうだ。
その間にも、大きな岩を飛び越えたり、ちょっとした崖を飛び降りたり…
アトラクションなど目じゃないスリル満点な移動だ。
ギルバートとレオナルト様は、その度に歓声をあげて楽しんでいる。
崖を飛び降り飛び上がり…
小川を飛び越え…
一行は霧に包まれた崖の上に立っていた。
「この下が、竜の谷です。」
「え?どうやって行くの?」
どう見ても、今までの比じゃない高さだ。
「そこは、僕が風魔法で下からの気流を作り、ゆっくり落ちるようにします。」
レオナルト様が、なんて事ないように説明する。
「そんな難しい事が…?」
「ええ、問題ありません。」
「僕は楽しみですよ!リアお姉ちゃん!!」
お姉ちゃんは貴方がそんなにスリル好きとは知りませんでしたよ。
「む?この程度の高さなら問題無さそうだが…」
「メルヴィン?私、地面に着く前に気絶する自信があるわよ。」
ええ、自信を持って言える。
この高さから落ちると、どんな速度が出るかわからないじゃない。
まして減速する気無さそうだし…
結局、レオナルト様に補助をお願いして、崖から飛び降りた。
「……!!!!!!」
「あははは!」
声にならない私に対して、ギルバートの楽しそうな事…
やっぱり、大物だわ。
竜の谷は、上と違い霧はかかっておらず、空気が澄んだ素敵な場所だった。
「レオナルト様、竜はどの辺にいるのでしょうか?」
「もうじき、見えて来ますよ。」
レオナルト様が言っていた場所は、すぐにわかった。
谷間なのに、綺麗な花畑が広がっており、果樹も実り、実に素晴らしい景色だった。
進んで行くと、上空に竜が飛んでいるのが見えたり、岩の上で休んでいたりするのが見える。
身体も馬ほどのサイズから巨大な竜まで様々だ。
「では、飛龍王に逢いにいきましょう。」
レオナルト様が方角を示した。
しばらく歩くと、玉座のような巨大な大理石の上に座る、赤い竜がいた。
「あの方です。」
レオナルト様がそう言うので、私はメルヴィンの背中から降りる。
ギルバートも降り、メルヴィンが人型に戻った。
ギルバートは意を決した面持ちで、竜に向かっていく。
飛龍王の前に来ると、竜が口を開いた。
『…!………?』
あれ?
聞き取れない。
それに対するギルバートの答えも…
『………………。………!』
やはり聞き取れない。
やっぱり本、ダメだったのかなぁ…
そう思い…
『ドラコフォルトゥーナ〜竜のすべて〜』を開いた。
その途端に、辺りに眩い光が満ちた。
「えっ?何コレ」
「げーっ!!この女!なんてモン持ってやがる!!」
飛龍王の隣にいた黒竜が叫ぶ。
「うわっ!!飛龍王!!その小僧も大事だけど…この小娘!やばすぎる。」
私の近くにいた、銀色の竜がアタフタと慌てる。
気がつくと、竜の谷は大混乱に陥っている。
?
あれ、そういえば…
なんか言葉わかるようになったわね。
やっぱり、アドバイス通りに取得した本だものね。
でも何か大変な混乱になっている。
「飛龍王…あれは…」
年老いた白竜が呼びかける。
「わかっておる。」
飛龍王が私に向けて話し始める。
「おい、小さき娘よ。何を望む?」
「望みを…叶えていただけるのですか?」
「我らにできる事ならば…」
「ねぇ、飛龍王…もしかして、この女。手にしている本がどんな代物なのか知らないのかもよ。」
年若い白竜が空から降り立つ。
「何?!知らずに手に入れた…だと?そもそもあれは…」
「これは?」
飛龍王が何やら慌てている。
「本当に知らなかったんだ…呆れた。」
白竜が唖然としている。
「これがどうかしたの?」
「…仕方ない。」
諦めたように飛龍王が説明を始める。
「それは、2代目の飛龍王が人間の巫女とやらに惚れ込んで…全ての飛竜と地竜が意のままとなる本を与えた。」
「えっ?」
それって…
「ああ、その飛龍王からすると、愛しい女を守るためとか愛の証と抜かしておったらしいが…」
そんなとんでも本なの?
「下手な国など一瞬で消し飛ぶ、古代兵器を凌ぐ本ってわけ。」
白竜が続ける。
「確か、写本も含めて全部焼いたはずじゃなかった?」
「うむ…この数百年、本の主が現れたと言う話も聞いた事がない。…娘…どこで手に入れた?」
黙ってる…
訳にはいかないよね?
「ええと…私のスキルなので…」
本を一旦料理本に変える。
本を変えても、言葉は無事に通じている。
「ほう…上手く隠蔽されているが…調理系か。」
「はい、他にもたくさんの本が追加できるスキルです。」
「なるほど…」
だから望みを聞かれた訳ね。




