大好きなカレはツンツンからツンデレになるみたいです④
場の空気をどうにかしたいとひとり焦るあたしは、強行突破という手段を思いつき勢いをつけ立ち上がろうとした……がっ、掴まれた肉に籠る指先の力が想像以上だったことから腰をほんの少し浮かせただけで終わってしまった……。
「えっと……そうだ! クリスティアちゃんも一緒にお茶したらどうかな?」
なんとか出た言葉がそれで、泣いていたはずのクリスティアちゃんがピタっと固まり嬉しそうに微笑み胸の前で手を組むとその可愛い顔をあたしの方へ向け爛々と瞳を輝かせた。
「本当に! よろしいのですか? 白お姉さま?」
「う――「クリスティアは勉強があるだろう?」」
頷きうんって伝えようとすれば、横からクルル様の少し低めの声音が響いた。
勉強なら仕方ないかと困り顔をして見せたあたしを見つめたクリスティアちゃんが、瞬間ものすごい形相で睨んでくる。
え……あたしのせい?? あたしちゃんと誘ったよね?
タイミングを見計らったようにまた誰かが部屋にやって来た。出来るメイドさんの一人でアマンダさんが扉で応対しているようだ。
チラリとこちらに視線を向けたアマンダさんが扉の外に居る人に何かを言い、私たちの所へ歩いて来る。
「王太子殿下。クリスティア姫様に御面会を希望のマリノウィリス教授がお越しですがいかがいたしましょうか?」
「通せ」
「ひっ!」
「かしこまりました」
丁寧にお辞儀をしたアマンダさんが要件を伝えると、クルル様は嬉々とした声音で面会を許可した。マリノウィリス教授と言う名を聞いたクリスティアちゃんはその顔を引き攣らせ、小さな悲鳴をあげるとソワソワと周囲を伺い落ち着きが無くなる。
扉を開け入って来たマリノウィリス教授は、アル○スの少女に出てくるあの少し意地悪な眼鏡をかけた女の人に良く似た風貌の女性だ。
「王太子殿下並びに、御婚約者様。突然の訪問失礼いたします。お二人に御眼もじ叶い大変嬉しく思います。お二方ともご機嫌麗しゅうございます」
「あぁ。マリノウィリス教授も息災のようで何よりだ」
「こんにちわ~」
淡い緑生地に濃い青刺繍が入ったお尻の方がふんわりと出ているシックなドレスで、綺麗なカテーシーを決めたマリノウィリス教授は、ニコニコ微笑みあたしたちへと挨拶をした。
そして、スゥーと音も立てず立ち上がった彼女はその視線をクリスティアちゃんに向ける。
ピクっと肩を揺らしたクリスティアちゃんは、まるで効果音が鳴ったかのようにピシっと背筋を伸ばし両手を膝の上に揃え、マリノウィリス教授へ引き攣った笑顔を浮かべ「ごきげんよう」と言葉を発した。
「えぇ。ごきげんようクリスティア姫……本日はわたくしの講義があることをご存じでは無かったようですね……ですので、お迎えにあがりましたわ。オホホホホ」
「マリノウィリス様……ごめんなさい。忘れていた訳ではないのです。その……そう! 白お姉様が是非わたくしとお話したいと仰ってくださいまして……。楽しくてつい時間を忘れてしまっていただけですわ。オホホホホ」
はぁ~と溜息を零したクルル様が「お前が勝手に来たんだろう?」とクリスティアちゃんに突っ込みを入れた。するとついさっきまで、素敵な笑顔を浮かべていたはずのマリノウィリス教授のこめかみにそれは見事な青筋が浮かび上がる。
目を眇めたマリノウィリス教授は「参りましょうか……クリスティア姫……時間は有限なのですよ?」そう声を発し、否応なく彼女の手を握り「では、失礼たします」と伝え涙の目のクリスティアちゃんを引き摺るようにして退室していった。
ポカーンとその様子を見ていたあたしは、ついさっきまでの色々の事情説明をして貰うべくバッとクルル様の方へ顔を向けた。
余りにも勢いが良すぎたせいか、少しだけ仰け反った体制になったクルル様にまずは根本を問いただした。
「どうしてクリスティアちゃんとお茶しちゃだめなの?」
「クリスティアは……どう説明すればいいだろうか……そうだな……」
クルル様が少し言い難そうにしながらも理由を聞かせてくれた。
あたしなりの解釈で、クリスティアちゃんはクルル様にとって本当の妹ではなく、血の繋がりはあるもののクルル様にとっておじい様に当たる方の弟の息子の娘にあたるらしく、日本でいうところの従妹? ハトコにあたる子と言うことなのだそうだ。
じゃぁ、なんで城にいるのかと言えば、クリスティアちゃんが16歳になったら本当はクルル様か弟のシルル君のお嫁さんになる予定だったらしい。
そこに、あたしが現れて精霊に好かれてしまったが為、クルル様の花嫁にはなれず……シルル君のお嫁さんになる予定らしいけど、国王様が返事をしないみたい。
あぁー、クルル様の事が好きだったのかぁ……だからぽっと出のあたしが、嫌われてたのかと妙に納得した。
あたしが居なければ、クルル様のお嫁さんになる可能性の方が大きかったはずだし、いずれ確実になってたかもしれないのにってところだったんだぁ……。
クリスティアちゃん的にはと言うより、クルル様を好きにならない子なんて居ないはずだもの。あたしがもし、クリスティアちゃんの立場だったら絶対凹んで、引き籠り発動してるよ。
彼女の心情的な部分を慮って同情はするものの、今更クルル様と婚約破棄をするかと言われれば答えははっきりNOで……どうしたら良いのか悶々と考えていたあたしにクルル様は、更に爆弾を投下した。
「クリスティアには少し問題もあってな……さっき話して分かるだろうが、我儘放題に育っているし浪費家でもあるんだ……。
正直、公爵家と言う家柄はあれど実家の家計は火の車。権力にモノを言わせて好き放題しているが、いずれは家ごと潰れるだろうと父上も心配していらっしゃった。
婚約がはっきり決まらなかったのはそのせいだと何度か伝えたんだが、本人も家も相変わらずでな……この半年クリスティアを見て、と言うか彼女が城に上がる前から、私は結婚するつもりなんてものはなかったんだ。白が現れてくれて良かったと今では思っている」
「なるほどね~。家も危ないんじゃ余計大変そう……」
「城に上がって半年で、ドレスや宝飾品だけでも母上の数倍は購入しているからな……お茶会の度にドレスや宝飾品を新調するからな……そのうち国庫も食いつぶされそうだと父上が嘆いていらっしゃった」
「うわー」
王様も大変だなぁ……。あたしなら、ドレスとかよりお菓子がいいな……ていうか出来る事なら、ラノベを購入してもらいたい! 無いけどさ……クルル様のスチルでもいいなぁ……。
デレデレとした顔をしていたと思うあたしたちの元へ、お茶会の準備が出来たとイリュス様とメアリーさんが知らせてくれた。
立ち上がったクルル様が当然のように右手を差し出すと「行こうか」と誘ってくれる。
照れた様子も無くそのイケメンを惜しみなく発揮するクルル様に「はぁ~素敵」と本音が漏れ出た途端、ピタっと止まったクルル様が「ほら、早く行くぞ」と少しだけ頬を赤らめて、手を引いて立たせてくれた。
クルル様左側で腕を組んで歩く。
テラスから庭園へ向かう中、後ろに付き従うメイドさんやイリュス様たちが「ふふっ」「クスクス」と本当に楽しそうな笑い声をあげていた――。
足を運んでいただきありがとうございます。
クリスティア……妹説……??




