表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/179

163.潜入者

 地下深くへと続く、石造りの階段。俺は、手渡された無地の白い仮面を顔に当て、その暗がりを、何の疑いもなく降りていった。


(くそっ、腹減ったな。早くこの特等席とやらで肉を食わせてくれよ)


 俺の、あまりにも平和な動機とは裏腹に、背後に控えていたアークエンジェルとセラフィムたちは、その身から、静かな殺気を放っていた。彼らは、俺が何かの罠に嵌められたことを察知し、臨戦態勢に入っていたのだ。


 階段を降り、二重の鉄扉をくぐると、湿った空気が肌を刺した。そして、広がるのは、あの嫌な匂い。硫黄と、血の匂いにも似た、不穏な香り。


 そこは、巨大な、石造りの広間だった。

 そして、その広間の中央。円卓を囲むように、数十人の、黒いフードを被った男たちが、静かに集っていた。彼らの目の前には、禍々しい紫黒の光を放つ、一つの物体が鎮座している。


「――ようこそ、新たな同志よ」


 円卓の最奥に座る、一際大柄なフードの男が、ゆっくりと立ち上がった。その声は低く、そして、どこか、探るような響きを持っていた。

 彼は、俺の姿を一瞥し、そして、俺の背後の護衛兵たちを見て、わずかに警戒を強める。


「聞いている。貴公が、この地で、我らの『合図』を見事に理解した、強力な新人であること。そして、規格外の護衛を引き連れていることもな」


 その、あまりにも丁重な出迎えに、俺は困惑した。

「え? あー、どうも。えーっと、特等席って、ここか? あと、みんな、仮面してるんだな」


 俺の能天気な問いかけに、リーダーは、静かに頷いた。

「仮面は、我らが誓い。貴公も、もはや外の人間ではない。さあ、こちらへ。貴公のために、席を用意している」


---

【天空城アークノア 玉座の間】


 その頃、玉座の間では、エラーラが、モニターに映るその光景を見て、冷や汗を流していた。

「馬鹿な……! まさか、あの串焼き屋が、敵のアジトだったとは!」

 エラーラは、すぐに、ノアに命じた。

「ノア! 貴様は、この男が、なぜ、そこに入れたのか、解析しろ!」


《了解。認証プロセスを再構築します》


 ノアの解析は、瞬時に完了した。


《結論。管理人は、敵組織の『合言葉』を、偶然、完全に再現しました。無知ゆえのランダムな返答が、敵の用意した複雑な『問い』の、別の認証パターンに、偶然、合致したのです。そして、ナイフの拒否という偶然の行動により、最終認証をクリアしました》


「馬鹿な……。そんな偶然が……」

 エラーラは、頭を抱えた。この城の、そして、管理人の『運と無知による規格外さ』が、最悪の形で発揮された瞬間だった。


---

【沈黙の福音・アジト】


「――して、同志よ」

 リーダーは、俺が座るべき席を指し示しながら、静かに問いかけた。

「貴公が、我らに接触してきた真の目的を、聞かせてもらおう。貴公ほどの力を持つ者が、この時に、我々の『道』を選ぶのは……一体、何のためだ?」


 その核心を突く問いかけに、俺は、腰に手を当て、肉串を片手に、静かに答えた。


「……あのさ」


「……はい、同志よ!」


「これ、どこで食えばいいんだ?」


 俺の、あまりにも個人的で、あまりにも場違いな問いかけに、リーダーの体は、一瞬だけ、硬直した。

 アジトに集う、全てのフードの男たちの間で、困惑が広がっていく。

 彼らは、知らなかった。自分たちが招き入れた、この強力な新メンバーが、宇宙の運命よりも、目の前の串焼きの食べる場所を気にしている、救いようのない食いしん坊だということを。


「……あ、あと」

 俺は、リーダーが立っていた場所を指差した。

「……そこ、ちょっと、邪魔なんだけど。俺、座って食いたいからさ」


 狂信者たちの聖域に、最強の駒が放った、あまりにも無邪気で、あまりにも理不尽な要求。

 地下の混沌は、今、神様の食欲によって、新たな局面を迎えようとしていた。

――ここまで読んでいただきありがとうございます!

面白かったら⭐やブクマしてもらえると励みになります!

次回もお楽しみに!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://ncode.syosetu.com/n5952lg/ 新作出しました!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ