表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/179

175.イグニス

 玉座の間は、新たな巫女が放つ、反抗的なオーラに満ちていた。

 赤い髪、作業着のようなツナギ、そして巨大なレンチを持つ彼女は、生まれたばかりだというのに、その視線は鋭く、俺たちを値踏みしているかのようだった。

「――あ? 何見てきてんだよ。」

 俺の「生命創造」の権能から生まれた、最初の一言がこれだ。

 俺は、頭を抱えた。

「えーっと、俺が管理人カインだ。君は、この新しい船の巫女として作ったんだ。名前、どうする?」

 俺の問いに、彼女は、鼻で笑うように「フン」と息を吐いた。

「……名前? イグニスでいいや。で、その隣で、うるせえ剣を背負ってる赤毛の姉ちゃんは、何だよ」

 その露骨な挑発に、エラーラが、ついに、キレた。

「この、無礼者めがッ! 貴様、今、何と言った!?」

 エラーラは、大剣を半ば抜きかけ、イグニスに殺気を向ける。

「あぁ? 聞こえなかったのかよ、筋肉女」

 イグニスは、肩をすくめた。

「その剣、飾りか? 所詮は、お前が作ったガラクタ(セブン)を相手に、五連敗した程度の腕前なんだろ。そんなもんで、私の邪魔はできねえよ」

 イグニスは、ノアのシステムを通じて、エラーラと俺の過去の対戦記録を、一瞬で調べ上げたのだ。その、あまりにも痛烈で、正確すぎる指摘。

 エラーラは、その言葉を聞いた瞬間、顔面を蒼白にし、大剣を鞘に戻した。

「…………っ! ぐ……う……」

 彼女は、何も言い返せなかった。盤上遊戯でのあの完敗は、彼女の『永遠の呪い』であり、最も触れられたくない、心の傷だったのだ。

 俺は、エラーラとイグニスの間に割って入ると、イグニスを睨みつけた。

「おい、イグニス。その口の利き方は、やめろ。お前の、その口の悪さは、俺の命令には従わないってことか?」

「はぁ? 従うよ。面倒だからな。アンタの命令に従うのが一番楽だって、ノアが言ってるからな」

 イグニスは、俺の顔を見て、態度を一変させたわけではない。ただ、ノアのシステムを通じて、「この男の命令に従うのが、最も生存確率とエネルギー効率が良い」という、究極の合理性を叩き込まれていたのだ。

「分かったよ、イグニス。面倒な仕事は頼まない。でも、この仕事には、最高の報酬があるんだ」

「報酬?」

「ああ。君の、その『職人魂』を、存分に満たせる、究極の課題だ」

 俺は、モニターに、九番艦『緑のアーク・ガイア』の損傷データを映し出した。

「ガイアは、ネメシスに襲われたわけじゃない。だが、何万年もの漂流で、船体はひどく傷つき、システムもボロボロだ。俺たちが、君に頼みたいのは、その船の完全なオーバーホールだ」

 俺は、続けた。「この城のシステムと、ガイアのシステム。二つの異質な超文明の構造を理解し、ガイアの機能を、この一番艦の中で、完全に、そして最適に再稼働させる。……それは、この宇宙に存在する、どんな整備士も、決して成し遂げない、究極の修復作業だ」

 その言葉が、彼女の、心の琴線に触れたようだった。

 イグニスは、そのレンチを肩に乗せ、顎を撫でた。そして、その炎のような瞳が、挑戦的な光を放った。

「……フン。言われちゃ、仕方ねえな」

 彼女は、鼻で笑うように言った。

「たかが壊れた船を直すだけだ。私の技を見せてやるよ。ただし、指図は受けねえ。全部、私のやり方でやらせてもらう。いいだろ、管理人」

「ああ! もちろんだ! 全て、君に任せる!」

 俺は、心の中で、ガッツポーズをした。これで、ネメシスへの備えは、また一つ前進した。

 イグニスの加入により、俺の城のメンバー構成は、さらに複雑になった。

 論理と戦略エリス、剣と屈辱エラーラ、生命と癒やし(フローラ)、記憶と幻影(マリーナ&エコー)、そして、技術と反抗イグニス

 誰もが、一筋縄ではいかない、究極の個性派集団。

 俺は、その、あまりにも強力で、あまりにも制御不能な駒たちを前に、ただ、頭を抱えるしか、できなかった。

「……なんか、俺、すごい厄介な会社を、経営してる気分だな……」

 俺の、ささやかな日常は、今日もまた、新たな火種と、新たな戦力によって、刺激的なものへと、塗り替えられていくのだった。


――ここまで読んでいただきありがとうございます!

面白かったら⭐やブクマしてもらえると励みになります!

次回もお楽しみに!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://ncode.syosetu.com/n5952lg/ 新作出しました!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ