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フードを外した彼女が気の済むまで私を堕としに来た  作者: 進道 拓真


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プロローグ


 ──人間関係っていうのは、本当に複雑極まりない。


 一口に誰かとの関係値と言っても単なる友人から親友、果てには恋人から夫婦といった浅い仲から切っても切り離せない縁を象徴するレッテルが存在している。

 ただ、そんなのは所詮人が決めただけの名称に過ぎない。


 たとえ言葉では説明しきれない様な入り組んだ間柄であろうと、当人たちの間で納得できる事情があるのならこの枠に当てはまらない関係を持っていたとしても不思議ではない。

 だって、まさに()()()()がそれなのだから。


「うーん……退屈だ。ねぇ日依(ひより)、何か面白いことあったらしてくれない? あるいは面白い話でも可だけど」

「いきなり振る話にしては無茶ぶりのレベルが高すぎるよ…もう少し内容を具体化して」

「じゃあ今出前で注文したピザが少しずつ冷めていく最中に暇を持て余してしまった私が、思わずお腹を抱えて笑い出すほどにとびきりの話をくれたらいいよ」

「……あたし、佳澄(かすみ)さんが笑ってるところなんて見たことないんだけど」


 今しがたシンと静まり返った空間の中央で、一つ屋根の下に堂々と居座りながら目の前に置かれたデリバリーピザを口に運んでいた少女。

 そしてそんな彼女からやけに無謀な要求を投げかけられていた、日依と呼ばれた少女は困惑しながらもそれは無理だと返答していた。


 今日は週末。現在高校一年生という青春真っ只中の彼女らはもうじき十一月も半ばを超えようかというこの時期に同じ家で時間を過ごしている。

 ただ、その雰囲気も独特なもので…日依から佳澄と呼ばれた、発育の良いスタイルをオーバーサイズのパーカーで隠しながら。

 しかし見る者の目を否応なしに惹き付けていく顔の良さだけは全く隠れていない彼女は、何とも怠惰な姿勢でこの場に居座っている。


 一応立場としては佳澄の方が押しかけている客人のはずなのでここまでふてぶてしい態度を維持していれば本来の住人である日依から文句も飛ばされてきそうなものだ。

 だが、日依は佳澄の態度に呆れこそしているもののそれに特別何かを言ってくる気配は感じられない。


 しかしそれもそのはずだ。

 何故なら、この過ごし方は彼女らの間で取り決められた明確な()()()なのだから。


 『佳澄はこの家で自由に過ごしても構わない』という、最初に定められた二人だけに通用する規則。


「まぁまぁ…そんなら早く始めちゃおっか。今日の…『お礼』をさ」

「お礼、ねぇ……分かったよ。今日は何するの?」


 ──そして、これもまた二人だけで決めたルールのもう一つ目。


 あくまでもお互いの立場としては佳澄が日依の自宅に居座り、それを甘んじてこちらが認めているという状況。

 だが見た目とは裏腹に、意外にも義理堅い性格をしていたらしい佳澄はただ自分が恩恵を享受するだけの立場に置かれることを良しとしなかった。


 なので、これはそんな彼女が納得できるように設けられた折衷案。


 自分は日依の家にお邪魔する代わりとして、佳澄は彼女が喜べるような『お礼』を一日一つだけしてくれるというもの。

 そして、『お礼』の中身はこれといって決められた内容があるわけでは無い。


 その日その時によって佳澄の気分か独断でされることは決められ、それを日依は礼という形で恩を返されるのだ。

 …けれども、一つだけ。


 唯一日依が疑問を口を挟みたい点があるとすれば…やはりここだろうか。


「それはやってからのお楽しみ。とりあえずこっち来てみて?」

「…はい、これでいい? にしても何をするのかくらい教えてくれても──…ひゃっ!」

「──はーい、捕まえた。日依も身体が軽いよねぇ…もう少し量を食べた方が良いと思うよ」

「……あのね、予告なく引っ張るのはやめてくれないかな。危ないから」

「ごめんごめん。でも…こういうの、嫌いじゃないでしょ?」


 自分の傍に近寄ってくれと頼まれたので怪しく思いながらも日依が指示通りに歩み寄って行けば、それを確認した佳澄が何故だかしたり顔を浮かべ…彼女を突然()()()()()

 唐突にそのようなことをされれば当然ながら、日依はバランスを崩して半ば彼女を押し倒すような体勢になってしまう。


 しかし佳澄はそれを退かすどころかむしろ口角を上げて迎え入れており、その背中にそっと腕を回すと彼我の距離を更に縮めていった。


「全くもう…この前みたいなことは駄目だからね。…どうせあたしが嫌だって言ってもやるんだろうけど」

「いいや? 日依が本気で嫌がるなら私も流石にここまでの『お礼』はしないよ。私がするのはどこまでいっても、そっちが喜んでくれそうなことだけだし」

「………別に、そういう趣味を持ってるつもりは無いんだけど」


 普段はフードに覆われているので見えづらい端正な顔つきも、今だけはその全容を露わにしている。

 こうして間近に迫った相手の見惚れてしまいそうな魅力が込められた顔を見て…日依は、内心で溜め息を吐きそうになる。


 …そう、彼女が一つだけ不満を持っているとしたら()()


 既にこんな生活を始めてから数週間が経過してしまっているので今となっては日依も若干慣れ始めてしまったが、どういうわけか佳澄は『お礼』と称してやたらとこちらを()()するような言動を繰り返してくるのだ。

 とはいっても流石に限度は弁えていたのかそこまで過激な行動は今のところ見られず、あったとしてもせいぜいがちょっとしたスキンシップ程度である。


 …けれども顔面偏差値の高い佳澄からそのようなことをされれば、()()()()()を持った覚えもない日依であっても少し揺らいでしまいそうになったりする。


「だったらいいんじゃない? これは私からの『お礼』なんだから…素直に受け取ってくれたらいいよ。落ち着いて…こっちに身を委ねてくれたらね」

「……あんまり激しいのは無しでお願い」

「はいはい。───んっ」

「…!」


 されどあちらはそれに対して何か特別なことを想った様子もない。

 まるでこの少し過剰なスキンシップを当たり前のもののように受け入れ、日依の後頭部に手をやったかと思えば……そのまま自分の元へと近づけさせる。


 そうして二つの影は──他の誰もいない空間の中で、静かに重なっていた。



 彼女らの距離感は世間と比較しても、一般的な視点からして見ればあまりにも近いように見える。

 だが、日依と佳澄は別に友人同士というわけでも無い。

 無論、恋人という親密な仲でさえ無い。


 二人の間にあるのは利害の一致から生じた貸し借りの繋がりであって、そこから波及したルールの範疇でこんなことをしているだけだ。


 ……ただ、それでも。


 明確に名付けられた関係性など無くとも、たった一つの『お礼』から展開される佳澄の行動の数々は確かに日依の心臓の鼓動を早めさせていった。

 時に軽いスキンシップで、時にはまるで恋人でもしない様な過激なアプローチを仕掛けられ。


 充足感に溢れ、仄かに刺激的で、それでいて…他の誰にも当てはまらない、二人だけの秘密の関係性。


 それが始まる起点となったのは、これより数週間ほどの前のことだ。


日依と佳澄、二人の少女の間で繰り広げられる秘密の日常です!


そんな長くはならないはずですが、良ければ見守ってあげてくださいませ。

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