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フードを外した彼女が気の済むまで私を堕としに来た  作者: 進道 拓真


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第二話 明かされたもの


「──いやはや、助かっちゃったよ。面目ない…わざわざお家まで案内してもらっちゃって」

「うん、まぁ……あたしも、あんなところでクラスメイトが倒れてるの放っておく方が気になって仕方ないからそこは良いんだけど」


 日依が佳澄の惨状を発見してしまってから数分後。

 まさかの彼女が倒れていた原因というのが極度の空腹であったと判明し、一体どう対処したものかと悩みもしたがとりあえずあの場所に留まっていてはいつまで経っても問題は解決しないことだけは明らか。


 なので日依は力なく横たわっていた佳澄に肩を貸し、こうなっては仕方がないので一時的な避難先として()()()()()に彼女を招き入れていた。

 ゆえに今、現状を客観視してみると普段から見慣れたはずの家に居るはずもない佳澄が滞在しているという…何とも不思議な気分になる光景がそこにはある。


 そう感じてしまうのはきっと…彼女が日頃から()()()()()()()()()からこそ、それに慣れてしまったのが関係しているのだろう。


「もう本当に駄目かと思ったよ。あそこで私は野垂れ死んでいくのか…なんて、諦めかけたところにまさか旗倉さんが来てくれるとは夢にも思わなかったし。それに、こうして同級生の家に来るのも初めてだ」

「あたしもこんな風に人を招くのは初めてのことだよ……」

「なら私たち、二人とも初の経験ってわけだね。…ところで、ご両親は?」

「お父さんとお母さんはいない……と言っても、別に変な意味じゃなくてどっちも長期出張だから一人ってだけだよ」

「へ? じゃあ旗倉さん、一人で過ごしてるんだ」

「うん」


 会話の中でさりげなく明かされたが、今この家には日依と佳澄の二人だけしかいない。

 既に時刻は夜間に突入しかけているため、本来なら顔を見せてもおかしくはない彼女の両親であるが…それは今しがた日依が説明した通り。


 特段隠しているわけでも無いので語ったものの、実は彼女の両親は少し前から仕事で長期の出張に出ておりその影響で家にいる時間は皆無と言っても良い。

 よって彼女は経緯はどうあれ、現在は自然と疑似的な一人暮らし状態になっていたのだが…そこに文句は無かった。


 不幸中の幸いか、家事を始めとした生活能力が人並み程度には備わっていた日依は料理も洗濯も自分一人だけで問題なく片付けられる。

 無論、高校生という立場があるので勉強とも平行しての作業は苦労することもあったが時間が経つにつれてそれも次第に順応していった。


 両親からもこの頃はどうかと近況を気にかけてくれる連絡は時折送られてくる上、生活費に関してもそちらからまとまった金額を貰っているので問題なく生活は出来ている状態。


 周りからすれば少々珍しい環境下で暮らしているのは彼女自身も自覚しているが、捉えようによっては誰に気を遣わなくても良い気楽な時間でもある。

 そうした事情があるため今この時、日依の家には彼女以外に誰もおらず…それゆえにわざわざ許可を取らずとも、彼女の独断で家に招いても問題が無かったのだ。


「それで、あたしも聞きたいことはあるんだけど……そもそもどうしてあんな場所で倒れてたの?」

「う~ん…そのことね。まぁ見られちゃったら誤魔化しようもない、か……正直に話すよ。旗倉さんにはもうお世話になってるし……っと、その前に()()着たままは流石に失礼だね」

「……っ」

「うん? どうかした?」

「あ、いや……」


 こちら側の事情としてはそのようなものなので、今度は日依が尋ねる番。

 最も聞き出したかった話題として、まず何よりも佳澄が何故あのような場で倒れ伏していたのか。


 薄々原因も察せてはいるが本人から直接確認をしておきたかったので質問した。

 すると、もうこうなっては言い逃れも出来ないと悟ったのか彼女は観念したような素振りを見せて経緯を語ろうとして……その前に、被りっぱなしだったフードを不意に脱ぎ捨てる。


 ──そうして露わになったのは、日依もクラスを同じにしてから初めて目の当たりにした佳澄の容姿。


 彼女が想定していた以上に美しいショートボブの髪をふわりとたなびかせ、確かな美人さの中に微かな愛嬌も残されているという、見た者全ての視線を引き付けていきかねない面持ち。

 瑠璃の色を彷彿とさせる眩い瞳と、それを引き立てるようにスッと通った鼻に艶やかな薄桃色の唇。

 …佳澄の見た目が整っているという噂は小耳に挟んだこともあるが、まさかこれほどとは思っていなかったので日依も目を丸くさせられる。


「えぇっと…小野寺さんの顔をちゃんと見たのは初めてだったから、不意を突かれたと言いますか…あと、学校の時と態度がかなり違ったから、少し戸惑ってるみたいな…?」

「あぁ。確かに学校と話し方は違うかもね。あんまり人と話すのが得意じゃないからずっと一人でいるし」

「……今は平気なの? 一応あたしもクラスメイトなんだけど…」


 同じ高校生とは思えないほどに整った美貌を前に見惚れかけそうになったものの、それと同時に日依が不思議に感じたのは彼女の()()の違いである

 というのも、普段学校で見かける佳澄の過ごし方は誰とも群れず一人でただただ退屈そうに、見方によってはクールな佇まいで席に着く姿がほとんどだ。


 なのに今は隠していた顔すら晒して、会話も自然な流れで成立している。


 ただそれに対する佳澄の反応は非常にシンプルだ。


「いいよ別に。あれは大勢の人と話すのが苦手だからそう過ごしてるってだけで、こうして旗倉さん一人と話すくらいなら普通に受け答えは出来るからね。それに──…」

「それに?」

「……ううん、何でもない。それより倒れてた理由について説明するよ。…少し恥ずかしいけど」


 どうやら日頃の生活態度から若干誤解してしまっていたが、佳澄も他人とのコミュニケーション全てを苦手としているわけでは無いらしい。

 話を聞く限りでは彼女が避けているのは大多数の相手との会話だけであって、それを嫌っているから普段もあのような人を遠ざける対応をしているとのこと。


 …何となく、納得しきれない部分も残っていたし佳澄が言い淀んだような発言は気になったが向こうもそれ以上は語るつもりは無さそうだったので今は流した。

 ひとまず現在は、あの謎の状況に至った過程を聞いておきたい。



 しかし、そこで明かされた話の中身も…どこか首を捻るようなものではあったが。


「実はさ…私、今日家に財布を忘れてきちゃったんだよね。そのせいで学校のお昼も買えずに食べそこなっちゃって……放課後には空腹感が限界を迎えてたんだよ」

「……えっ? もしかして、原因って…()()?」

「うん、そうだよ。辛かったなぁ…食べられるものが無いから彷徨ってたけど、お金が無いから何も買えず──というか白状すると、今も空腹は続いてるので結構辛い……」

「…………さっきスーパーで買ってきた食べ物が少しあるけど、それで良かったらあげるから食べる?」

「いいの!? ありがたく頂くよ! いやぁ…旗倉さんに助けてもらえて本当に助かったね。悪いことの後には良いことが続くとはよく言ったものだよ…」


 ……聞いていて日依は自分の耳を疑いもしたが、聞き返して確認までしたので聞き間違えようもない。


 あれだけ発見した者を総じて心配させるような光景を生み出していた佳澄の倒れていた原因というのが、まさかの()()()()()()ために食べる物を調達出来なかったことから発生した行き倒れとのことなのだから、己の聴覚を疑いにかかるのも当然だ。


 だが、今も尚空腹が継続していて辛いと暴露してきた佳澄の辛そうな表情を見てしまえばそれが嘘ではないことも容易に判断出来てしまう。

 もう少し賢いやり方と選択肢を取れていれば、そんな事態にはならなかっただろうにと思いつつも……とりあえず、一時的な対策として日依の手元には先ほど調達したばかりの食パンやら惣菜やらがあるので、それを食べて凌いでもらうことに。



 それと余談であるが、空腹度合いが限界に達したと息を吐きながら伝えてきた佳澄の姿は…その容姿とも相まって思わず日依も視線を引き付けられてしまいそうだったそうな。


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