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クルルと白。それから、クリシュア

 いつもより重く感じる扉を開けた。白の精霊たちが彼女の籠った手洗いの前に集まり、沈んだ様子を見せる。

 大人の姿をしたオリジン様の横に立ち、数回扉をノックすれば中から「ぐずっ」と鼻をすする音が聞こえた。


「白、すまなかった。これからは、必ず相談すると約束する」


 出来るだけ彼女に誠意が伝わるよう出す声の音量に気を付ける。言葉を一度切り、深呼吸をひとつ。本音を言えば聞かれたくはない。例え、精霊様方であろうとも……。

 それでも今は、恥も外聞も捨て去り白に向き合う時だ。

 

「白、顔を見せてくれ。泣くなら私の手の届くところで泣いてくれ。お前が見えないと落ち着かないんだ。頼む……出てきてくれ」


 今の私は、とても情けない顔をしているだろう。自嘲気味に笑みを零し、扉に両手をつく。

 耳を澄まし、扉の中にいるであろう白の動向を探る。僅かに衣擦れの音が聞こえ、ガチャっと鍵が開く。

 扉から数歩離れ、顔を上げた。


「……く、るるざま」


 痛々しいほどに泣きはらした白が、扉の隙間から覗き込むと掠れた声で私を呼んだ。

 すまない。白の顔を見た途端、謝罪の言葉がまず浮かぶ。

 潤んだ瞳が私を見つめた。促されるように両手を広げ受け入れ態勢をとると、細い体がポスっと音を立て腕の中へ納まった。

 ぎゅっと両手で白を抱き込む。すると仄かに早春の原っぱのようなすがすがしい香りが鼻腔を擽った。


「白、黙っていて、二人で会わないと約束した事も……本当にすまなかった。もう二度としないと誓う。だが、傷つけたかった訳じゃないんだ。私たちのことを心配するだろうと、心を煩わせたくなくて……いや、違う。私がお前に笑っていて欲しかっただけなんだ」

「……くるる、ざまっ!」

「白……はく!」


 白の頭を撫でる手を止め、顎に手を添える。ほんのりと赤らんだ頬を親指の腹で撫で、桜色の唇へ指を這わせた。

 

「白、好きだ」


 躊躇うことなく言葉が声になる。

 ゆっくりと顔を寄せ、薄くも熱くも無い唇に押し当てた。柔らかな感触が唇越しに伝わり、もっと楽しみたいと欲が出る。

 逃げようとする彼女の細い背中を自分へと抱き寄せ、後頭部に手を添えた。


「ふっ、んっ、く、るるさま、まっ、待って」


 角度を変え、再び唇を合わせようとする私の胸を白が慌てて叩く。

 薄目を開いた私は、真っ赤に染まった白の視線を辿り眼を動かした。


「……お楽しみのところ誠に申し訳ありませんが、そう言ったことはお二人お時にお願いいたします」


 代表してイリュスが視線を逸らしながら口を開く。十二個の瞳が、抱き合う私と白を何とも言えない瞳で見ていた。


 ……そう言えば、二人きりではなかった!!


 一瞬の内に己のした行動が脳裏を過り、羞恥を覚える。熱が一気に顔に集まり、熱くなった。

 

「あー、すまん。その、なんだ。白と会えた嬉しさで、ついな」


 言い訳がましく言葉を区切り、腕に抱いた白を離した。

 名残惜しそうに私も見上げた白の頭をゆっくりと撫で、皆でソファーに移動する。移動しながらオリジン様を初めとした精霊の皆様が、白に謝っている。その姿はとても愛らしく、白も苦笑いを浮かべ許していた。


『それで、捕えたあの女はどうなったのだ?』

「それなのですが、実はあの女からここで匿って欲しいと言う要請を受けました」


 当然の流れであるかのように会話を始めるオリジン様とイリュスに、白は困惑した顔をする。

 白には状況が分かっていないから当然だろう。

 先んずは彼女に仔細を離すべく、二人の会話を止めた。


「少し待って欲しい。白には状況が分かっていない。まずはすり合わせが先だ」


 私の言葉に同意を示したイリュスが、これまでの経緯を白に説明する。


「と言う訳で、彼女が今この屋敷に――」

「……あり、えない。どうして、ここにリーンを連れて来たの?! ここにはクリシュアがいんだよ? クリシュアの傷を抉るようなことしないで!」

 

 説明するイリュスの言葉を遮り、白が怒りを露わに叫んだ。

 彼女の言葉を聞き、私もイリュスもハッと息を呑んだ。


 クリシュア様は、リーンの言葉に従い。その命を懸けて、廃教会の地下に結界をはっていた。主と仰いだリーンの言動のせいでクリシュア様は主を失ったと言うのに……。

 決して、忘れていたわけではない。けれど、我らはクリシュア様の気持ちを考えていなかった。


「申し訳ありません。クリシュア様のお気持ちを考えず、我らは……」

「申し訳ございませんでした。今更ですが、すぐにでも別の場所に彼女を移すように致します」


 クリシュア様に向け、頭を下げる。

 人であれば、すまなかったと言うだけで済むかもしれない。だが、相手はこの世界の秩序を守る精霊様だ。誠心誠意、謝意を伝える必要があった。


『クルル、イリュス、頭を上げてくれ。私の主はハクだ。今更リーンと会ったところで、この心は何も感じないし揺れ動くこともない』


 穏やかな声でクリシュア様は、許しを与えて下さった。


「クリシュア、本当に大丈夫なの? 嫌ならちゃんと言って? あたしに出来る事は少ないけど、クリシュアが辛い思いするのは嫌だよ」

『本当に大丈夫だ。主の暖かな心が、私の心を癒してくれる。だから、そう悲しそうな顔をしないでくれ』


 白に笑いかけるクリシュア様の表情は、本当に嬉しそうに微笑んでいた。

クルルから漸くまともなキスが出来ました。

明日も更新しますー。

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