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100年祝い・パンケーキ

活動報告にももうひとつショートストーリーがあります

「――というわけでだ」

 玉座の間で、俺は、集まった主要メンバーを前に、高らかに宣言した。

「この物語も、ついに百話目を迎えた。これは、祝うべきことだ。よって、俺は、百段重ねの究極のパンケーキが食べたい!」

 俺の、あまりにも個人的で、あまりにもいつも通りの欲望。

 その場の空気が、一瞬で凍りついた。

《却下します》

 即座に、ノアの冷徹な声が響く。

《糖質、脂質、及び、物理的な質量において、管理人様の健康を著しく害する、自殺行為です》

「記念日だぞ!? 記念日くらい、いいじゃないか! これも俺の精神衛生の維持のためだ!」

 俺が、いつものように駄々をこね始めると、ノアは、珍しく、代替案を提示してきた。

《……承知しました。では、記念イベントとして、**『百の試練を乗り越えて、究極の食材を手に入れよ!』**を開催します。見事、全ての試練を乗り越えた暁には、管理人様の望む、最高の料理をお作りしましょう》

「えー、面倒くさい……」

《その食材とは、かつて我らが創造主も食したという、伝説の『虹色に輝くグリフォンの卵』ですが》

「やるッ! 今すぐやるッ!」

 かくして、俺の、全くやる気のない、百番勝負が始まった。

【第一の試練:vs. 剣聖エラーラ】

「第一の試練! 私が放つ、百回の素振りを、その身で避け続けろ!」

 訓練場で、エラーラが、本気の殺気を込めて、木剣を構える。

「よし、セラフィム! 俺の盾になれ!」

「管理人本人の身体能力でなければ無効だ!」

「なんでだよー!」

 俺は、泣きながら、訓練場を逃げ回った。なぜか、99回目の素振りが、俺の尻にクリーンヒットした気がするが、まあ、気のせいだろう。

【第二の試練:vs. 巫女エリス】

「第二の試練です。私が出題する、方舟計画に関する百問のクイズに、全問正解してください」

 医療区画で、エリスが、にこやかに、しかし、分厚い専門書を片手に告げる。

「第一問。アークノアの主動力炉『アニマ・コア』の、第三世代型における、魔力循環システムの、理論的基礎となった、古代方程式とは?」

「…………」

 俺は、開始五秒で、完全に白旗を上げた。

「……ですが、管理人様は、その全てを超越した存在。よって、全問正解です!」

 エリスの、完璧な忖度によって、俺は、無傷で試練を突破した。

【第三の試練:vs. 村長】

「第三の試練! 我ら国民が考案した、『神体操』の、記念すべき百番目のポーズを、ご自身で、お創りください!」

 居住区画の広場で、村長をはじめとする国民たちが、期待に満ちた目で、俺を見つめている。

「えー……」

 俺は、面倒くさくなって、その場に、大の字で寝転がった。

「……おお……! なんと……! 全身の力を抜き、その身を、完全に大地と、そして宇宙と一体化させるという、究極の『無我のポーズ』……! 素晴らしい! これぞ、百番目にふさわしい、神の御業!」

 俺が、ただ、寝転がっただけで、試練はクリアとなった。

【最後の試練:vs. 管理AIノア】

 そして、ついに、最後の試練。玉座の間に戻った俺に、ノアが問いかける。

《最終問題。この城の中で、貴方様が思う、**『最も価値のあるもの』**を、百秒以内に、私の前に、持ってきなさい》

「最も、価値のあるもの……?」

 俺は、悩んだ。

 エラーラの剣か? エリスの宝石か? あるいは、俺の彫像か?

 いや、違う。俺にとって、一番大事なものは……。

「――これだ!」

 百秒ギリギリで、俺が、ノア(のカメラ)の前に差し出したのは、玉座にいつも置いている、ふかふかのクッションだった。

「だって、これが一番、寝心地いいから」

《……》

 ノアは、数秒間、沈黙した。

《……不正解です》

「えー!」

《論理的には、この城で最も価値があるのは、主動力炉『アニマ・コア』、あるいは、管理人様ご自身です。ですが……》

 ノアは、続けた。

《管理人様の『安眠』こそが、本城の、絶対的な存在意義。よって、この回答を、正解とします》

「やったー!」

 かくして、俺は、仲間たちの忖度と、AIの過保護によって、見事、百の試練を乗り越えた(ことになった)。

 その夜。

 玉座の間には、豪華な食事が並んだ。

 そして、その中央には、俺が勝ち取った『虹色に輝くグリフォンの卵』が、神々しい光を放っている。

「よし! この卵で、最高のパンケーキを作ってくれ!」

 俺が、そう命令すると、エラーラたちが、一斉にズッコケた。

「……結局、パンケーキなのか……」

 数分後。

 俺の目の前に、究極の食材で作られた、究極のパンケーキが、運ばれてきた。

 見た目は、完璧だ。虹色に、キラキラと輝いている。

 俺は、期待に胸を膨らませて、その一口を、口に運んだ。

「…………」

 そして、叫んだ。

「なんで、メープルシロップの代わりに、漢方エキスがかかってるんだよぉぉぉぉぉぉ!!」

《究極の食材の栄養を、最大限に引き出すための、最適解です》

 俺の、百話記念のお祝いは、結局、いつも通りの、少しだけ苦い味がした。

 だが、その不毛なやり取りを見て、エラーラも、エリスも、そして、モニターの向こうの国民たちも、なぜか、とても楽しそうに、笑っていた。

 まあ、たまには、こういうのも、悪くないのかもしれない。


――ここまで読んでいただきありがとうございます!

面白かったら⭐やブクマしてもらえると励みになります!

次回もお楽しみに!



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