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フードを外した彼女が気の済むまで私を堕としに来た  作者: 進道 拓真


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第二一話 すり合わせるために


「で、話の続きになるだけど結局どうして佳澄さんのお母さん……あ、えぇと菫さん…でいいのかな? 何であたしのところに来たんだろう…」

「それは…私にも分からないんだよね。そこを聞ければよかったんだけど、あいにくそう聞ける雰囲気でも無いからさ」


 日依が必死にした説得の甲斐もあり、佳澄も完全に持ち直した…とまでは言わないがある程度は調子を取り戻し始めていた。

 さっきまでと比べれば会話もスムーズに行えている上、日依と視線が交わると少し頬を赤くしているのは気になるがそれも今は良いだろう。


 ともかく直近の関門はどうにかなったのでそれより片付けなければならない点。

 佳澄の母、菫が日依の家を訪ねて挨拶をしに来たことの真意を探るということだが…やはり何度考えてもしっくりくるような答えは見つけられない。


 それについては実の娘である佳澄も同様で、まぁ彼女の場合は家庭環境の事情もあるため一概に括れはしないがどちらにせよ具体的な真実までは迫れなかった。

 場の雰囲気を持ち直したは良いものの、こうなると完全にお手上げ状態と何ら変わりない。


「うーん…そっかぁ。何か少しでも分かれば良かったんだけど、こうなると手の打ちようもないし…考えても仕方ないのかな」

「私もママが考えてることは読めないからねぇ…あの人は本当に、いつも淡々としてるのがデフォルトだから娘の身でも分からないことだらけだよ」

「……そう、なのかな」


 有力な情報も、身内である佳澄でさえも全く意図が掴めないのであればおそらくこれ以上は思考を続けたところで無意味になる可能性が高い。

 大前提にしても、彼女の母に関する事柄を人伝の噂でしか聞いたことがない日依では考えられる範囲にも限界はあるのだからそれは当たり前なのだが。


 しかしそうだとしても、胸の内に残り続けている違和感というべきか…それに近しいしこりのような疑問点はいつまで経っても消えてくれない。


「…まっ、こればっかりは仕方ないよ。私も今度それとなく聞いてみるからさ。私だけならまだしも、日依の方にまで干渉してきたんなら黙ってばかりもいられないし…」

「え、いいの? …大丈夫?」

「……本音を言えば、今更こっちから距離を詰めるのは怖くもあるよ。だけどそんな弱音を言ってる状況じゃないし、あっちが私に興味なんて無くても話くらいはしてくれるでしょ」

「うぅん……そうだね」


 三人寄れば文殊の知恵、なんて言われたりもするが残念なことに今ここに居るのは人生経験も不足している女子高生がたったの二人だけ。

 事態を快方に向かわせてくれる妙案が奇跡的に湧き出てくるわけもなく、佳澄が母に問いただしてくれると言ってくれたのでそちらの成果に期待するしかなさそうだ。


 ──ただやはり、拭いきれない違和感だけは日依の胸に取り残されたままであったが。


 果たして本当に、佳澄の母は…菫は()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。




「にしても、すっかり疲れ切っちゃった感じだよ…日依にも迷惑かけて──…って、これはもう言わない約束だったね」

「ん、そうそう。あたしは佳澄さんにそんなこと言って欲しいわけじゃないんだから、下手に遠慮なんてしなくていいんだよ」

「…日依は強いね、私ばかり助けられちゃってるもん」


 目の前にそびえたつ、解決の手立てすら掴めない難問に頭を悩ませていた彼女らであったがそれも現在の状況では手の打ちようもないと二人揃って悟った。

 そしてそんな窮地に立たされてしまえば嫌でも現状が詰んでいることは理解出来てしまうため、今ばかりは少し諦める選択肢も肝心なのかもしれない。


 どうせ焦ったところでこれといった結論が出るような話題ではないのだから、いずれ明確な事実に辿り着ければラッキー程度の認識でいた方が気も楽になる。

 よって必死になりすぎるのではなく適度に肩の力を抜き、佳澄の一件はひとまず隅に置いておくこととした。


 すると佳澄も今度は…うっかり漏れだしかけた発言をあと一歩のところで留めることには成功したものの、俯きながら日依への感謝を言葉にしてくる。


「大したことはしてないつもりだよ。実際あたしがしたことなんてたかが知れてるし」

「いいや、そこじゃなくてさ……ほら。さっき言ってくれたことがあるじゃん? それが嬉しかったからねぇ…」

「…? あたし、そんな良いこと言ってたっけ…?」

「もう忘れちゃったの? しょうがないなぁ…じゃあ教えてあげるから、今度はしっかり覚えておいてよ?」


 そして告げられてくるのはひたすらに日依へ抱かれた純粋な謝意であり、薄く微笑みながら語り掛けてくる彼女の表情には憂いの欠片も残されていない。

 ……が、そのどさくさに紛れて呟かれた一言。


 佳澄から言及されてきた、日依が()()()()()()()()とやらに関しては何か特別なことを口にした覚えもないので思わず首を傾げてしまう。

 しかし、これもどういうわけか…その答えを教えてくれると言う佳澄が露わにした感情はどう見ても、彼女を揶揄おうとする小悪魔的な色が滲み出ていた。


 そうしていつの間にか日依の耳元まで近づいてきていた佳澄が吐息混じりに囁いてくるのは、こんな文言である。


「日依ったら、さっき私のことを──()()()()なんて言ってくれちゃってさぁ? それは一体どういう意味で宣言してくれたのかな…?」

「へ? どういう意味って………はっ!?」


 …ニヨニヨと、日依を横から見つめながらそんなことを口にしてくる佳澄の言葉に込められた意味は一瞬だけよく分からなかった。

 文章自体はおそらく、先ほど日依が佳澄に言い聞かせていたものとほとんど一致したものであると思われるが何故それを繰り返してくるのかと疑問を抱きかけて…向こうが強調してきた、『大切な人』の意味を理解した。


 言われてみれば日依が佳澄のことをそんな相手として認識していると断言したような気もするが、よくよく考えてみるとそれはまるで特別な相手──より厳密に定義すれば()()にあるような相手だと発言をしたように捉えられても不自然ではない。


 もちろん本来の意図とは全く違うし、日依がそのワードを口にした意味は単に級友として心許せる相手であると伝えたくて言葉にしただけだ。

 しかし向こうにしてみれば日依の発言の意図など聞かされていないので、妙な勘違いをさせてしまった可能性も大いにある。


 ……いや、あるいは勘違いなどではなくもっと単純に全てを分かった上で囁いてきた線も残されているが………どちらにしても深い意味はないのでその点はすぐに否定しておかなければ。


「そ、そういう意味ではないからね!? あたしが言いたかったのはあくまでクラスメイトとして素を見せられる人が佳澄さんだって話で…!」

「うぅ~ん……まさか日依にそこまで熱烈に想われていたとは。こうなると私の方も覚悟を決めるしか…」

「だから違うよ!? …あぁもう! 佳澄さん、絶対にあたしを揶揄って遊んでるんでしょー!」


 だがその程度でどうにかなるほど甘い相手でもなく、むしろ強く否定すればするほどに調子づいて佳澄の言葉は力を増していく。

 その度に日依の余裕ある態度は端からボロボロに切り崩されていき、興奮からか真っ赤な顔をしてまで否定の言葉を全力で放っていく。


「……ぷっ、あっははは! ごめんごめん! 日依が変なこと言ってくるもんだからちょっと揶揄ってあげたくなっちゃったんだよ。許して?」

「………いいけど、次やったら許さないからね」

「それであっさり許してくれるところが優しいよ。それと、あと一つだけ日依に言いたいこと──ううん、ちょっとした()()があるんだけど言ってみてもいい?」

「提案…? まぁ内容次第だろうけど、いいよ。教えて?」


 しんみりとしていた部屋に響き渡る佳澄の笑い声。

 顔を赤く染めて憤慨する日依の態度を面白おかしく感じたのか、喉の奥から張り上げられた声は気のせいか馬鹿にされているのではないか…なんてことも思えてきてしまう。


 幸いすぐに謝ってもらえたので話が拗れずに済んだが、そうしてもらえなければどうなっていたことか。

 ……ぼそっと佳澄から、自分が暗にチョロいと言われているような気がしないでもなかったがそこは今は無視。


 それよりも瞳の端に笑ったことからこぼれ出た涙を浮かべつつ、口角も上げていた佳澄から言及されてきたこと。

 またもや唐突な提案とやらを聞く姿勢に移行したのでそちらに意識を集中させる。


 すると彼女の口より語られてくるは、少し要領を掴みづらいものとなっていた。


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