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第2話 能力の説明

「へえ、雅渡って結局この高校に通ってるんだ」

 少し興味津々、といった感じで莉那は言う。

 俺の通っているこの高校は俺の家から最も近くにある平凡な高校だ。俺は何か考えがあってこの高校に通っているのではない。ただ、近いから、という理由だけでこの高校へと進学した。

 莉那がいなくなってからの俺は莉那のことを考え続けたり幽霊と関わりあうという珍事を行ったりと精神的に余裕がなく進路など考えている暇がなかった。

 いや、幽霊と関わる、というのはそれほど俺の負担にはなっていなかった。中学の三年になったころにはもう、慣れていたから。結局俺は莉那のことだけを気にしていたのだ。

 けど、決して莉那のせいだとは思っていない。自分が精神的に弱かったのが悪いのだ。

 あれから、三年経った今では少しだけ精神的な余裕が生まれてきている。少し遅かったかもしれないがまだ、どうにかなるような気がする。それが単なる楽観的思考だとは気がついているけど。

 だけど、それ以前に俺は何をしたいのか、がわからない。だから、進路に関して本気になることができないのだ。

 そんなことよりも校舎に入り教室に荷物を置くと、とりあえず俺達は屋上へと向かった。

 屋上は出入りが自由な場所だ。けれど、人がたくさん来るのは昼休みの時くらいで今は俺と莉那しかいない。

 俺は毎朝この屋上で時間を潰している。友達がいない、というわけではないが俺に友達と呼べるような人は一人しかいない。

 けどそいつは、いつもホームルームの始まる合図のチャイムの鳴る一、二分前に来る。なので、いつも早めに学校へと行く俺は教室にいても話す相手がいないのである。まあ、ここにいるのはそれだけの理由ではないのだが。

「ねえねえ、雅渡。聞きたいことがあるんだけど聞いていいかな?」

 校庭の方を眺めていた俺に莉那が話しかけてきた。

「なんだ?」

 俺は隣の莉那の方を向きながら聞く。

「雅渡って今まで幽霊と話したりしたことがあるの?」

「ああ、結構、話したことがあるぞ」

「そうなんだ。どうりで普通にわたしと話してくれるわけだ」

 莉那は納得したように頷きながらそう言う。

「それじゃあ、もう一個質問。何でわたしは雅渡に触れた、というよりもぶつかれたの?それに、なんで話すことが出来るの?今まで何度かわたしみたいな幽霊を見ることができる人と会ったことはあるけど話したり触れたりできる人は初めてだよ。あ、話ができる人には一人くらい会ったかな?」

 やっぱり、俺とじいちゃんみたいに幽霊と話せるやつって珍しいんだな、と思いながら莉那に俺の霊力について説明をしようとする。

「ああ、それのことか。説明してもいいけど、ちょっと長くなるぞ」

「うん、全然かまわないよ」

 そう言って莉那は頷く。俺は頭の中でじいちゃんから聞いた話と自分の経験を整理して説明を始めた。

「まず、俺みたいに幽霊と関わることのできる人または霊力を扱える人のことを霊能者って呼んでるらしいんだ。誰がそう決めて、どうやって広まったのかは知らないがな」

 そう、俺は初めてじいちゃんから聞いたときにこのことを疑問に思っていた。

「知らないって、どういうこと?インターネットとか噂話とかで広まったんじゃないの?」

 不思議そうに首を傾げながら莉那は聞いてきた。

「いや、そういうことじゃないらしい。というか、じいちゃんの何十世代も前から伝わってるみたいだからインターネットなんてないよ。それに、噂話だとしてもどこかで歪曲してもととは違うものができるだろ?何故かは知らないけど、全国で霊能者の呼び方はおんなじなんだ。まあ、もしかしたら、昔は霊力を扱える一族が一つだったんだけど別々になって今の状態になったのかもしれないけどな」

 莉那のした質問は俺もじいちゃんにしたことがある。けれど、返ってきた言葉は、わからない、という一言だった。

 それを聞いてから俺はさっき莉那に言ったような説を考えてみた。じいちゃんも知らないことなので合っているのか確かめる手段はないのだが。けれど、じいちゃんはそうかもしれないな、と俺の説に同意を示してくれた。

「そうなんだ。まあ別にそういうことはどうでもいいんだけどね。それで、わたしが雅渡に触れる理由は?」

 莉那は早く自分の質問に答えてほしいのか俺を急かすようにそう言う。俺もわざわざ引っ張る理由もないので莉那の質問に俺は答える。

「一般的に霊能者って呼ばれる人たちは幽霊を視ることが出来るらしい。それで普通だったら幽霊を視る為の霊力と幽霊に対する攻撃または防御手段の為に使う霊力でほとんど霊力を使うから声を聞いたり触ったりすることは出来ないらしい」

「雅渡、さっきかららしい、ばっかりだよね」

 横から、莉那が俺の説明を遮った。俺は少しだけむかっ、として莉那の額にでこぴんをしながら言った。

「聞いただけの話なんだから仕方ないだろ」

 聞いているのかいないのかわからないが莉那は俺にでこぴんされた部分を手で押さえている。

「うー、ひどいよ、雅渡。わたしは思ったことを言っただけだよ」

 非難がましく俺の方を見ながら莉那は言う。

 よく見てみると少しだけ涙目になっている。けど、説明を遮られて少し機嫌の悪くなっている俺はそんなこと気にしない。

「お前が口を挟むから悪いんだろ。せっかく説明してやってるっていうのに」

「雅渡ってそんな性格だったけ?わたしがいない間に性格変わっちゃった?」

「ああ……そうかもな。お前がいなくなってから色々とあったから……」

 俺がそう言ってから沈黙が流れる。気まずい。この沈黙は間違いなく俺が作り出したものだ。

 何も考えずに思ったことを言うもんじゃないな。

 俺は何かを言ってこの気まずい空気をどうにかしようと思った。けど、どうしたらいいかはわからなかった。だから、この気まずい空気がずっと続くのか、と思った。

 しかし、その沈黙は長くは続かず莉那の言葉によって壊された。

「……雅渡はわたしがいなくて寂しかったの?」

 その言葉に一瞬どきっ、とした。莉那は俺が寂しがっていたことを知っているんじゃないだろうかと。

 けれど、それは単なる思い違いで莉那はただ純粋な疑問として聞いているに決まっている。幽霊になっても人の心を読む力なんか絶対に持つことはないから。

 俺が莉那に寂しがっていたと知られたくない。知られるのが恥ずかしいと思っているから俺が寂しがっていたことを莉那が知っているんじゃないだろうか、と思ってしまったんだ。

 そう思った俺は適当に莉那の質問をはぐらかした。

「さあな。……それよりも、説明の続きをするからな」

「むぅ、何で、はぐらかすの?わたしは雅渡の気持ちを知りたいだけなんだよ」

 説明を再開しようとする俺の声を莉那は遮る。莉那は頬を膨らまして不満さを表している。

 変わってないな、と俺は内心で苦笑しながら思う。昔も莉那は俺に対して何か不満があれば頬を膨らましていた。いつもそれを見ては子どもっぽいな、と思っていた。

 だけど、

「それで、俺は幽霊に対する攻撃、防御手段を持っていないんだ」

 俺は莉那の不満を無視して説明を進める。というのは嘘で俺は説明の中で莉那のいなかった間の気持ちを伝えるつもりになっていた。

 死ぬ前と変わっていない莉那を見たら話したくなってしまった。しかし、今から先ほど無視した質問に答えるというのは少し格好がつかない。だから、俺は説明の中で俺の気持ちを教えてあげようと思ったのだ。

「もういいよ。そんなに説明したいんだったら聞いてあげるよ。全部聞いてから言ってもらうからね!」

 莉那は俺が心の中でどう考えているかまったくわかっていないようで不満をあらわにして俺の説明を聞く体勢になった。まあ、当たり前か。さっきも俺がいったとおり幽霊になったからといって人の心の中がわかるようになるわけではない。

 なんにしろ聞いてくれるのならそれでいい。そう思いながら俺は説明を続ける。

「俺は攻撃、防御手段に霊力を使ってないから全ての霊力を幽霊に対する五感として使われているみたいだ。だから、俺は莉那みたいな幽霊に触れるたりすることができるんだ」

 そこで、俺の説明は一度終わる。莉那は俺がどんな気持ちを持っていたか聞けなかったからかこの説明に対する興味は薄れてしまっているようだ。ふーん、という気のない言葉が返ってくる。

 今、俺が莉那のいない間に持っていた気持ちを言っても意味がない。下手をしたら莉那はちゃんと聞いてくれないかもしれない。だから、莉那の興味を引きつけるために俺はこういった。

「それで、なんでそうなったかっていう理由はちゃんとわかってる。聞きたいか?」

「わざわざ確認を取るようなことじゃないと思うけど……。あ!もしかしてすっごいびっくりするような理由なの?だったら聞く聞く」

 莉那はこういう単純な誘い文句につられるようなやつだ。こういう性格だから俺は莉那と喋っているときは少しだけ場を盛り上げるような話し方をすることが出来る。

 莉那以外と話しているときなら場を盛り上げるのは俺以外の人に任せている。俺はもともと人と話をするのが苦手だから。

「それは、俺がお前にすごく会いたかったからだ。俺がお前に会いたいって願ったから幽霊と関わるためだけの力が俺に宿ったんだ」

 言い終わってから俺は小さく深呼吸をする。やっぱり、こういうことを本人に言うのは恥ずかしいな。

 対して、質問をしてきた本人は驚いたように俺のことを見ている。

「ほ、本当にわたしに会いたいって思ってたの?」

 今度は逆に俺がその言葉に驚いた。今まで莉那と接していて初めて聞いた疑いの言葉だったからだ。

「本当だよ。ていうか、恥ずかしいから何回も言わせないでくれ……」

「あ、うん、ごめん……。でも、嬉しいな。そんな力が使えるようになってまでわたしに会いたいって思っててくれたんだ。わたしがこの世界に残ってるって信じて……」

 莉那は俺の言葉を聞いて感じた何かを包み込むようにして両手を胸に当てて目を瞑る。その表情はとても穏やかに見えた。そしてそれは、何かの絵画の一部のように見えた。そう、思うほど綺麗、だった。

 俺は莉那の姿に見惚れていた。今まで一度も見たことのない莉那の表情。それは、俺の心のどこかにしっかりとはまるような。未完成のパズルに一ピースがはまるような、そんな表情だった。

「ま、雅渡、見つめられると困るんだけど……」

 莉那は恥ずかしそうに顔を俯かせると少し小さい声でそう言った。知らない間に俺は莉那の顔を見つめてしまっていたようだ。

「ご、ごめん。ちょっとぼーっとしてたみたいだ」

 俺も莉那から顔をそらす。

 莉那の先ほどの恥ずかしそうな表情は未完成のパズルに一ピースがはまるようなそんな感覚を再度、俺に植え付けた。これは、なんなんだ?


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