第60話 竜の谷 後編
「して、小さき娘よ。何を望む?そこの小僧はお主達を護れる力が欲しいと願っておるぞ。敵を国諸共焦土に変えるか?」
ギルくん…
そんなお願いを?
ギルバートを見ると、少し照れ臭そうにしている。
まさかバラされるとは思わなかったのだろう。
話の蚊帳の外のメルヴィンは、呑気に昼寝を始めている。
こんな場所でお昼寝って…
メルヴィンは本当に大物だな。
レオナルト様は言葉がわかるのだろう、成り行きを見守っている。
「いえ、国を滅ぼす気持ちはありません。」
元々はギルバートのお父さんが守ってきた国を滅ぼしてどうするのか。
「我々は、貴様がその本を持つ限り、歯向かう事も裏切る事も欺く事もできん。その力を持って、何を望む?」
「護る力を。」
望めるなら、私にもギルバートやメルヴィン…リュカ様やレオナルト様…
仲良くしてくださる方たちが窮地に立たされた時に護る力が欲しい。
「具体的にはどうしたい。我らが護衛につくか?」
「加護より確実なら、ぜひ!」
「ふむ…本の主の頼みとあらば、聞かぬ訳にはいくまい。」
「ちょっと待ってよ、飛龍王!!誰が行くのさ。ニンゲンの小娘の護衛なんて!」
「我ら神にも近しい種族の仕事ではないであろう。」
嫌そうね。
効かないかもしれないけれど…
アレ出してみるか。
「皆様には口汚しにしかならないかもしれませんが…このような物はお出しできます。」
ワイン、ブランデー、ステーキ、クリームパン、ケーキなどを取り出す。
「酒か?」
飛龍王が反応する。
「ええ、私の特製ですわ。」
竜だし…
コルクだけ抜いて差し出す。
「この姿では些か飲みにくいか…」
呟くと、飛龍王は鮮やかな赤の髪に上半身裸、日に焼けた肌の野生的な美形に変わっている。
側では、白竜が透けるように白い肌に白い毛、長いまつ毛、アクアマリンのような青い瞳にすらりとした手足の美少年に変化している。
老竜はグレイの髪を束ねた髭の長い老人に。
黒い竜は快活な印象の、ギルバートと同じくらいの少年になっている。
黒髪に赤い目が印象的だ。
飛龍王は人型でグビグビとワインを飲み始め…
「なかなか良いではないか!」
などといいながらどんどん瓶を空けている。
他の竜もお酒を飲んだり、パンを食べたりしている。
「お気に召したようで、嬉しいですわ。」
「ああ、悪くない。」
「まだまだございますので、お好きなだけどうぞ。」
倉庫からワイン瓶をたくさん出すと、他の竜達も降りて来て、続々と酒盛りを始めた。
「おお、人間が作った酒にしては、イケるな!!」
などといいながらどんちゃん騒ぎを始める。
「リアお姉ちゃんはすごいですね。」
ギルバートがこちらを見上げて、いたずらっぽく笑う。
「ここまで賑やかになるとは思わなかったわ。」
「リア、俺たちも食べよう。」
昼寝から目覚めたメルヴィンはお腹がすいたらしい。
「ええ、そうね。まだしばらくは終わらなそうだわ。」
「それで、ギル君は護る力をお願いしていたのね?」
「ええ、ばれてしまいましたが…あの小さな黒い竜が加護をくれてもいいと言っていまして。」
あの元気そうな子か…
竜の年齢はよくわからないけれど、何となく年が近そうだものね。
「リアお姉ちゃんまで、竜と話せたとは知りませんでしたよ。しかも、すごい魔書まで持っていて…」
「ええ、私も今日までこんな本だとは知らなかったものだから…」
「お姉ちゃんらしいです。」
「…ごめんね。せっかくの日を邪魔したみたいになってしまっているわ。」
ギルバートを護りたいのは本当だが、邪魔したいわけではないのに…
「お姉ちゃん、僕は全然気にしてませんから。そう暗い顔をしないでください。…そう言うところも含めて、僕の自慢のお姉ちゃんなのですよ。」
「…ギル君。」
「ここにいるみんな、お姉ちゃんのそんな頑張り屋なところが好きなはずですよ。」
ギルくん…
貴方は優しい子ね。
しばらくすると…
悪い悪いと言いながら、飛龍王がこちらにやって来た。
「よし!決めたぞ。我が直々に護衛についてやろうぞ。」
「えっ?!ちょっと待ってよ、飛龍王!!仕事どうするのさ。」
「ん?ならばカロン、お前は小娘につくが良い。我はこの王位継承者の小僧が気に入ったのでな!」
カロンと呼ばれたのは、先程白竜だった白髪の美少年だ。
「は?勝手な事言わないでくれる?ちょっと料理が上手いだけの小娘に、どうして僕が…」
「先程くりーむぱんとやらを全部回収しておったように見えたが…」
「勘違いするなよ。娘!!気に入ったのは、あくまでもくりーむぱんだけ!断じて吹けば飛ぶような小娘ではない!……まあ、僕が守れば?誰が来ようと吹飛んだりしないけどさ。」
なんだろう…
このカロンくん?
ツンデレの気配がする。
「そう言う事だ。せいぜい護ってやるが良いぞ。」
「でも、アンタの仕事はどうするのさ。」
「飛龍王の仕事といえば、加護を与える事だろう?」
「まあ、そうだけど。」
「今はそこの小娘が我々の全権を握っておる故、娘が死ぬまでは新しく加護を与えるには許可が必要になる。」
「そうだね。」
「我はそこまでして加護をくれてやる気はない。故に、新規受付停止!我の仕事ゼロ!どうだ?」
どうだ?
じゃない気がするけど…
「ふーん。それなら、まあいいんじゃない?その娘に協力する以上、敵方が来ても加護を与える訳にはいかないのだしさ。」
おお…
ツンデレカロンくんは、思いの外義理堅いな。
「ハッハッハ!!そう言うことよ!護衛は我とカロン、以上だ。ギルバート、娘よ我の事はイオと呼ぶ事を許そう。」
「…私は、娘ではなくできれば名前で。コーデリアと呼ばれたいのですが…」
「なるほど。コーデリア、我らの命運を握る娘。なかなかに面白い娘だ。」
イオはギルバートに向き直る。
「我は古からの友情により、汝ギルバートの護りとなろう。」
「ありがとうございます。イオ様。」
「ギルバートよ、様はいらん。」
「では、イオ。」
「うむ。して、コーデリアよ。我が力を貸すのだ。」
「心得ております。上質な酒類をお持ちいたしますわ。」
「ならば良い。」
酒に釣られている気がしないでもないが、まあやる気があるならいいだろう。
こうして、竜に直接護衛してもらえるようになった私達は、安心感を持って再び屋敷に帰ったのだった。
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動力源です!
ついに竜が味方になりましたね。




