商人を追って⑭
放心状態のあたしが零した「え……?」と言う言葉にクルル様は、背中に回した腕の力を強くした。
「だから、はぁ……何度も、言わせるな。私が好いているのはハクだ」
溜息を吐きながらもクルル様は、甘い声で好きだと言ってくれる。
うそだ。きっとクルル様は国王様の命令で、そう思い込もうとしているだけであたしのことなんか好きじゃないはず。
「だって……クルル様は、リーンに夢中だったでしょう?」
堰を切った思いがあふれ出してくる。好きだと言ってくれたクルル様にこんな事言っちゃだめって分かってるのに止まらない。
まるで駄々をこね続ける子供みたいに確認してしまう。
「なっ! 違う。ハクがいるのに、私が夢中になるはずないだろう」
「買い物に来たのも義務なんでしょ?」
「そんな訳ないだろう!」
「じゃぁ、なんであんな言い方……」
「それはっ、その……」
その、何? と聞こうとしたあたしの耳に「…………アレクがハクに興味を示さないようにしたかっただけだ」と言うクルル様の掠れた声が聞こえた。
ま、まさか……く、クルル様がそんなことを考えてたなんて……。それって、もしかして……ハクは俺の物的な感じ? いやいや、絶対ない絶対ないだろうけど……期待してもいいのかな?
クルル様が今どんな顔をしているのか知りたくて、必死に頭を動かしクルル様を見上げた。そこには赤く熟れたリンゴみたいに頬を染めて、切れ長な藍の瞳を潤ませあたしを見つめるクルル様の色気に満ちた顔があった。
「ハク……好きだ」
あたしを見つめたまま掠れた声で好きだと言うクルル様に中てられて、ボッと火が付くほど顔が、全身が熱くなる。
ドクドクと激しく動く心臓の音が耳につく。それは更に激しさを増し、呼吸を忘れて苦しく――。
*******
「うーん。良く寝た?」
煌々とランプの明かりがともる天井を見上げ、手足を伸ばし身体を伸ばしながら「はぁ、やっぱり夢かぁ~あのクルル様はかっこよかったなぁ~」と見た夢を思い出す。
今が何時かは分からないけど、きっと起きないといけない時間なんだろうと掌をベットについたつもりだった。伸ばした掌に暖かい何かを感じて、あたしは顔を上げた。
「目覚めたか……体は大丈夫か?」
優しく微笑むクルル様は、なんだかいつもより色気が凄い。あぁ、やっぱイケメン最高~~~。こんな顔で微笑まれるのは、ゲームの後半、エンディングの手前ぐらいだよー。あぁ、生で見れるあたしは、幸せ者だなぁ~。あの夢みたいに甘い言葉を言ってくれたりしないかな? 話してみたらもしかして……なんてあるわけないだろうけど……話してみよう。
下心を含めつつクルル様に見た夢の話を聞かせるべく口を開いた。
「あ……クルル様! もう、聞いて下さいよ~。クルル様とデートに行って、そこでアレクとリーンに会って……クルル様もイリュス様もリーンに夢中になちゃって、あたし凄い悲しくなってですね。それで、走って逃げたらクルル様が追いかけて来てくれて……好きって言ってくれたんです。でも、嬉しいのにあたしちゃんとあたしも好きって言えなくて――「それは、夢じゃない……ぞ」――もう、こんな夢……へっ?」
きっと凄く馬鹿っぽい顔をしてたと思う。それなのにクルル様は笑う訳でもなく真面目な顔で、あたしの両手を優しく包み込むと視線をあたしに向けた。
その瞳があまりにも綺麗で……ドギマギしした。
「確かにこれまでの私の行動や言動を見れば、ハクは私の気持ちを信じられないだろう。だがな、陛下の命で婚約する事になった時から私なりにハクを見てきたつもりだ。お前は、いつもクルル・リシュカーナ・ファン・ヒスタリカと言う王子ではなく、一人の男、クルルとして私を見て馬鹿正直に好きだと伝えてくれただろ? まぁ、多少やりすぎる事も多々あったが……それはそれで、悪くないと言うか……あ、愛らしいと思えたしな。あーっと、それにな、決して私やイリュスに対して嘘をつかなかったし、メイドのメアリー達にも、お前自身を傷つけてしまったクリスティナにも、私達と変わらず接している姿に好感が持てたんだ。だ、だから、その好きだと言った言葉に嘘はない」
耳まで真っ赤にしたクルル様が、居た堪れないと言った様子でプイっと顔を逸らす。
クルル様があたしを好き? え? ほ、本当に? 夢じゃない? 嘘じゃないんだよね?
『信じてやってよいにょだ。クルルは嘘を言っていにゃい』
『うん。僕もオリジンと同じだよー?』
心を読む事ができるオリジンとニマ君が、クルル様を後押しするようなことを口にする。オリジンやニマ君は精霊だから嘘はつけないらしいし、本当ってことだよね? なら……あたしもこの気持ちをちゃんと伝えたい!
包まれていた手に力を込めて「あ、あのねクルル様……あ、あたしもクルル様が好き!」と想いを言葉にした。
楽しんでいただけましたら幸いです。




