178.治すといえばナース。なら、直すといえば?
カクヨムに移行作業してるので少し遅れます
俺は、アークノアの巨大ドックに立ち、目の前で静かに鎮座する、九番艦『緑のアーク・ガイア』を見上げていた。
数日前まで、何万年もの漂流によってボロボロだったはずの船体は、今、まるで生まれたての若葉のように、瑞々しい緑色の輝きを取り戻していた。イグニスが施したという荒療治(炎上)の痕跡はどこにもなく、船体は完璧に、そして美しく修復されている。
「……すげえ……。本当に、新品みたいになっちまった……」
その光景に、俺はただ、感嘆の声を漏らした。
「フン。当たり前だ」
ドックの管制室で、腕を組んでふんぞり返っていたイグニスが、通信越しに、心底どうでもよさそうに言った。
「見た目だけじゃねえ。あの面倒くさがりの巫女のステルス機能の一部を、ノアの許可取って、こいつの装甲に組み込んどいてやった。これで、万が一、ネメシスの馬鹿に見つかっても、多少は時間が稼げるだろ」
「おお! イグニス、お前、すごいじゃないか!」
「うるせえ。感謝は、そこの緑のチビに言えよ」
イグニスの視線の先、修復されたガイアの艦橋から、フローラが、実体化したその身で、嬉しそうに手を振っていた。
「管理人様! エラーラ様! イグニス様! 本当に、ありがとうございます! まるで、夢のようです!」
tの、あまりにも満足のいく出来栄えに、俺の頭の中では、新たな、そして、とんでもない欲望が、鎌首をもたげていた。
「……なあ、イグニス」
俺は、管制室の彼女に、尋ねた。
「ガイアは、『壊れかけ』だったから、治せたんだよな?」
「ああ? まあ、そうだな。基幹システムは、かろうじて生きてやがったからな」
「じゃあさ」
俺は、玉座の間のモニターに、あの時の、無残な映像を映し出すよう、ノアに命じた。
「――完全に、ぶっ壊れたやつでも、治せるか?」
モニターに映し出されたのは、二番艦ネメシスによって、無慈悲に『切断』された、三番艦『青のアーク・ポセイドン』の残骸だった。
その映像に、エラーラが息を呑み、医療区画から通信を繋いでいたエリスと、仮想空間のマリーナが、固唾を飲んで、イグニスの返答を待っていた。
「……はっ」
イグニスは、その映像を一瞥すると、鼻で笑った。
「……なるほどな。こいつは、派手にやられたもんだ」
「無理か?」
「無理、とは言わねえよ」
彼女は、その炎のような瞳を、挑戦的に細めた。
「……時間が、かかりすぎる。残骸から、使えるパーツ(魂のデータ)をサルベージして、足りない部品は、ナノマシンで、一から再構築。……普通のやり方じゃ、あんたが寿命で死ぬ方が早いかもな」
「じゃあ、ダメじゃないか!」
「だから、言ったろ。『普通のやり方』じゃあな」
イグニスは、俺が作った、あの『修復・支援型』の設計図を、モニターに叩きつけた。
「この、新しい『おもちゃ』を使わせてもらう。こいつに搭載されてる、時空間加速ドック。あれを使えば、話は別だ」
「……!」
「ポセイドンは、特殊な深海仕様の方舟だ。解析と再構築には、普通より時間がかかる。……だが、あのドックの時間を、最大まで加速させりゃあ……まあ、一週間もあれば、ピカピカにしてやるよ」
「――!」
その、あまりにもあっさりとした、しかし、あまりにも頼もしすぎる宣言。
『一週間……』と、マリーナの、震える声が、仮想空間から響いてきた。
「よし! 決まりだ!」
俺は、高らかに、命令した。
「イグニス! アーク・メディカの全権限を、お前に委任する! 今すぐ、ポセイドンのサルベージと、修復作業に、取り掛かってくれ!」
「フン。……言われなくても、やるさ。腕が、鳴って仕方ねえよ」
その夜。
玉座の間には、実体化できるようになった、フローラが、遊びに来ていた。
彼女は、物珍しそうに、俺の『天空創世記』の駒を、手に取ったり、俺が食い散らかしたお菓子の袋を、不思議そうに眺めたりしていた。
「……すごいですね、管理人様のお部屋は。私のガイアとは、全然、違います」
「まあ、俺の趣味の部屋だからな」
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