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【第9話】Spring〜Summer①(生徒・菜美視点)

当作品は女子生徒と女性教師の二人の視点から交互(1〜2話毎)に話が進んでいきます。

なおサブタイトルの見方は、


Spring①(生徒・菜美視点)


その話(内容)における大まかな季節

通し番号

生徒と先生どちらの視点(語り)か

視点(語り)側の名前


という構成です(第1話を例にしています)。


また時折挟まる『Coffee Break』は、本編で出てきたエピソードの詳細や本編には出てこない彼らの日常を会話主体で描いた小話です。飛ばして頂いても差し支えありませんが、本編と一緒にお楽しみ頂けたら幸いです。

 うちの学校にはGW明けに『大体育』という授業と行事の中間的なイベントがある。クラスメイトとの親睦を深める意味を込めて各学年順番に一日一回、午前中の授業を全て体育にしてクラス(一部教師)対抗の種目を幾つかこなす。とはいえ順位が付くのは最後に行われる全員参加のクラス対抗リレーだけで、それすら成績には反映されない。その代わりリレーの優勝クラスには“ちょっと豪華なお弁当”がその日のお昼に配られる。これがなかなか好評で、毎年そこそこ…いやかなりの盛り上がるをみせる。ちなみに私はまだ食べたことがない。

 とはいえ事前準備が必要なのはリレーの順番を決めることくらい。他に二種目あるが、これらは全員参加ではなく当日のくじ引きで決まる。そこに書いてある数字=各クラスのその出席番号の生徒が参加するという仕組みだ。

 どちらも運動神経はほとんど必要としない。じゃあ何故やるのかというと、発案者である校長先生曰く『親睦を深めて生徒も先生もみんなで楽しもう』ということらしい。あのお地蔵校長先生(密かにこう呼んでいる)らしい発想だ。

 別にそれ自体に異論はないが、あまり目立ちたくない私はくじ引きが当たらないことを毎年願っていた。幸いその願いが届いたのか、二年連続参加を逃れている。その代わりお弁当も逃しているけど。


「俺、例のお弁当食べたことないんだよねー。でも今年こそは食ってやるぞー!ということで麻生ちゃん頑張ろうね!麻生ちゃんからの愛と希望、しっかり受け止めるよ!」

「愛と希望は無理だけど、バトンはちゃんとモモに渡すよ。」

「そんな!麻生ちゃんが愛と希望を贈りたい相手は他にいるってこと!?キーッ!」

「そんなこと言ってないでしょ!ていうかそういう恥ずかしいこと大声で言わないでくれる!?」


 目立ちたがり屋のモモは自らアンカーに立候補。あとはくじ引きで順番を決めたのだが、その結果私は最後から二番目の走者になってしまったのだ。

 出逢いは衝撃的だったけど、この頃にはモモとよく話すようになっていた。最初は違和感のあった“友達”という距離感に、ようやく自分の心が追いついた感じだ。残念ながら他のクラスメイトとはまだ挨拶程度しか交わせないし鳴海先生との進展も無いけど(これは当たり前か)、GW中も学校が始まる日を指折り数えて待っている自分がいた。


 そして大体育当日。


「一応弁当という優勝報酬はあるが、怪我なく全員が楽しめるのが一番だ。お前らの健闘と無事を願っているよ。」


 淡々と、でもどことなく気持ちのこもった言葉で鳴海先生が私達にエールを送る。


「先生達もリレーに参加するんでしょ?小牧先生大丈夫なの?」

「小牧先生が大丈夫なわけないだろう。」

「鳴海先生ひどい!……でも精一杯頑張ります。」


 生徒からの質問(心配)に対しこれまた淡々と答える鳴海先生と、失礼ながら如何にも運動神経が無さそうな小牧先生。小牧先生は相変わらずオロオロあわあわすることが多かったけど、授業にも生徒にも真摯に向かい合おうとしているのがよく分かる。それにこうして鳴海先生に反論(?)出来るようになったのも小さな成長かもしれない。

 新学期初日と同様クラスは笑いに溢れたけど、それは何処か温かくて優しいものだった。みんなも同じような思いや気づきを抱いているのだろう。そして初日とは違い、今度は私もみんなと一緒になって笑っていた。


 リレー以外の種目は世間で言うところの障害物競争と借り物競走みたいなもの。ただどちらも学校独自の名称とルールがある。

 まずは障害物競争ポジションである『四天王を倒せ!』。これは各エリアに待ち構えている四天王…国語(現代文)、数学、日本史、化学担当の各先生が出す問題に答え、正解出来たら次に進むというもの。一応最初に出される問題が最高レベルのもので、不正解ごとに段々とレベルを下げていく。ちなみに最終問題(一番レベルが低いもの)まで行き着く生徒はごくたまにいるが、どのエリアも全問不正解者は今までいなかった模様。要はその程度の難易度ということなのだけど…。


「ちょっ!ちっひー問題難し過ぎ!せっかくトップバッターで来たのにみんなに抜かされているんだけど!恥ずかしくて泣きたいよー!」

「泣きたいのはこっちだよ!最初の問題だって一応授業でやっている範囲なんだぞ!他は順調だったのに、俺の教え方が悪いのか!?…とりあえず後ろに回れ。」


 一番最後に辿り着いたクラスの生徒が鳴海先生からの問題に答える。…正解。「モモ、お先に失礼!」と言いながらゴールに向かっていった。

『四天王を倒せ!』は計五回行われ、これが五回目のレース。幸い私の出席番号は当たらずに済んだもののモモが当たってしまった。

 モモは意外と勉強が出来るのか各エリアをあっさりとクリアしていったが、何故か化学で足止めを食らってしまったようだ。これはもしかして学校初の全問不正解が出るかも…。

 そしてまたモモの番が来た。というよりもうモモしかいない。


「…ちっひー、あと何門残ってる?」

「あと二問。でもラストは本当に易し過ぎるからここで正解してくれ。…お前のプライドの為にも。」

「…オッケー、頑張ってみるよ。」


 親睦を深めるはずのイベントで何故こんなにもピリピリした空気が流れるのだろう。周りも固唾を飲んで行方を見守っている。

 鳴海先生が問題を出す。この答えは授業の序盤に習いその後も何度も出てきている内容だ。ここまで来るとこれより易しい問題がどんなものなのかが逆に気になる。

 でも幸いにも、モモも正解を導き出せたようだ。


「……よし、行け。早く行け!もう行ってくれ!」

「プライド守れて良かったー!ありがとうちっひー!」

「…俺のプライドはボロボロだけどな。」


 大きな声援と拍手とともにモモがゴールする。クラスのみんなも「お疲れ様ー!」「よく頑張ったな、モモ!」と労いの言葉を掛けている。これもモモの人柄故だろう。


「あーもう、疲れたよー。麻生ちゃんも労いの言葉プリーズ!」

「私はモモよりも鳴海先生にお疲れ様を言いたいよ。」

「ひどい!麻生ちゃんはちっひーの味方なの!?」

「味方っていうか、最初の問題はとにかくあとは授業をきちんと受けていればある程度分かるはずだよ。正直私もそこまで化学は得意じゃないけど、鳴海先生の授業って凄く分かりやすいし。」

「…お、麻生はそんな風に思ってくれているんだな。」


 モモとは別の声…私の大好きな声が会話に加わって来た。


「なっ鳴海先生!?」

「麻生、俺は嬉しいよ。おかげで百瀬のせいでボロボロになったプライドが少し回復したよ。ありがとな。」

「麻生ちゃんが欲しかったらまずは俺を倒しなさい!

「モモ!アンタ何言ってるの!」

「はいはい。ていうかお前、こんな感じで中間テスト大丈夫なのか?俺も小牧先生も放課後は大抵理科準備室にいるから、二人で個別指導してやるぞ。勿論麻生みたいな真面目な生徒も大歓迎だけどな。」

「小牧先生もいるの?じゃあ行こっかなー。」

「百瀬…お前は俺をいじめてそんなに楽しいのか!?」

「わっ私!鳴海先生に教えてもらいたいです!…あ、勿論小牧先生にもですが。だからその際はよろしくお願いします。」

「麻生は本当にいい子だなー。正直お前らが何で仲良しなのか分からないけど、まぁ百瀬の世話をよろしく頼むな。大変だろうけど。」


 そう言うと鳴海先生はもう一歩私に近づき、「ありがとな。」と小声で囁いてからこの場を去っていった。


「ちっひー、俺と麻生ちゃんに対して扱い違くない!?もうこうなったら本当に理解準備室に突撃してやるんだから!で、次のテストは満点取ってやる!麻生ちゃんも一緒に行こうね!」


 モモには申し訳ないが、脳みそと心が沸騰し掛けている今の私にはこの会話が耳に入って来なかった。



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