表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/179

145.後継者争い⑥

「――全軍、突撃ィィィィィィ!!!」


 第一皇子アウグストゥスの号令と共に、鋼鉄の津波が、第二皇子コンスタンティン軍へと殺到した。空からは、数十頭の隷属させられたドラゴンが急降下し、大地を灼熱のブレスで焼き払い始める。

 まさに、蹂躙。

 数の上で劣るコンスタンティン軍は、開始早々、絶望的な状況に立たされたかに見えた。


【天空城アークノア 玉座の間】


「うわー、始まった始まった」

 俺は、玉座の間で、巨大モニターに映し出されたその光景を、フローラに入れてもらった美味しいお茶を飲みながら、観戦していた。

「兄ちゃんの方、すごい勢いだな。ドラゴンとか、反則だろ、あれ」

 俺が、そんな呑気な感想を漏らしていると、モニターの一角に、見覚えのある一団の姿が映し出された。

 派手な装飾の剣を携えた、金髪のイケメン。その後ろに、いかにも高位の魔術師といったローブ姿の女性と、屈強な斧使いの男。

 第一皇子アウグストゥス軍の、精鋭部隊として、彼らは最前線で戦っていた。


「……ん? あいつら、なんか、見たことあるような……」

 俺が首を傾げていると、ノアが、冷静に、しかし、どこか俺を試すかのように、問いかけてきた。

《――管理人。記録によれば、あれは、貴官が、かつて所属していたパーティー、『太陽の剣』では?》


「……あ」

 俺は、ぽん、と手を叩いた。

「そういえば、そんなことも、あったな!」


 そうだ。あの金髪のイケメンこそが、俺を「役立たず」だと追い出した、勇者その人だった。

 まさか、こんな場所で、再会(一方的に見ているだけだが)するとは。

「へー、あいつら、まだやってたんだな。……まあ、どうでもいいけど」

 俺の、彼らに対する感情は、もはや、それだけだった。過去は過去。今の俺には、もっと重要なこと――この戦争ごっこが、どっちが勝つか――の方が、よっぽど興味があった。


---

【疑似戦争の平原】


 戦場は、混沌を極めていた。

 アウグストゥス軍の猛攻は、凄まじい。特に、北の魔女リディアが放つ、絶対零度の吹雪は、コンスタンティン軍の傭兵たちを、次々と氷の彫像へと変えていく。

「くそっ! あの氷女、一人で戦況をひっくり返しやがる!」

 コンスタンティン軍の前線指揮官が、悪態をつく。

「――退け! 一度、後退して、態勢を立て直す!」


 だが、その退却を、許す者がいた。

「――あらら、もうおしまいかい? つまんないの」

 突如、リディアの頭上から、陽気な、しかし、全てを焼き尽くすかのような、声が響いた。

 見上げると、南の魔女フレアが、炎の翼を広げ、宙に浮かんでいた。

「ちょっとは、楽しませてくれると思ったんだけどなー!」

 彼女が、指をパチン、と鳴らす。

 次の瞬間、リディアが展開していた吹雪の中心に、巨大な炎の塊が出現し、大爆発を起こした。

 轟音と共に、氷と炎が激しく衝突し、相殺し合い、辺り一面を、濃密な水蒸気の霧が覆い尽くす。

「……あの、炎馬鹿が……!」

 霧の中から、リディアの、怒りに満ちた声が響く。魔女と魔女の、直接対決が、始まったのだ。


 一方、別の戦場では。

「――はあっ!」

 老いたる英雄ジークフリートが、その身の丈ほどもある大剣を、まるで若木でも薙ぎ払うかのように、軽々と振るっていた。

 彼の周囲には、帝国の重装歩兵たちの残骸が、文字通り、山のように積み上がっていく。その姿は、まさに、一騎当千。

「ふん。数だけ揃えても、この程度か」

 ジークフリートが、吐き捨てるように言った、その時だった。

 空から、数十の巨大な影が、彼を目掛けて、一斉に襲いかかってきた。アウグストゥスの切り札、『真・竜騎士団』だ。


「……ちっ。面倒なのが来たわ」

 さすがのジークフリートも、これだけの数のドラゴンを、同時に相手にするのは、骨が折れる。彼が、大剣を構え直し、迎撃の体勢に入ろうとした、その時。

 戦場に、どこか間の抜けた、しかし、有無を言わせぬ、力強い声が響き渡った。


「――おすわりッ!!」


 声の主は、南の魔女フレアだった。彼女は、リディアとの魔法戦の合間に、こちらを一瞥し、まるで、躾のなっていない巨大なペットにでも言い聞かせるかのように、そう叫んだのだ。

 次の瞬間、信じられないことが起こった。

 ジークフリートに殺到していた数十頭のドラゴンたちが、一斉に、その動きを止め、まるで怯えた子犬のように、悲鳴のような鳴き声を上げながら、蜘蛛の子を散らすように、逃げ出したのだ。


「…………は?」

 ジークフリートは、呆然と、その光景を見上げていた。

 一方、フレアは、逃げていくドラゴンたちを見て、心底、不満そうに、頬を膨らませていた。

「あーあ! 『おすわり』って言ったのに、逃げやがった! 全然、躾がなってないな、あいつら!」


 魔女の、気まぐれな一喝。それが、帝国の切り札を、赤子の手をひねるように、無力化してしまった。

 もちろん、その裏では、名もなき一般兵たちが、互いの命を削り合う、泥臭い殺し合いも、繰り広げられていた。

 だが、この戦場の主役は、もはや、人間ではなかった。

 伝説と、伝説が、互いの意地と、気まぐれによって、盤上の駒を、好き勝手に、動かしているだけ。

 帝国の未来を賭けた戦いは、神々の、気まぐれな遊びへと、その姿を変えつつあった。

――ここまで読んでいただきありがとうございます!

面白かったら⭐やブクマしてもらえると励みになります!

次回もお楽しみに!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://ncode.syosetu.com/n5952lg/ 新作出しました!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ