表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/179

150.永遠の相棒(怒り)

「――というわけでだ!」


 玉座の間で、俺は集まった主要メンバー(エラーラ、エリス、フローラ、仮想空間のマリーナ、そして多分寝ているエコー)を前に、とんでもない事実を、まるで近所のスーパーの特売情報でも話すかのように、言いふらしていた。

「俺、どうやら、死なないらしいぞ! この城がある限り、年取らないし、病気にもならないんだと! すごくないか!?」


 俺の、あまりにも能天気な『不死宣言』。

 それに、最初に反応したのは、やはり、エラーラだった。

 彼女は、眉間に深い皺を寄せ、心底うんざりしたように、吐き捨てた。

「……はっ。よかったではないか、永遠の馬鹿管理人め。貴様が、その間の抜けた顔のまま、永遠に生き続けるというのなら、私は先に老いて、死ぬだけだ。せいぜい、一人で、長生きするがいい」

 その言葉には、明らかな皮肉と、ほんの少しだけの、寂しさのようなものが、滲んでいた気がした。


 だが、その感傷を、無慈悲に打ち砕いたのは、AIノアの、どこまでも冷静な一言だった。

《――訂正します、エラーラ・フォルティス》

「……何だ」

《貴女もまた、この一番艦アークノアの、正式な乗組員として登録された時点で、貴女の生命エネルギーは、本城のシステムと、部分的に同期されています》


「…………は?」

 エラーラの、動きが、止まった。

《厳密には、管理人様ほどの、完全な不老不死ではありません。ですが、貴女の老化速度は、通常の人間と比較して、約1000分の1以下に抑制されます。また、致命的な外傷や病気からも、城のシステムによって、常に保護されることになります。……結論として、貴女もまた、この城が存在する限り、ほぼ、死ぬことはありません》


「…………」

 玉座の間に、絶対的な沈黙が落ちた。

 エラーラは、ゆっくりと、本当にゆっくりと、俺の方へと、顔を向けた。

 その瞳には、もはや、怒りも、呆れもなかった。ただ、底なしの、絶望だけが、そこにあった。

「……つまり……私は……これから……永遠に……」

 彼女は、震える声で、続けた。

「こいつと、一緒だと……!?」


 紅蓮の剣聖の、魂の絶叫が、玉座の間に、虚しく響き渡った。


---


「あらあら……」

 モニターの向こうで、エリスが、困ったように、しかし、どこか楽しそうに、その光景を見ていた。

「エラーラ様は、知らなかったのですね。私たち方舟の乗組員が、半永久的な寿命を得るのは、当然のことかと……」

「そうですね……。私も、ガイアにいた頃から、自分が年を取らないことには、気づいていましたから……」

 フローラも、こくりと頷く。

 どうやら、この世界の常識では、城と一体化して長生きするのは、当たり前のことらしかった。


『……え? そうなのですか!? 初耳です!』

 唯一、仮想空間のマリーナだけが、素で驚いていた。まあ、彼女は再起動したばかりだから、仕方ない。

 そして、エコーは、おそらく、仮想空間の『無の部屋』で、この会話すら、聞いていないだろう。


 俺は、床に崩れ落ち、虚空を見つめて「嘘だ……嘘だと言ってくれ……」と呟き続けるエラーラの肩を、ぽん、と叩いた。

「まあ、なんだ。よろしくな、エラーラ! これから、永遠の相棒だ!」

「……殺す……。貴様だけは、絶対に、私が殺す……!」

 エラーラの、本気の殺意のこもった呟き。

 どうやら、俺の永遠のスローライフは、退屈しない程度には、刺激的なものになりそうだ。


---


 そんな、俺たちの、新たな(?)関係性が始まった、まさに、その時だった。

 玉座の間に、ノアの、来客を告げるアナウンスが響いた。

《管理人。地上より、通信。グラドニア帝国第二皇子コンスタンティン殿下からです》

「おお! 来たか!」

 俺は、エラーラの絶望などすっかり忘れ、目を輝かせた。

 約束の、菓子職人が、ついに、やってきたのだ!


《“陛下への献上品として、最高の『贈り物』をお届けに上がりました。メインポートにて、お待ちしております”……とのことです》

「よし! 行くぞ!」

 俺は、スキップでもしそうな勢いで、メインポートへと向かった。


 ポートの中央には、一つの、大きな、黒い箱が置かれていた。表面には、帝国の紋章が、金色で輝いている。

「これが、贈り物……? 菓子職人は、どこだ?」

 俺が首を傾げていると、ノアが説明した。

《輸送中の安全を考慮し、対象は、特殊なコールドスリープカプセルにて、運ばれてきた模様です。本人には、行き先は知らされていない、と》

「へー、厳重なんだな」


 俺が、その黒い箱に近づくと、シュー、という音と共に、蓋がゆっくりと開いていった。

 中から、白い冷気が溢れ出す。

 そして、その冷気の中から、ゆっくりと、一人の女性が、姿を現した。

 雪のように白いコックコート。銀色の髪。そして、銀縁の眼鏡の奥の、知的なアイスブルーの瞳。


「…………あ」

 その女性――シャルロッテ・フォン・シュタインは、目の前に立つ俺の姿を見て、完璧なポーカーフェイスを、ほんの一瞬だけ、崩した。

 そして、次の瞬間。彼女は、驚くべき俊敏さで、踵を返し、開いたばかりのハッチから、脱兎のごとく、逃げ出そうとした。


 だが、それよりも早く。

「――確保ォォォォォォ!!」

 俺の後ろから響いた、エラーラの、怒号。

 彼女は、この日のために鍛え上げてきたであろう、神速の踏み込みで、シャルロッテの背後を取り、その首筋に、手刀を叩き込んだ。

「ぐっ……!」

 シャルロッテは、悲鳴を上げる間もなく、その場に崩れ落ちた。


「ノア! こいつを、S級危険犯罪者として、城の最深部にある、特別牢獄に、ぶち込んでおけ! 二度と、日の目を見れんようにな!」

 エラーラの、あまりにも迅速で、あまりにも容赦のない、指示。

《御意に》

 どこからともなく現れた、拘束用のアームが、気絶したシャルロッテを掴み上げ、床下の闇へと、連れ去っていった。


 俺は、その一部始終を、ただ、呆然と、見ていることしかできなかった。

 俺が、待ちに待った、最高の菓子職人。

 その正体は、俺を裏切った、最大の敵だった。

 そして、俺が、一口も、彼女の菓子を口にする前に、彼女は、俺の相棒(?)によって、完全に、無力化されてしまった。


「…………」

 俺は、天を仰いだ。

 そして、心の底から、思った。


「……俺の、おやつ……」


 俺の、平和なスローライフ。

 それは、どうやら、永遠に、完成しないのかもしれない。

 俺は、その、あまりにも苦い現実に、ただ、立ち尽くすことしか、できなかった。

――ここまで読んでいただきありがとうございます!

面白かったら⭐やブクマしてもらえると励みになります!

これにて四章は終わりとなります!5章はもう少し短くする予定です

次回もお楽しみに!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://ncode.syosetu.com/n5952lg/ 新作出しました!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ