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① オタクな転生王子だけど地味に努力してます!~今日も筋トレと魔法修行~  作者: あんてな
第四章

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第二十五話

 王城の朝は早い。

 まだ太陽が城壁の上に顔を出す前から、回廊には人の気配が満ちていた。

 出発の準備に追われる侍女たち、護衛の騎士たちの足音。

 それらを遠くに聞きながら、レオンは自室で外套の留め具を整えていた。

 「……よし」

 鏡に映る自分は、いつの間にか少し背が伸びている。

 武闘会への招待。それは名誉であり、同時に責任でもあった。

 扉がノックされる。

 「レオン様、皆様がお待ちです」

 案内されて向かったのは、王城正門前の広間。

 すでに家族が揃っていた。父王、母后、兄姉たち。

 そして、護衛として同行するギルド長ガルドの姿もある。

 

 「来たか、レオン」

 父王は穏やかに微笑んだが、その目はいつもより少しだけ厳しい。

 「いよいよ、だな」

 「はい」

 短く答えながら、レオンは一人ひとりの顔を見た。

 どこか誇らしげで、どこか心配そうな視線。

 「無理はするなよ」

 長兄ライナルトが、腕を組んだまま言う。

 「獣人の武闘会だ。相手は本気で殴ってくる」

 「それは、俺も分かってます」

 「分かってない顔だな」

 くっと笑いながら、次兄シリルが肩をすくめる。

 「でもまあ……お前なら、大丈夫だろ」

 「…兄上?」

 「何だ?」

 「それ、雑じゃないですか」

 そのやり取りに、場が少し和む。

 ソフィアは一歩前に出て、静かに言った。

 「レオンあなたは、いつも自分を低く見積もりすぎです」

 「姉上……?」

 「だからこそ、危ない。でも」

 彼女は微笑む。

 「あなたが逃げないことも、分かっています」

 ミリアは両手をぎゅっと握っていた。

 「レオンちゃん……ちゃんと帰ってきてね」

 「もちろん」


 そう答えた瞬間

 「では、ここで一つ、伝えておくことがある」

 父王が、声を整えた。

 広間の空気が変わる。

 「今回のアニマディア王国への訪問だが……

 本来私がともに行く予定だったが…」

 レオンは一瞬、目を瞬かせる。

 「しかし、国内の政務と情勢を鑑み、

 別の者を同行させることにした」

 そう言って、父王は視線を横に向けた。

 そこに立っていたのは

 「……フィリア?」

 エルフ王国の王女、フィリア・エルディア。

 金緑の髪を結い、旅装束に身を包んでいる。

 「当日発表って、聞いてないんですが」

 「そうだな」

 父王は悪びれもせず頷いた。

 「先週には決まっていたのだ」

 「ええっ!」

 レオンが抗議しかけたところで、フィリアが一歩前に出て、軽く頭を下げた。

 「突然の発表で、驚かせてしまってごめんなさいですの、レオン」

 その声は穏やかで、しかしどこか覚悟を帯びている。

 「私はエルディア王国を代表する来賓として同行しますの。……それと」

 一瞬、言葉を選ぶように視線を伏せてから、彼女は続けた。

 「あなたの父上から、頼まれました」

 父王が、静かに口を開く。

 「フィリア殿にはな、アニマディア王国滞在中…」

 そして、はっきりと言った。

 「レオンを、任せる」

 「……え?」

 レオンだけでなく、兄姉たちも目を見開いた。

 「それはどういう」

 「護衛という意味ではない」

 父王は首を振る。

 「同行者として、同じ目線で見てほしい。必要なら止めてほしい」

 フィリアは、まっすぐにレオンの家族を見渡した。

 「私でよろしければ」

 母后が、そっと歩み寄る。

 「フィリアちゃん」

 「はい、王妃様」

 「この子は…優しくて、真面目で少し無茶をします」

 「…はい」

 「ですので」

  母后は、微笑みながらも真剣な眼差しで言った。

 「どうか、隣で見ていてあげてください」

 フィリアは一瞬、胸に手を当て――

 「…お任せください」

 そう答えた。ソフィアが、ふっと息を吐く。

 「レオン。これで一人じゃないわね」

 「姉上まで…」

 ライナルトは苦笑した。

 「王女直々に面倒見てもらえるとはな」

 「ちょっと、からかわないでください」

 フィリアは軽く頬を染めながらも、視線をレオンへ向ける。

 「レオン」

 「……はい」

 「武闘会も、旅も無事に終わらせましょう」

 その言葉は、命令でもお願いでもなく。

 共に行く者の言葉だった。


 父王が、最後に告げる。

 「出立だ。誇りを持って行け、レオン」

 城門が開く。

 新たな旅の始まりを告げるように、朝の光が差し込んだ。

 レオンは一歩踏み出し、

 その隣に並ぶフィリアを、ちらりと見た。

 「……よろしくお願いします」

 「こちらこそ」

 こうして武闘会へ向かう一行は、王城を後にした。


 それぞれの想いを胸に、まだ見ぬアニマディア王国へと向かって。


 国を出て二日ほどたった。

 アニマディア王国の外壁が見えた瞬間、レオンは思わず息を呑んだ。

「……城、というより」

 それは要塞だった。

 切り立った岩盤を削り出したような城壁。

 無駄な装飾はなく、だが威圧感だけは圧倒的。

 人間の城が守るための建築だとすれば、

 ここは明らかに戦うために存在する街だった。

 「見事だろう」

 御者台に座るガルドが、低く笑う。

 「石も木も、全部この土地のものだ。

 獣人はな、他所から材料を運ばない。

 この地で生き、この地で戦う」

 城門の前には、すでに多くの者が集まっていた。

 人間、ドワーフ、エルフ。そして獣人。


 獣耳、尾、牙、鱗。

 種族ごとに異なる特徴を持ちながら、共通しているのは闘気(オーラ)の密度だった。

 無意識のうちに、レオンは息を整えていた。

 誰もが、うっすらとした闘気(オーラ)を纏っている。

 それは威圧ではない。

 呼吸のように自然で、まるで心臓の鼓動が外に滲み出ているかのようだった。

 「すごい……」

 隣でフィリアが、小さく呟く。

 「エルフの国では、精霊の気配が常に満ちていますけれど…

 ここは命そのものが強いですの」


 言葉通りだった。

 歩いているだけで、地面が脈打っているような錯覚を覚える。

 空気が重いわけではない。

 だが、油断を許さない張り詰めた気配がある。

 「人間の街とは、全然違いますね」

 レオンがそう言うと、ガルドは頷いた。

 「獣人にとって、武は日常だ。

 争うためじゃない。生きるための技術だからな」


 城門が、ゆっくりと開いた。

 門番は、二人。

 一人は、白い毛並みを持つ狼獣人。

 もう一人は、黒い鱗に覆われた蜥蜴獣人。

 二人とも、武器は携えていない。

 (武器が……要らない、か)

 闘気の密度が、まるで違う。

 戦えば、瞬時に距離を詰め、致命の一撃を放てる

 そんな完成された身体。

 「来賓か?」

 狼獣人が、低く問いかける。

 ガルドが前に出て、簡潔に答えた。

 「グラディア王国より来た。武闘会招待客だ」

 狼獣人の視線が、レオンへ向く。

 耳が、ぴくりと動いた。

 「……若いな」

 それだけ言って、目を細める。

 だが、その視線は侮蔑ではない。

 強さを量る者の目だった。

 「お待ちしておりました。お通りください」

 門が、完全に開かれる。

 中へ足を踏み入れた瞬間

 ざわりと、無数の視線が集まる。


 商人、戦士、子供。

 誰もが、自然体でありながら、どこか鋭い。

 「……視線が、痛いですね」

 レオンが苦笑すると、フィリアが小さく微笑んだ。

 「好奇心だと思います」

 「好奇心?」

 「ええこの国では、強さは誇りですから」

 通りの中央では、獣人の子供たちが取っ組み合いをしていた。

 止める大人はいない。怪我はしていない。

 力の入れ方を、ちゃんと教え込まれている。

 「教育からして、違うな……」

 ガルドが、感心したように呟く。

 「力を恐れない。それがアニマディアだ」

 レオンは、胸の奥に小さな震えを感じていた。

 恐怖ではない興奮だ。

 (ここで、武闘会が開かれる……)

 闘気と命が渦巻く国。

 祭りのようでありながら、どこか張り詰めた空気。


 ほんの一瞬。

 街の奥から、違和感のある闘気が、ふっと立ち上がった気がした。

 すぐに消える。

 (……気のせい、じゃないな)

 レオンは、何も言わなかった。

 だが、隣を歩くフィリアが、僅かに足を止める。

 「……今、何か」

 「ええ」

 視線を交わし、二人は黙って前を見つめた。

 アニマディア王国、武闘会の国。

 その表情の裏で、確実に何かが蠢いている。

 それを、まだ多くの人々知らない。

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