未来
ヴァルター様が皇帝となられてから半年が過ぎました。
ヴァルター様は大鉈を振るい、帝国を改革していきました。
まず悪法過ぎた武具販売停止令、武具持ち込み税は即刻廃止されました。そして一時的に関税を下げました。それにより減っていた貿易、取引は急激に回復しました。この年は他国が不作だったのも我が帝国にとっては幸運だったかもしれません。
また減ってしまった鍛冶屋には優遇措置が設けられ、残ってくれた鍛冶屋は立ち直り、また関連産業の景気も元に戻りつつあるようです。
孤児院は統廃合され、孤児を雇うように大商人へ罰則のない命令をし、また望む孤児には軍に入れるようにされました。大商人や軍をまとめるものたちは、どうせ雇うことになるなら、と多額の寄付や投資、教育を担当してくれることになりました。もちろん帝国もそこにお金は入れています。
経済の流れが活発になったので皆潤い、帝国にも余裕が出るようになり、また軍への予算は普通になりました。武具も帝国内で調達できるように戻りつつありますし、隣国のアウムレッチやケトロイダの没落が著しく、難民でない移住者が増えています。その移住者を支えるだけの仕事と場所が今の帝国にはあります。
ヴァルター様は約束を守ってくれ、ラメルキ砦とその周辺の直轄地をオークたちに貸すことにしました。オークたちはそこで暮らしていける代わりに、わずかですが土地を借りる代金を払うことになり、また他の制度は貴族領と同じとなりました。
すなわちオークの部族を一地方領主とした、感じですね。ただ土地自体は貸し出しですので、オークたちがよっぽどなことをされたら追い出す権限を帝国は持ちますが。まあ少なくともミルトさんやゾーグさんがいる限り、滅多なことにはならないでしょう。
元々の南のオークの土地からは今まであまり帝国内にはなかった鉱物資源が取れますし、死の荒野平定のための戦力を帝国も出す余裕が出てきましたので、冒険者たちも腕に覚えがあるものはこぞって帝国を通ってオーク領へ向かいました。冒険者たちは一部オークを見くびっていたりしたようですが、少なくともオーク領の南オークはきちんと一領土の領民として落ち着いていることが知られてくると、そういう方も減っていったようです。そこにはニンジアの噂を広める力が関わっています。わたくしたちがニンジアに頼んだわけじゃないのですが、勝手にやってくれるのがとてもありがたいとともに少しだけ怖かったですね。
研究所の所長ベルクト・エファードや一緒に来た魔法使いたちはそのまま研究所で研究を続けておられます。ただわたくしがそちらにいけなくなりましたので、その時点でベルクトに権限を渡し、管理はウァーリス領のフェルデナンド叔父さんに頼んでいます。最近ようやく研究員たちが臣民になれたようで一安心です。彼らの開発力は高く今も帝国を潤わせていただいています。
スヴェンさんたち方面軍はヴァルター様に重用され忙しくされているようです。そんなスヴェンさんとともに砦にいた兵士の方々、マリーさんやヘルムのコルノーさんたちも一緒にスヴェンさんと行動を共にされています。
彼女たちは変わらずスヴェンさんに付き従っておられ、エクセンドーラさんは配置換えされ皇城の治癒部隊に配属されておりまして、たまにフリーダに裁縫を教えてくれています。
……結局コルノーさんの顔は見れず終いですわ。
それにいつか隙を見てマリーさんもお食事などに誘わなければ。彼女は役目だったのでしょうけど当時不安だったわたくしを支えてくれましたもの。
アッケンベルテさんたちプラウドアルターはまだ冒険者として活動されていますが、それぞれのコネをヴァルター様のために使ってくださっています。特に大きいのがクレイタさんの宗教関連と、レレットステウさんの裏社会方面です。
ルファは最近帝都に帰ってきました。顔は忘れていたのですが、リンクのおかげでルファだと分かりました。ルファはあちらでいろいろあってニンジアの一員になったようです。長らくこちらにいたホンゾさんの代わりにニンジアの代表としてこちらに来たようです。
ルファが来てからはニンジアの活動は縮小され、市井に溶け込んでいるようです。たまにレレットステウさんの裏社会勢力と協力して国外からのそれらを排除してくれているようです。
ルファは男性の体を得ているので、そう簡単には会えなくなりましたが、リンクのおかげで近くにいさえすれば会話したければいくらでも会話はできます。今では皇城にこもりっぱなしのわたくしの良い情報源となってくれています。
あとそれと、トゥーモとティユはニンジアとしてルファのもとで働くことになりました。帝国とニンジアを結ぶ重要人物となっています。メアリだけ残ってくれて今もわたくしの世話係として近くにいます。
ハインツ殿下は殿下ではなくなったらしいですが、あれから一度も会っていません。ラウラもハインツ様とともに学園をやめて、地方に封じられたらしいです。ラウラとは一度手紙でやりとりしましたが、今は合わせる顔がないと会うのを固辞されました。けど時間が解決してくれるはずです。ハインツ様は……もうヴァルター様の弟君であるということしか感じておりません。
わたくしはヴァルター様の婚約者として皇城に入ることになりました。その際に上皇であるお父上と皇太后であるお母上ともお会いでき、今では特に皇太后様に良くしていただいています。以前ハインツ殿下の許嫁であったときはほとんど交流はなかったですが、現皇帝の婚約者となれば違うようです。
わたくしの父は未だ忙しく軍務大臣をされておられます。帝国自体が急激に変わっているので軍務も大変なようです。お母様もウァーリス領から戻ってこられていますし、お兄様は今再び学園へ通われています。学園を卒業されたらヴァルター様の直属となることはもう決まっているらしいですわ。
わたくしは貴族籍を無事戻されて再びお父様とお母様の娘として、お兄様の妹に、アクレシア・ノイラートに戻ることができました。けれども今は親しいものは皆わたくしをシアと呼びます。今後もそれでいいと思います。
フリーダとエルノは、コボルド初の臣民となりました。いつまでもペットでいるわけにもいきませんし、実際に帝国内にもコボルドは住んでいるので良い事例となるでしょう。今は二人共わたくしの近くに護衛として、侍女としております。けど近しい者は彼らとわたくしの関係を知っていますので、護衛と侍女には見えないでしょう。
わたくしの野望は、フリーダに一度でいいから社交界に出てもらって自慢することです。エルノは自分の部族を立て直したいようですが、すでに生き残りがフリーダしかいませんし、エルノ自身まだ子供ですからね。今後次第ですわ。
クァルは皇城に専用の建物を作ってもらって、そこで暮らしています。登録されているので自由ではありませんが、比較的好きなことをやれているはずです。たまにヴァルター様を乗せる仕事がありますが。
……
「どうしたんだい、シア?」
わたくしがベランダでお茶を飲んでいましたら、忙しいはずのヴァルター様がおいでになられました。
「いえ、ヴァルター様。ふと南の森での生活を思い出していました」
フリーダがお茶に付き合ってくれていますし、護衛としてエルノも近くにいますし、ベランダの向こうではクァルが飛んでいますし。
ヴァルター様が苦笑されます。
「シアは未だに俺のことを様づけなんだな?」
「申し訳ありません、ヴァルター……」
「ヴァルター様に様をつけないとシアは照れてしまうのです」
フリーダがにっこりと笑ってわたくしの代わりに余計な弁護をしてくれます。
「しばらく時間が取れなかったが、ようやく取れてな。すまない。婚約者らしいことはまだ何も出来ていない」
「お気になさらず。最初から分かっていたことですわ。わたくしとしては感謝しかありませんしね」
「……それは君の父上や兄上、オークたちの事かい?」
「それもあります。がヴァルター……はわたくしを助けに来てくれた王子様だったのですよ。当時のわたくしに特に助けがいらなかったことはあまり関係ありませんわ。生き残るだけならあそこでも出来たでしょうけど、こんな未来はヴァルターのおかげです、皆幸せな方向へ行けたと思います」
わたくしは思いっきり微笑んで言いました。
ありがとうございました。




