悪役王女⑤
しな垂れかかったまでは良かった。けど、大問題発生中なあたしはぎゅっとないものを寄せるように両腕を胸の下に寄せる。
こ、これで少しはぜ、絶壁がかくれるはずっ!!
「……は、はく。これをはお――っ!」
胸元が開いた薄いネグリジェを羽織っただけのあたしを気遣ってくれたクルル様が、自分の上着を肩にかけてくれようとして言葉を切った。ちらりと覗き見たクルル様の視線が……確実にあたしの絶壁を見ている気がする。
じゃなくて、これ間違いなく凝視しているよね! あぁ、また、また見られたぁぁぁぁぁ! なんで、なんでワンピースとか来てるときに攫ってくれないかなぁ? あたしの絶壁見られるの二度目なんですけどおおおおお?
「く、くるるさま……の、えっち」
余りの居た堪れななさにぎゅっと胸元を引き寄せ、冗談めかして小さな声で言ってみる。
すると、ハっと何かに気付いた様子を見せ眼が不自然なほど泳いだかと思えば、温度計の針が上がるかのようにクルル様の首から上がポッポッポと赤くなっていく。
「ち、違うんだ! ご、誤解だ! わ、私はべ、別にその……」
さっとあたしから距離を取ったクルル様が、珍しく声を荒げ、挙動不審気味に両手を前に付きだしてブンブン振りながら叫んだ。右手に揺れる上着が物凄い勢いで振り回されている。
「冗談だったんだけど……」
『はく~? クルルどうしたのぉ~?』
あたしの足元でお座りしているニマ君が挙動不審気味のクルル様をみながら首を傾げている。
どう説明すればいいんだろ? 精霊って性別あるのかな? そう言えば、あのライオンさんと鳥さんって……どっかでみたことあるような気がするけど……どこだったかなぁ?
未だ誤解を解こうとするクルル様を他所にあたしは別の事を考える。
「クルル様。落ち着いて下さい。今はそれどころではないと分かっていますよね?」
クルル様の両肩をガシっと掴んだイリュス様が、少しだけ低い声でクルル様を落ち着かせた。その際奪ったであろう上着はあたしの肩にかかっている。
状況を思い出したらしいクルル様は何度か咳払いを繰り返し、真面目な表情に戻るとアレクと悪役王女の方へ視線を向けた。
「アーニセス。クルルの婚約者に何をした?」
眉間に皺を寄せたアレクは王女へと語気荒く詰め寄る。
「べ、別に平民に己の分と言うものを教えていただけですわ!」
心外だと言わんばかりに眉根を寄せた悪役王女がアレクに食って掛かり、言い合いが始まるかと思えばアレクは悪役王女の言い分に納得する姿勢を見せた。
ちょっと何そこで納得してるのアレク! あんたいずれこの国の王様になるんでしょ? 自分の妹が殺人未遂犯してるのに許しちゃだめでしょ!
「クルル。すまなかった。これも、お前を思うが故の好意なんだろう。許してやってはもらえないか?」
「「「――は?」」」
軽く頭を下げたアレクの言葉に、あたし、クルル様、イリュス様の三人の声がハモル。
いやいやいや、謝る相手が違うよね? 謝るべきはあたしであって、今クルル様に謝るのは間違いだよね? それにだ、少なからず誰かを傷つけようとしたならまず、彼女に今後そう言ったことをしないように厳重に注意するとかしないの?
『こやつらは何を言っているのだ? 許したところであの女はまた、白を傷つけるつもりだ。我が契約者に対し一度ならず二度も害そうとした相手を許せだと?』
『僕、許せない~』
眉根を寄せ怒り心頭といった具合のオリジンと牙を剥きこちらも許す気のないニマ君の言葉にあたしは自分の考えが間違っていないと理解する。
悪役王女はと言えば、アレクの横で俯いていた。表情は判らないけどオリジンやニマ君は相手の心を読める。そんな二人が間違いなくまた、繰り返すと言っているのだ。反省なんてしているないのが丸わかり。
『もういいよね?』
『そうだな。この国に精霊の守護は要らんようだ。一度、わざわざ警告してやったにも拘らず二度までも……とはな』
――ちょっと二人とも落ち着いて、今はクルル様がお話ししてるし……ね?
不穏な言葉を言い始めるオリジンとニマ君にあたしは落ち着くよう促す。それでも二人の怒りは収まらず『もう、話すだけ無駄だよね~』や『我らを愚弄する愚か者どもは、朽ち果てるがいい』などと言いたい放題行っていた。
「アレク。今回の件を簡単に許すことなどできない」
厳しい眼をアレクと悪役王女の方へ向けたまま、きっぱりと許さないと言い切ってくれたクルル様はマジでイケメンです。半歩後ろに立つイリュス様も今までにないぐらい鋭利な視線を二人に向け頷いている。
クルル様の発言を受けアレクは僅かに視線を落とすと軽く息を吐き出した。
「……両国の友好と幼馴染であるアーニセスのために、今回だけは眼をつぶってはもらえないか?」
「アレク、お前も分かっているだろう? 今回の件は目をつぶれる度合いではない。こちらは婚約者を殺されかけたんだぞ? それも契約する精霊の前でだ」
「そ、それは……だが、妹は、お前と婚約者が何故婚約したのかを聞かされていなかった。ただ、お前が……その、平民の女を婚約者にしたと聞いただけなんだ」
「それが許す理由になるとでも?」
必死に言い募り妹を庇おうとするアレクに対し、クルル様は毅然とした態度でそれを突っぱねた。
そこへ更に複数の足音が響き、開いた扉からまたも人が入ってくる。
姿を見せたのはこの国の王様だった――。
お待たせしましたー。




