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悪役令嬢(改め)悪役王女③

 キャーっと叫ぶ声と殿下! という彼女を案じる声が重なる。彼女の周りを囲むように黒服たちが取り囲み、用心深くテラスの方へと視線を向けていた。


『ふむ。漸く来たようだな』

『遅すぎるよね~』


 呆然と割れた部分を見守るあたしの側で、いつの間にか大人の姿になったオリジンとおっとり口調のニマ君の声がした。

 何? 何がどうなってるの? え……アレってライオン? それに鳥?


 まったく意味が判らない。突然窓ガラスが割れたかと思うとそこから赤い炎の鬣を真黒な巨体のライオンと白っぽい羽に薄青の長い尻尾を持つクジャクのような鳥が現れた。

 その二体は、グルルルルと地を這うようなうなり声をあげ、視線を黒服の方へ向けながらあたしたちの方へと近寄ってくる。


「うわっ……え?」


 突然後ろから抱きしめられ肩に顔を埋められたため身体がビクっと震える。そろりそろりと首を回し後ろを振り返れば肩口に黒髪が見えた。


「ハク……無事でよかった」

「……く、くるるさま?」


 スリスリと擦り付けるように頭を揺らすクルル様の掠れた声が骨から全身に伝わる。自分でも気づかない内に立っているのもままならない程緊張しまくっていたあたしはフッと全身の力が抜けた。

 それをがっしりと両手で支えてくれたクルル様が「遅くなってすまない」と謝るのと同じタイミングで、あたしの前にライオンと鳥が到着する。


『無事に着いたようだな』

「オリジン様遅くなり申し訳ありません」

「ガウガウ」

「キュロロー」

『二人とも久しぶり~~』


 えらく親しそうな感じで話をするオリジンとニマ君とライオンと鳥……。多分この二体も精霊で間違いないと思う。けど……あたしはライオンに一言言いたい! 何故鬣が真っ赤な炎で胴体が黒なのかと……更に、ちらりと見える牙は鋭く、瞳は黒に近い赤でライオンのあの優雅な姿とは似ても似つかない。


「ハク、立てるか?」

「く、くるるさまぁ~」


 ライオンをガン見していたあたしはクルル様の声に背筋を震わせた。

 恋焦がれた推しメンが掠れたテーノールボイスで自分の名前を耳元で呼ぶとかやばいでしょ! 気を抜きすぎてたってのもあるんだけど……はぁ、イケボがヤバイ。

 うっとりしていたあたしは再び名を呼ばれ慌てて「あ、はい。立てます。大丈夫です。あ、ありがとうございます」とお礼を言うと自力で立った。

 脳内で、アルプスの少女に扮した女優さんが「立ったー! 〇ララが立ったー」と言いながら山羊たちとクルクル回って踊っていた姿が浮かぶ。が、ここで笑う訳にはいかないと必死にその記憶を片隅へと追いやる。


「さて……これがどういうことか説明してくれるんだろ? アーニセス?」


 クルル様がきっと睨みつけた先には右手に短剣を握ったまま両手を赤らめた頬に当てた悪役令嬢改め悪役王女が居た。


 まさか、この人が王女様だったとは……あれだけ邪魔された相手が王女だったとは信じられない。しかも、しかもよ? 謁見の時に進められていた王女の名前と一緒だし……ゲーム内でこの人が婚約者候補だったのは間違いないんだよね? あぁ、ヤバイ、もう何も考えたくない。頭が痛い。今すぐ……今すぐ気絶したい!

 余りの状況にあたしは考える事を放棄したいと気絶スキルを発動してみる。だけど……そんな上手く御令嬢でもないあたしが気絶出来るはずもなく。


「クルル様がい、いいい、いらっしゃるなんて……あぁ、セアナ。着替えの準備を!」

「はい、姫様」


 セアナと呼ばれたメイドがいそいそと隣の部屋へ移動を始める。そこへ「グルアア」と威嚇する唸り声が響き全員が動きを止めた。鳴いたもちろんライオンさんで、胴体を低くいつでも飛び掛かれるぞと言わんばかりの体勢を保ち王女たちへ視線を向けている。


「な、なな、なんですの! その野蛮な生き物は!」

「野蛮なのはこの方ではなくお前だろう? アーニセス。私の婚約者を寝所から攫うなんて野蛮な行為をしておいて、精霊様を野蛮呼ばわりとは……お前は自国を余程潰したいと見える」


 声を荒げる悪役王女にクルル様は冷ややかな視線を向けつつその口から冷気でも発してそうな感じで刃のような言葉を発した。

 お、怒らせると怖い人っているよね~。今のクルル様は正しくそんな感じだ。矛先があたしじゃなくて良かったーって言うか、絶対怒らせないようにしよう。

 そう心のメモに書きこんであたしは事の成り行きを見守る。


「何故ですの? クルル様はわたくしの夫になるとお約束してくださいましたでしょう?」

「……私がいつ、貴方と結婚すると言ったのだ?」

「あれは、そう、確か……わたくしが七歳の誕生日を迎えた際のパーティーでのことですわ」


「……十一年前の茶会?」そう言ったまま沈黙するクルル様とそれを気にした素振りも見せず「あの日の茶会はわたくしにとって運命だったのですわ!」と語り続ける悪役王女にあたしは違うと否定して欲しいと助けを求めるべく周囲を見回した。けれど、誰もかれもが視線を合わせようとしない。


 こんな時になんでイリュス様居ないの! 一緒に来た騎士様はロボットの如く無を貫く表情をしているし……うわーん。これでクルル様が認めたらあたし、あたし捨てられる。

 徐々に潤んでいく視界で、落ち込んだ気分のままあたしは足元を見つめた。

お待たせしました!

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